第4話 呪いの人形を開封してみた
プロローグ:差出人不明の荷物
午後7時30分。
神楽坂麗奈と佐藤悠真は、麗奈の自宅に集まっていた。
テーブルの上には、黒い段ボール箱が一つ。
悠真「……麗奈さん。これ、本当に開けるんですか?」
麗奈「開けるっしょ。視聴者さんからのプレゼントだよ?」
悠真「いや、差出人が書いてないんですよ! しかも、玄関前に置かれてたんです!」
麗奈「置き配じゃん」
悠真「普通の置き配じゃありません!!」
箱の表面には、白い紙が貼られていた。
そこには、たった一文。
『この人形は、絶対に捨てないでください』
麗奈「…………」
悠真「…………」
麗奈「なんか、捨てちゃダメって言われると捨てたくならない?」
悠真「なりません!!」
麗奈はスマートフォンを取り出した。
麗奈「よーし! 緊急配信、始めまーす!」
悠真「始めるんですか!?」
麗奈「ネタになるじゃん!」
悠真「命がけのネタはやめましょうよ!!」
こうして、二人は生配信を開始した。
Aパート:呪いの日本人形
ギャル除霊師レイナのガチ除霊CH
【緊急配信】差出人不明の呪いの人形が届いたんだけどwww
同時接続 6,284人 配信開始 00:01:42
レイナ推し:待ってました!
オカルト民:その箱、絶対ヤバいやつ
名無し:髪の毛伸びる人形だったりして
怖いもの好き:開けるなあああ
麗奈「じゃ、オープン!」
バリバリッ!
段ボールを開けると、古びた木箱が入っていた。
さらに、その中には赤い着物を着た日本人形。
長い黒髪。
白い顔。
そして、不自然なほど大きな黒い目。
悠真「…………」
麗奈「…………」
悠真「こ、これ……本物の日本人形ですよね?」
麗奈「そりゃそうでしょ。フィギュアには見えないし」
悠真「そういう意味じゃなくて!」
麗奈は人形をじっと見つめた。
「ふーん……」
その瞬間。
人形の目が、わずかに動いた。
悠真「…………」
麗奈「…………」
悠真「今、目が動きましたよね?」
麗奈「動いたね」
悠真「ぎゃあああああああ!!」
麗奈「うっさいうっさい! マイク割れるって!」
【コメント】
視聴者A:動いた!?
視聴者B:今の見えたぞ!!
視聴者C:ユーマの悲鳴で草
視聴者D:レイナ全然ビビってないwww
麗奈は人形を持ち上げた。
「はい、ちょっと失礼しまーす」
人形の後頭部を確認する。
そこには、黒い糸で縫い付けられた小さな紙があった。
麗奈「……呪符?」
悠真「え?」
紙には、赤い文字でこう書かれていた。
『神楽坂家の娘へ』
麗奈「…………は?」
初めて、麗奈の声から軽さが消えた。
Bパート:人形の中にいるもの
麗奈は人形をテーブルに置いた。
そして、指先で紙をそっと剥がす。
ブレイズに編み込まれた金色のリングが、かすかに光った。
麗奈「これ、ただの呪いの人形じゃないわ」
悠真「どういうことですか?」
麗奈「誰かが、うちに届けるために作った人形ってこと」
悠真「誰が……?」
麗奈「それは知らん。でも、かなり古い術式が使われてる」
麗奈は人形の額に手をかざした。
すると、人形の口がゆっくり開いた。
人形『…………おねえちゃん』
悠真「うわああああああ!!」
人形『おねえちゃん……あそぼ……』
麗奈「…………」
人形『ずっと……待ってたの……』
部屋の照明が点滅する。
テレビが勝手につき、画面には砂嵐が広がった。
ザザザザザ……。
その中央に、見覚えのある文字が浮かび上がる。
視聴者000:見つけた。
悠真「また、あいつ……!」
麗奈「やっぱ、つながってんじゃん」
人形の髪が、まるで生き物のように伸び始めた。
黒い髪がテーブルを覆い、床を這い、二人の足に絡みつく。
人形『おねえちゃん……こっちに来て……』
麗奈「ごめんねー。うち、知らん子についてくなって教わってんの」
人形『…………』
麗奈「それにさ」
彼女は人形を見下ろした。
「人を呪うために使われてるなら、ちょっと話が違うよね」
麗奈が片手を上げた。
「除霊千手・一掌!」
黄金の腕が一本出現し、床を這う髪を叩き払った。
バシィッ!
しかし、髪はすぐに再生した。
人形『いやあああああああ!!』
黒い髪が一斉に跳ね上がり、無数の針のように尖る。
悠真「麗奈さん!!」
麗奈「うっわ、めんどくさ!」
Cパート:髪の毛VSブレイズ
人形の髪が、麗奈の顔めがけて飛んできた。
麗奈は身体をひねってかわす。
だが、黒髪の一本がブレイズに絡みついた。
悠真「麗奈さんの髪が!!」
麗奈「ちょ、うちのブレイズに何してくれてんの?」
麗奈の表情が変わった。
「髪は大事にしなって、習わなかった?」
悠真「そこですか!?」
麗奈は自分のブレイズを掴むと、編み込まれた金色のリングを指で弾いた。
チィン!
