24-1
目の前にギルドのお偉いさんと魔法省のお役人さんがいる。
「大変申し訳ございませんでした。
すぐに書類を提出します!」
俺を睨みつけているギルドのお偉いさんと魔法省のお役人さんに向かって深々と頭を下げる。
ケサランと杉玉が召喚獣なのに登録されていないようだと通報があったらしい。
あいつらは召喚していないからすっかり忘れていた。
とりあえず、口頭のみの厳重注意ということで終わった。
ソファに深々と腰掛けるギルドのお偉いさんと魔法省のお役人さんに、せめてもの心づけとしてロボ丸特製チーズケーキをおすすめした。
いろいろバレたらやばいので、普通の材料で普通に作ってくれと念を押してあるからたぶん大丈夫なはず。
濃厚なチーズにシナモンのアクセントがたまらないと魔法省のお役人さんが大絶賛している。
「それよりもこのコーヒーはどこで入手した?」とギルドのお偉いさんが聞いてくる。
ここら辺では飲んだことのない味らしい。
ロボ丸先生の用意したコーヒーだから知らないよ!とは言えない。
豆はアーニーさんのところのでトリプル焙煎にしているから深みとかコクが違うのかもしれないですね、なんて適当なことを言ってみる。
この調子だと、もしかしたらチーズケーキも俺の思っている普通じゃないのかもしれない。
あとで「普通」についてのすり合わせをしなければ。
とりあえず、いろいろバレないうちにお引き取り願わねば。
俺はさりげなくキッチンに行き、ロボ丸にケーキとコーヒーのお土産を包むように指示をする。
コーヒー豆を持たせるとヤバそうなのでカップにドリップしたコーヒーを入れてもらった。
俺は二人に渡すお土産を持ち、急いでリビングに戻る。
「書類は2,3日中に提出します。
ご足労いただきましてありがとうございました。」
俺は手土産を渡すと、再度深々とお辞儀をしてギルドのお偉いさんと魔法省のお役人さんにお引き取りいただいた。
店のドアがパタンと閉じたのを確認して、俺はホッと一息をついた。
ケサランと杉玉と一緒に2階に隠れていたロッテが現れた。
「カイさん、お疲れ様。」
ロボ丸がキッチンからコーヒーを人数分持って現れた。
「こういう時は一旦座って落ち着くと良いと聴きます。
座ってお茶にしましょう。」
俺たちはリビングのソファに座った。
落ち着いた俺はロボ丸の入れてくれたコーヒーを飲む。
いつもの美味しいコーヒーだ。
俺はロボ丸に先ほどの呼ばれない客に出したコーヒーと同じものか尋ねた。
「カイ様が普通と言われましたので、いつものコーヒーをお出ししました。
いえ、そちらの豆はアーニー様のお店のものでございます。
鮮度と焙煎を少々こだわりまして、浅煎りと深煎り、そして本日煎ったばかりの浅煎りのものを少々混ぜたトリプル焙煎でございます。
お客様との会話を耳に致しました時は、さすがカイ様!と感心致しました。
いつもお出ししているコーヒーに何もおっしゃらなかったのは、やはりお見抜きになっていらっしゃっていたからだったのですね。」
最近、私が試行錯誤いたしましても誰もレシピを伺っていただけないのは見抜かれていたからなのですね、とロボ丸が顔にハンカチを当てながら泣いている。(たぶんウソ泣き。)
訂正するのは可哀想なので、さりげなく話題を変えることにした。
「召喚獣の申請書は書いたことがないんだよなぁ。
師匠が召喚獣を持っていたけれど、そんな話していなかったし。」
ロッテが話しに乗ってくれた。
「そのお師匠さまの召喚獣ってどんなのだったんですか?」
私、召喚獣を見たことがなくって。」
召喚獣には大まかに二種類ある。
・魔方陣などによって特定の個体を召喚したもの。
