↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギャル除霊師、心霊配信はじめました。  作者: しょぼんスライム


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/5

第5話 深夜2時の公衆電話

プロローグ 午前2時の着信

午前1時58分。


神楽坂麗奈の自宅。

麗奈はソファに寝転がり、スマートフォンを操作していた。腰まで伸びたブレイズヘアには、金色のリングとピンク、紫のエクステが揺れている。

その隣では、佐藤悠真がノートパソコンを開いていた。

「麗奈さん、昨日の配信、再生数がヤバいことになってます」

「マジ? あたし、もう人気者じゃん!」

「いや、コメント欄が怖いんですよ……」

「また視聴者000?」

「……はい」

画面には、奇妙なコメントが並んでいた。

『北の廃寺へ行くな』

『あの子の声を聞くな』

『午前2時、電話に出るな』

麗奈は眉をひそめた。

「……電話?」

その瞬間だった。

――ジリリリリリリリッ!!

部屋の奥から、古臭い電話のベルが鳴り響いた。

「うわあああああああっ!?」

悠真が椅子から転げ落ちた。

「ちょっ、何!? うちに固定電話なんてないんだけど!?」

麗奈はゆっくりと立ち上がる。

音のする方向には、いつの間にか黒い公衆電話が置かれていた。

受話器の横に貼られた紙には、赤い文字でこう書かれている。

『午前2時。死者からの電話』

麗奈はスマートフォンの時計を確認した。

午前1時59分。

「……へえ。死者からの電話ねぇ」

ベルが鳴り続ける。

午前2時00分。

麗奈は受話器を取った。

「はいはーい。もしもし?」

しばらく、何も聞こえなかった。

そして――。

『……もしもし』

女の声がした。

『……麗奈ちゃん?』

麗奈の表情から、笑みが消えた。

「……は?」

『麗奈ちゃん。久しぶりね』

その声を、麗奈は知っていた。

忘れるはずがない。

十年前、死んだはずの人物の声だった。

「……ねえ」

麗奈は受話器を強く握りしめる。

「あんた……誰の声を使ってんの?」

電話の向こうで、女が悲しそうに笑った。

『ひどいわね。お姉ちゃんの声を忘れちゃったの?』

麗奈の瞳が揺れた。

「……お姉ちゃん?」

悠真が息を呑む。

神楽坂麗奈には、姉などいない。

少なくとも、彼女はそう聞かされて育っていた。


Aパート 配信開始、死者からの電話

「麗奈さん……今の、誰ですか?」

悠真の声は震えていた。

麗奈は受話器を耳に当てたまま、片手でスマートフォンを操作する。

「ユーマ。カメラ回して」

「えっ!? いやいやいや! この状況で配信するんですか!?」

「するに決まってんじゃん。ヤバいネタが向こうから来てくれたんだから」

「命がけすぎるんですよ!」


数分後。

チャンネル『ギャル除霊師レイナのガチ除霊CH』で、緊急配信が始まった。

画面には麗奈と、部屋の中に置かれた不気味な公衆電話が映っている。

【配信タイトル:午前2時、死者から電話がかかってきました】

コメント欄

『タイトルからして怖すぎる』

『家に公衆電話!?』

『ドッキリじゃないよな?』

『また視聴者000の仕業?』

『麗奈ちゃん、顔がマジなんだけど』

麗奈はカメラに向かって説明した。

「今から、この電話の正体を調べる。みんな、変な声が聞こえても絶対に返事しないでね」

「えっ、それって視聴者のみんなにも危険があるってことですか!?」

「そーいうこと。霊が電話回線を通ってるのか、それとも別の方法なのか。そこを確かめる」

受話器から、再び声がした。

『麗奈ちゃん……聞こえてる?』

「聞こえてるよ。で、あんた誰?」

『お姉ちゃんよ』

「だから、あたしに姉はいないっての」

『……そう教えられたのね』

その言葉に、麗奈の指が止まった。

『お父さんも、お母さんも……あなたには何も教えなかったのね』

「……どういう意味?」

『麗奈ちゃん。あなたが千手を使える理由、知りたい?』

背後で、悠真が小さくつぶやく。

「神楽坂家の秘密……」

その瞬間、受話器からノイズが走った。

『……北の……廃寺……』

麗奈が顔を上げる。

「北の廃寺って、あの手紙の場所?」

『来ては……だめ……』

「は? さっきから言ってることが矛盾してんだけど」

『あそこにいるのは……あなたのお姉ちゃんじゃない……!』

――ガガガガガガッ!!

電話から激しいノイズが噴き出した。

『麗奈ちゃん、逃げて! そいつは――』

プツン。

通話が切れた。

同時に、コメント欄が一斉に動き出した。

『今の声、聞こえた!?』

『逃げてって言ったよな!?』

『電話の後ろに誰かいる!!』

悠真が画面を凝視した。

「麗奈さん……後ろ……!」

麗奈が振り返る。

そこには、誰もいない。

しかし、配信画面には映っていた。

麗奈の背後。

壁に、長い髪の女が張り付いている。

顔は見えない。

両腕だけが異様に長く、床まで垂れ下がっていた。

そして女は、カメラに向かって口を開いた。

『……みぃつけた』


Bパート 公衆電話の向こう側

「ユーマ、カメラを下げて!」

麗奈の声が鋭くなる。

悠真はすぐにカメラを床へ向けた。

「これでいいですか!?」

「いい! 絶対にあいつの顔を映さないで!」

「映すとどうなるんですか!?」

「知らない! でも、あたしの勘がヤバいって言ってる!」

部屋の電灯が点滅する。

ジリリリリリリリッ!!