澄んだ音が響く。
リングに刻まれた梵字が黄金色に輝き、ブレイズ全体へ光が走った。
麗奈「神楽坂流、髪結びの術――」
悠真「そんな技ありました!?」
麗奈「今、考えた!」
悠真「ええええ!?」
麗奈「『霊糸解き』!!」
金色の光がブレイズから放たれ、絡みついた黒髪を弾き飛ばした。
麗奈「人の髪に絡むとか、マジでありえないから!」
彼女は両手を合わせた。
背後に黄金の腕が十本、二十本、五十本と展開する。
麗奈「よし。ここから本番ね」
「除霊千手・千手縛!」
無数の腕が人形を包囲する。
しかし、その瞬間。
人形の顔がぐにゃりと歪んだ。
人形『……ちがう……』
麗奈「ん?」
人形『わたし……呪いたくない……』
黄金の腕が、ぴたりと止まった。
人形『わたし……ここに……閉じ込められてるの……』
麗奈「…………」
その声は、先ほどまでの不気味なものとは違っていた。
幼い少女の声。
麗奈「……そっか」
彼女は静かに腕を下ろした。
「じゃあ、誰があんたを閉じ込めたの?」
人形『…………おとこのひと』
悠真「男の人?」
人形『黒い……服……顔が……見えない……』
その瞬間、テレビ画面に黒い影が映った。
顔のない男。
その背後には、無数の腕。
麗奈「…………視聴者000」
画面の中の影が、ゆっくりとこちらを向いた。
視聴者000:その子を返して。
麗奈「は?」
視聴者000:その子は、僕のものだよ。
麗奈「…………あんたさ」
麗奈の目が鋭くなる。
「人形を物みたいに言ってんじゃねーよ」
Dパート:除霊千手・千掌
黒い影がテレビから飛び出した。
部屋全体を覆うように、無数の腕が伸びてくる。
悠真「また画面から出てきたあああ!!」
麗奈「ユーマ、下がって!」
麗奈は両手を合わせた。
ブレイズの金色のリングが一斉に光る。
背後に、黄金の腕が広がっていく。
百本。
三百本。
五百本。
そして、千本。
麗奈「神楽坂流――除霊千手!」
黄金の腕が部屋いっぱいに広がる。
麗奈「『千掌一斉・悪縁断ち』!!」
千本の掌が一斉に動いた。
黒い腕を打ち払い、テレビから伸びる霊気を押し返す。
ドドドドドドドドッ!!
視聴者000:すごいね。
視聴者000:でも、その子を祓ったらどうなるか分かってる?
麗奈「……何?」
視聴者000:その子の魂も消えるよ。
麗奈の動きが止まった。
人形『…………おねえちゃん』
小さな声が聞こえた。
『わたし……もう……つかれた……』
麗奈は人形を見つめた。
そして、千本の腕をゆっくりと開いた。
麗奈「大丈夫」
人形『…………?』
麗奈「消さないよ。あんたを閉じ込めてる呪いだけ、ぶっ壊す」
麗奈は人形の額に、そっと指を当てた。
「うち、除霊師だからさ。ちゃんと助けるって」
その瞬間、金色の光が人形の全身を包み込んだ。
「除霊千手・千掌浄化!!」
千本の掌から、温かな光が流れ込む。
人形を縛っていた黒い糸が、一本ずつほどけていった。
テレビの中の影が叫ぶ。
視聴者000:やめろ!!
麗奈「やめないよ!」
視聴者000:その子は僕の――
麗奈「だから、誰のものでもないっての!!」
パァァァァァン!!
黄金の光が弾けた。
黒い影はテレビの中へと押し戻され、画面は真っ暗になった。
静寂。
人形の髪が、ゆっくりと元の長さに戻っていく。
そして。
人形の目から、一筋の涙が流れた。
人形『…………ありがとう』
麗奈「ん。どーいたしまして」
人形は、静かに目を閉じた。
エピローグ:人形からの手紙
午前0時12分。
配信を終了した二人は、テーブルの前に座っていた。
悠真「……終わったんですよね?」
麗奈「たぶんね」
悠真「たぶん!?」
麗奈「本体には逃げられたし」
悠真「やっぱり、あの視聴者000が……」
麗奈「うん。間違いないと思う」
麗奈は、人形の後頭部に貼られていた紙を見つめた。
そこには、先ほどまでなかった文字が浮かび上がっていた。
『神楽坂家の娘へ。千手を完成させたくば、北の廃寺へ来い』
悠真「…………」
麗奈「…………」
悠真「これ、罠ですよね?」
麗奈「十中八九ね」
悠真「行かないですよね!?」
麗奈「行くっしょ」
悠真「なんでええええ!?」
麗奈はニッと笑った。
「うちの家のこと知ってるっぽいし。ちょっと気になるじゃん?」
悠真「危険ですよ!!」
麗奈「大丈夫大丈夫。千本あるし!」
悠真「そういう問題じゃないんです!!」
麗奈は人形を優しく木箱に戻した。
「この子は、しばらくうちが預かるわ」
悠真「え? その人形と一緒に暮らすんですか?」
麗奈「そりゃそうでしょ。もう呪われてないし」
悠真「…………」
そのとき。
木箱の中から、かすかな声がした。
『……おねえちゃん……』
麗奈「ん?」
『……おやすみ……』
麗奈は笑った。
「おやすみー」
その夜、人形は初めて安らかな眠りについた。
しかし。
遠く離れた廃墟の一室。
無数のモニターが並ぶ暗闇で、黒い影が立っていた。
画面には、麗奈の配信映像。
影は、ゆっくりと笑った。
『……そうだよ』
『北の廃寺で、待ってる』
第4話・完




