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シナモンの懐かしい匂い。
おばあちゃんが焼いてくれたキャロットケーキの匂いがする。
おばあちゃんのキャロットケーキは森で採れたクルミとおうちの畑で採れたニンジンがたくさん入っている。
にんじんの甘みとクルミの香ばしさがたまらないシナモンが香るスパイシーなケーキだ。
美味しくなるコツはニンジンを細かく細かく刻むこと。
面倒がってすりおろしたニンジンを使ってしまうとべっとりするし甘みも足りないらしい。
そして、香ばしくなるようにクルミはじっくりオーブンで焼いたもの。
上に乗っている白いクリームチーズのフロスティングはちょっと苦手だったけれど、大人になったら克服できるはず。
おばあちゃんのキャロットケーキがロッテは大好きだった。
そうだった。
今日はおばあちゃんに内緒で冒険に行く日だった。
腰が痛いって辛そうにしているおばあちゃんのために魔法薬の材料になる薬草を採りに行く日だった。
本当だったらこんなところにはないはずの可愛い白いお花で、
「世界がぐちゃぐちゃに混ぜられちゃったから生えているのかしらね。」
と、おばあちゃんが言っていた薬草だ。
名前を忘れちゃっていたその薬草は根っこをしっかり煎じると腰痛に効くんだよと教えてくれた薬草。
おばあちゃんのために今日は薬草を採りに行くのだ。
場所はしっかり覚えている。
森の奥深く、毎年コケモモを採りに行く途中にある大きな木の根っこのところだ。
ロッテはおばあちゃんの焼いてくれたキャロットケーキと採取用のスコップをバックに詰めて、
「森に行ってくるね!」とおばあちゃんに告げておうちを出たのだった。
入り組んだけもの道を抜けて、
コケモモの木の途中に生えている大きな木の下にロッテは迷わずに来ることができた。
毎年通っている道だ、間違えることはない。
初めて近くで見る大きな木。
いつもは横を通り過ぎるだけだったからだろう、名前も知らない聞いたこともない大きな木をゆっくりと眺めた。
村からでも存在が分かるくらい大きな木なのに不思議と誰も話題にしない。
冬になっても緑の葉っぱの大きな木は、秋になっても実が生らない。
きっと実が生らないからみんな話題にしないのかも。
ロッテはそう思っていた。
それよりも薬草だ。
それは小さくて可愛い白いお花の咲く薬草だった。
おばあちゃんは根っこを煎じるって言っていたはず。
ロッテは丁寧に丁寧に薬草の周りをスコップで掘り下げて根っこごと採集した。
ところが、掘ってみると思っていたより根っこが細くて短い。
1本しか生えていないから薬にするには足りないかもしれない。
ロッテは不安になって他にも同じ薬草が無いか探し回った。
ないな。
ないな。
みつからないな。
たくさん探したのに見つからない。
ちょっと休んでおばあちゃんのキャロットケーキを一切れいただこう。
疲れたロッテは腰かけられる場所を探して辺りを見回した。
目印にしていたはずの大きな木が見えない。
ぞくっと寒気がした。
迷子だ。
雨音がし始めた。
雨がポツリポツリと降って来たようだ。
どうしよう。
どうしよう。
どうしよう。
こんな時は動き回ってはいけないっておばあちゃんが言っていた。
ロッテは近くの比較的立派な葉っぱの木の下に濡れないように小さくなった。




