本当に大切なもの
秋
時間がすぎるのはあっという間だった。
部活は引退を迎えて、午後はバイトの毎日。
(あ、今日はバイトおやすみだ)
HRが終わって、帰りの支度をしながらスケジュール帳を見た。
そして、窓から外を見ると雨が降っている。
(傘持ってきてないよ……)
朝は晴れていたからいらないだろうと、傘を置いてきてしまった。
『真姫と他月バイバイ!』
『おう!じゃーな』
『バイバーイ!』
『恋華!』
教室を出て、龍馬のところに行こうとしたらちょうど龍馬がいた。
『あ、龍馬。今日さ一緒に…』
言いかけた時、龍馬の後ろから女の子がひょこっと顔を覗かせた。
『あのさ、今日こいつと帰っていい?』
『えっと、龍馬くんと同じクラスの高山爽良っていいます!』
髪の毛をおろしていて、可愛い笑顔で自己紹介していた。
『…うん。』
『ホントにわりぃ!じゃ!』
爽良と龍馬は、下に降りていった。
(はあ…雨に当たって帰るしかないかぁ…)
心の中でなにかモヤモヤしていた。悔しいような、寂しいような。
靴を履き替えて、外に出るときには本降りに近かった。
(とりあえず、駅まで走って行こう!)
リュックを肩から下ろして、頭の上に持っていき、走った。
『はぁ…はぁ…』
結局、駅まで持たず学校の近くの図書館で雨宿りをしてしまった。
カーディガンを来ていたが水が染み込んで寒かった。
(なんで…)
恋華は嫉妬していた。
(爽良っていう子の方が可愛いし、頭良さそうだし、性格だって…)
悔しくて手に力が入った。
『意味わかんない…』
(龍馬は、もう私のこと飽きちゃったのかな。もう一緒にいてもつまらないのかな。)
濡れた髪から落ちてくる水滴と、自分の目から出た涙が混じりあった。
『どうしよう…』
(このまま雨が止むまで、待つのは嫌だし。だからといってまた濡れて帰るのも嫌だし…)
体が火照って、頭がズキズキと痛くなってきた。
少し息も荒くなってきた。寒くて体が震えた。
(もう風邪ひいたのかな…)
柱にもたれかかった。
『龍馬…』
電話をして助けを求めたかった。
携帯を取り出して、電話帳を震える手で押した。
「りゅーま」と書かれた番号を押して、龍馬に電話をした。
数十秒経って、彼は出てくれた。
『恋華?どうした?』
『龍馬……助けて…』
『え?…』
『寒い…』
とにかく龍馬に来てほしかった。「会いたい」なんて言えなかったから、今の体の現状を伝えた。
『ま、まって。今どこにいる?』
『〇〇図書館…』
『わかった。待ってて。』
すぐに電話が切れた。嬉しくて思わず笑がこぼれる。
『恋華!』
数分経って、龍馬が来てくれた…が
『え…』
龍馬の後ろには、爽良がいた。
『ごめん。爽良がどうしても来たいって。』
(なにそれ意味わかんない。なんでよ…。こっちは辛い思いしてるのに…。)
『バカッ!もういいよ!!』
頭は痛みを増して、よろよろの足を踏み入れ、走り出そうとした。
『あっ…』
体が思うように動かなくて、途中で倒れてしまった。意識が遠くなっていった。
聞き覚えのある声で恋華の名前を必死に呼んでいる人がいる。
『うっ…』
目が覚めるころには、ふかふかしているところに寝ていた。
『恋華…』
起き上がると、龍馬の家のリビングのソファーの上で、龍馬が下で座っていた。
『………』
『ごめん…』
龍馬が俯いた。
『……爽良ちゃんは?』
少しかすれた声で龍馬に聞いた。
『え…?』
『まだ、いるの?』
『………うん。外にいる…』
『そっか』
『でも、俺まだここにいるよ…』
『ううん。女の子は待たせちゃダメ。』
『でも、恋華風邪ひいてる…』
『大丈夫だよ……』
寂しいっていう気持ちに押されてしまう。ホントは大丈夫なんかじゃない。ずっと側にいてほしい。抱きしめてほしい。
『…わかった。辛かったら呼んで。』
『うん…』
龍馬は、立ち上がって玄関に向かって外に出た。
それから何分経っただろうか。
もう1時間経っているような気がする。
ガチャッ
扉が開いて、龍馬が入ってきた。
『ただいま』
龍馬が恋華のほうに近づいていった。
『恋華?』
恋華は毛布に顔を埋めていた。
『……ばか』
少し震えた声で恋華が言った。
『ごめんね。』
『ずっと…ずっと待ってたのに…。爽良ちゃんと一緒に帰るって言った時から寂しくて、この頃2人で出掛けること少なくなったから一緒に帰ろうと思ってて…。ずぶ濡れで風邪ひいて助けてほしくて、龍馬に電話したら爽良ちゃんもいて、すごくショックで…。もう龍馬は私のこと…好きじゃないかなって思っちゃって…。でもそんなこと考えたら胸が苦しくて…』
1つ1つ言葉を言うたびに涙が出てきて、大泣きだった。
『恋華、ホントにごめん。俺なんもわかってあげられなくて、ずっと側にいてあげられなくて、いっぱい心配させて、恋華をいっつも辛い思いにさせて…。でも俺は恋華のことを嫌いになることは絶対にありえないから。これは約束。』
龍馬は、恋華のことを抱きしめた。
抱きしめてくれたのは、久しぶりなような気がして心が落ち着いた。
『風邪、うつっちゃう…』
『大丈夫!俺、風邪ひいたとしてもすぐ治るし』
『龍馬らしいね…』
恋華は、少し微笑んだ。




