26-1
目の前にゴーストがいる。
いや、足があるからゴーストではない。
では、こいつはなんだ?
店のドアを開けて立っているゴーストのような男に身構える。
不気味にゆらりゆらりと揺れている。
ちょうど、誰もいない。
ワンコロとロボ丸は武御名方様の奥様への賄賂を作るために市場に買い物に出掛けた。
ロッテはたぶんナーガのところだろう。
ケサランと杉玉はユグドラシルの様子を見に行くと言って朝からいない。
俺は弱いからな。
狭い店の中で刀を振り回すのは技量が未熟だから使えない。
魔法で拘束するべきか。
ドアを開けて突立っているゴーストのような男を睨む。
今なら風魔法で店外に吹飛ばして一気に家の周囲に障壁を張れそうだ。
魔力を使うけれどこちらの方が安全だ。
転移用の魔方陣があるから家の中に俺がいる限り皆はいつでも帰還可能だ。
決定に3秒ほどかけてしまった。
かなりの時間ロスだ。
俺はゴーストのような男に魔法を|ぶつける準備をした。
「水、もらえる、かな?」
たどたどしく男が言葉を発した。
こいつは、人間か?
待っていろ、と言って俺はコップに一杯の水を汲んでくる。
受け取ろうとする男の手は震えていた。
中毒症状か他のなにかか?
不思議な男はコップを受け取り一気に水を飲み干した。
男は一息ついた後、震える声で尋ねた。
「ここに知合いがいると思って来たんだ。
ここ家主は誰?」
ここ家主は俺だと答える。
男は目を閉じて深呼吸をした。
そして、目を閉じたまま
「ここ前の家主は?」
と尋ねた。
名前も覚えていないおっさんだったが近所の人ならいろいろ知っているかもしれない。
俺は正直に答えた。
男は目を開けると口だけにっこり笑って言った。
「悪いがしばらくここに居させてくれないか?
もう、動けないんだ。」
そのとき、店の外から大きな声がした。
ワンコロの声だ。
「ずっるぅーい!
カイだって変な人を連れて来ているじゃん!
僕が今度素敵なのを連れて来ても文句いわないでよね!
ロボ丸もなにか言って!」
そう、こいつは変なんだ。
実体のないゴーストに見えたのは多分動きがちぐはぐしている為。
まるで死後硬直した死体のような。
それじゃ、ゴーストじゃなくてゾンビだろ。
俺は、自分の直感がめちゃくちゃなことに苦笑した。
ワンコロが人って言っているし、ロボ丸も否定しない。
多分、こいつは人だ。
俺はワンコロに招き入れるつもりがないことを説明しようとした時、
「君達も変じゃないか。
じゃあ、変なものが一つ増えても一緒だよね。
これから宜しく。」
と男がワンコロとロボ丸に告げる。
ワンコロが男に全然変じゃないなどといろいろ言っている。
ロボ丸がやさしくワンコロを取成している。
変?
ワンコロは獣人みたいになっている。
そのことを言っているのか?
それよりも人にしか見えないロボ丸にも変だと言っている。
ロボ丸がロボットということに気が付いたのか?
心臓が汗をかいた。
なにも言えない俺に男が問い掛けた。
「君は日本人?」
俺の祖母が日本人だ。
俺は日本人の血を引くクオーターになる。
でもどこで?
「あぁ、警戒しなくていいよ。
カイっていうのは苗字かい?名前かい?
確か、日本だとどちらもあるんだよね。」
海の意味だったり、犬の名前みたいだったりと口だけ笑いながら男が続ける。
俺は、祖母が日本人だから祖母も祖父も名前を呼びやすいように名付けられたようだと答えた。
もしかして、知識が豊富だからいろいろ変に感じるところがあるのかもしれない。
とにかくこいつはヤバい臭いがする。
うちは隠すことしかないからな、この男に注意しなければ。
「私、これからかの方の奥様への手土産を作成するためにいろいろ準備をいたしたいと思います。
お楽しみのところ大変申訳ございませんが、今日はお引取りいただいてもよろしいでしょうか?」
と、ロボ丸が男に帰ることを促してくれた。
さすが、ロボ丸様!空気の読めるロボ!
男はまた来るよ、と言って立去ってくれた。