・魔方陣などによって特定の個体を召喚できるようにしたもの。
前者については召喚用の魔方陣を使って指定した魔獣を呼び出す。
門派によって異なる門外不出の召喚獣だ。
最初に魔方陣で呼び出す際に契約を結ぶことになるので魂に契約印を押すことになる。
後者については捕えた魔獣などを契約によって従える。
そのため体表に契約印を刻むことが多い。
「師匠の召喚獣は変わっていて、首輪に召喚用の魔方陣を刻んでいた。
対になる魔方陣を首から下げていたよ。
契約用兼召喚用の魔方陣を魔獣に刻むときは魂が拒否反応を示して苦しむらしい。
師匠はやさしいからティムに魔方陣を刻まなかったのだと思う。
ティムっていうのは師匠の召喚獣で黒猫みたいな魔獣だったよ。
精霊がどこかしこにいる現実を知った今は、ティムが魔獣だったのか精霊だったのか分からんが。
人間の言葉を理解しているかのように振る舞う可愛いやつだった。」
ティムは今は居ない。
あの頃を思い出して少し寂しくなった。
「召喚獣は知ってのとおり、契約者とは魂で会話ができる。
だから、契約者じゃない俺の話も気持ちも分かるみたいですごく楽しかったよ。
一緒に師匠の言いつけをサボった時に見つかって怒られちゃってさ、
追加で仕事を増やされた時にそばにいてくれて手伝ってくれたんだ。」
と言って微笑んでみせた。
ケサランと杉玉が声を上げる。
「我にその首輪を!」
「我にもその首輪を!」
もちろん、と俺は答える。
「えぇーっ、ずるい。僕も欲しい!」
わかったわかったとワンコロをなだめる。
私も!とロッテが手を上げた。
大変姿勢がよろしい。
「では、カイ様を慕うものすべてにお配りしていただかないといけませんね。」
私も追加してください、とロボ丸が提案する。
わかってはいるつもりだったけれど、改めて自分が好かれていると感じることがとても頑張れることだと思った。
たぶん、師匠の作った召喚獣用の首輪は召喚できないようにしてあった。
ぱっと見たところ、魔獣か何かを召喚出来そうな魔方陣が描かれていた。
しかしよく見ると一か所、文字が反転していて魔獣が召喚出来そうにない。
ペンダントトップにするくらいだから非常に細かい文字で刻まれているのでよく見ないと気が付かない。
もしかしたら、誰かがこれ以上魔獣を召喚しないようにと願っていたからかもしれない。
師匠は強くて頑固で言い出したら聞かない人だったけれど、誰にでもやさしい人だったからありえるよなぁ。
俺は師匠を思い出しながらみんなのための召喚獣用風ペンダントトップを作成する。
師匠の好きな紫色に見えるように魔力をコーティングした特別製だ。
表面には師匠特製のなんちゃって召喚獣用魔方陣を、中には呼び出された人の元に転移する魔方陣を刻んである。
こういうギミック、師匠は大好きだったなぁ。と懐かしくなる。
暗記ペンという書いた文字を消したり浮かべたり自由にできるペンを作ったとき、もしものために書いた文字を記録できる機能を付けた。
つまりは、暗記にも使えるが暗記をするために書いた文字を呼び出せる自動カンニングペンというわけだ。
俺はこれを師匠に自慢したときに、大爆笑されながら怒られた。
試験のときに、自動で消えるインクを使うと失格になると。
使えないけれど発想はめちゃくちゃ良いと。
もしも、もしも師匠が戻ってきたときに絶対欲しがるから師匠とティムの分も作っておこう。
そうだ、また居なくなると大変だから呼び出すこともできるし会いに行くこともできるようにしよう。
武御名方様はロボ丸のごはんが大層お好きだからこちらをお渡ししたらいつでも来られるとお喜びになられるだろう。
俺はせっせとペンダントトップを作り続けた。




