温もり
数日経って、恋華は元気になった。
『今日は、創立記念日だから休みか…』
今日は、恋華が通っている高校の創立記念日だった。
『久しぶりにお家の整理しようかな…』
ベッドから起き上がって、リビングに向かった。
(お父さんがいなくなってから、ずっとここに住んでるけど一人暮らしにしては広いなぁ)
部屋は無駄に多くあって、誰かいるんじゃないかと不安だった。
そして、恋華がキッチンを片付けているとき…
『あっ…』
キッチンの上の棚を整理していたら、ノートに手が当たって落ちてしまった。
(料理本…かな?)
ピンク色の少し色あせたノート。
台から降りて、ノートを拾った。
『日記…?』
表紙には見たことがある字で『日記帳』と書かれていた。
恐る恐る、恋華はノートの1ページ目を開いた。
「12月21日。私達の第1子が産まれた。元気な産声を上げて少し安心もした。旦那と名前は何にしようかずっと考えていた。そして、旦那が考えた[恋華]という名前にした。いつか『恋』をして『華』のような美しい子になってほしいという願いで。この子はきっと素晴らしい人生を送ると思う。」
『…お母さん…』
字は、お母さんの字だった。
恋華は、次のページをめくった。
「4月13日。恋華の小学校の入学式。昨日の夜はランドセルをずっと背負っていた。入学式当日は、担任の先生にお名前を呼ばれて元気よく返事をしてたね。他のみんなは、緊張していたけど恋華は自信満々に返事をしていて立派だった。パパに似たのかな?入学式が終わって、手を繋いでパパとママに『いっぱいお友達できたんだ!みんなに元気だね!って言われたの!』ってニコニコ笑顔で言ってたね。」
恋華は黙って次のページをめくった。
「8月。旦那が殺人をしてしまった。恋華はまだ5年生。そのことがわかった夜は旦那と大喧嘩。旦那は自分が悪いと自覚していたものの、恋華に八つ当たりして恋華を突き飛ばした。恋華は大泣きして自分はどうすればいいのかわからなくなってしまった。旦那はその後捕まった。」
「12月。恋華の11歳の誕生日。パパはいないけど、誕生日会をママと2人でした。恋華は笑顔をなくして[学校は楽しい?]って聞くと少し顔を明るくして[楽しいよ]と言った。だけど、どこか不安を隠しているような気がした。やっぱり、学校でなにか言われているんじゃないかな。隠してたらお母さんに言ってほしいです。」
恋華は涙が止まらなくて、手が震えた。
最後のページが目に止まった。
「12月21日。恋華の15歳の誕生日。思春期だから、反抗が多かった。パパは帰ってきたけど、嬉しい顔を見せるはずがなかった。受験生だから不安も残るんだよね。でも恋華は私にとって自慢の娘。頭も良くて、やることはちゃんとやる。メリハリのある子だ。産まれた時も書いたけどこの子は素晴らしい人生を送ると思う。これからの人生がすごく楽しみです。受験頑張れ!お母さんはどんなときでも応援してます。」
『お母さん……』
日記はここで終わっていた。
こんなにお母さんが心に抱え込んでいるなんて知らなかった。
『どうしよう…あんなに暴言吐いて…お母さん、辛かったよね…』
涙が抑えきれなくて、ノートをギュッと抱いた。ノートは、ほのかにお母さんの匂いがして、胸が締め付けられた。
思春期のとき、お母さんの一言一言がイライラしてていつしか
『死ねばいいのに!!もうほっといてよっ!!』
って大きな声を出して、部屋に戻った記憶がある。
『ほんとうに…ごめんなさい…』