公衆電話が再び鳴り始めた。

麗奈は受話器を取らない。

「……今度は何?」

すると、電話のスピーカーから声が流れた。

『麗奈ちゃん』

先ほどと同じ女の声。

『お姉ちゃんを……助けて』

麗奈は目を細める。

「ねえ。あんた、本当にあたしのお姉ちゃんなの?」

『……』

「答えて」

『……そうよ』

「じゃあ、ひとつ質問」

麗奈の背後に、黄金色の光が灯り始めた。

「十年前、あたしが泣きながら隠したもの。何だった?」

沈黙。

やがて、女が答えた。

『……赤い髪飾り』

麗奈の表情が変わった。

それは、彼女が幼いころ、誰にも言わずに庭の木の根元へ埋めた髪飾りだった。

亡くなった母の形見。

家族にも、誰にも話していない。

「……そっか」

麗奈は小さく息を吐いた。

「知ってるんだ」

『麗奈ちゃん……』

「でも、それだけじゃ信じらんない」

『どうして……?』

「だってさ」

麗奈は受話器を見つめる。

「本物のお姉ちゃんなら、あたしが小さいころ、あたしを何て呼んでたか知ってるはずじゃん」

しばらくして、電話の向こうから返事があった。

『……れーちゃん』

麗奈の顔が凍りついた。

その呼び方をした人物は、ただ一人。

麗奈がまだ幼かったころ、いつも手をつないでくれた少女。

記憶の中の少女は、優しく笑っていた。

――れーちゃんは、私が守るからね。

「……お姉ちゃん」

麗奈の口から、かすかな声が漏れた。

しかし次の瞬間。

『やっと……信じてくれたね』

電話の声が、突然低くなった。

『じゃあ……こっちへおいで』

「……え?」

『電話の中へ』

受話器の奥から、何かが這い出すような音がした。

ずるっ。

ずるるるっ。

そして、受話器の穴から黒い髪が一本、垂れ下がった。

「麗奈さん! 離れて!」

悠真が叫ぶ。

だが、麗奈は受話器を手放さなかった。

「……あんた」

その瞳に、怒りが宿る。

「お姉ちゃんの声で、あたしを釣ろうとした?」

電話の向こうから、くすくすと笑い声が響いた。

『さあ? どうだろうね』

麗奈の背後で、黄金の腕が一本、ゆっくりと伸びた。

「なら、直接確かめさせてもらうわ」

神楽坂流秘術――

「除霊千手・一掌!」

黄金の手が受話器をつかんだ。

瞬間、電話機全体に亀裂が走る。

バキィィィン!!

しかし、壊れた電話の内部から現れたのは、無数の黒い手だった。

それらは床を這い、壁を伝い、天井を覆い尽くしていく。

悠真が悲鳴を上げた。

「手! 手が多すぎるんですけどぉぉぉ!!」

麗奈は舌打ちする。

「チッ! こいつ、電話そのものが霊的な入口になってる!」

黒い手の群れの中から、女の顔が浮かび上がった。

顔は、麗奈の記憶にある少女と同じだった。

しかし、その目は真っ黒に塗りつぶされていた。

『れーちゃん……』

女が両腕を広げる。

『一緒に来て……』

麗奈は一歩踏み出しかけた。

そのとき。

『――麗奈ちゃん! そいつは偽物よ!!』

壊れた電話の奥から、別の声が響いた。

今度の声は、先ほどよりも弱々しい。

だが、確かに違う声だった。

麗奈は振り向く。

黒い手の群れが、一瞬だけ動きを止めた。


Cパート 千手が届かない場所

「……二人いる?」

麗奈は目の前の女と、電話の奥から聞こえる声を交互に意識した。

『麗奈ちゃん……こっちを見て』

目の前の女が、甘くささやく。

『お姉ちゃんが迎えに来たよ』

『騙されないで!』

電話の奥から声が飛ぶ。

『私は、あなたを連れていこうとしていない!』

「じゃあ、本物はどっちなのよ!」

麗奈が叫んだ瞬間、部屋全体が真っ暗になった。

配信画面には、黒い背景だけが映っている。

だが音声は生きていた。

『麗奈ちゃん……』

『れーちゃん……』

二つの声が、交互に呼びかける。

『助けて』

『一緒に来て』

『お願い』

『こっちへおいで』

声が重なり、やがて一つの巨大なうなり声に変わった。

悠真は震えながら、カメラの録画ランプを確認した。

「……配信、まだ続いてる」

「ユーマ! 配信を切って!」

「はい!」

悠真が操作する。

しかし、終了ボタンを押しても画面が切り替わらない。

代わりに、黒い画面へ白い文字が浮かび上がった。

『視聴者000が入室しました』

そして、コメントが流れた。

『どちらが本物か、知りたい?』

麗奈の表情が険しくなる。

「……またお前か」

『死者の声は、簡単に真似できる』

『記憶を読めばいい』

『思い出を盗めばいい』

『愛する者の声で呼べば、人間は自分から扉を開く』

黒い画面に、無数の腕が映し出された。

千本どころではない。

何千、何万という黒い腕が、画面の向こうで蠢いている。

『麗奈ちゃん。君は、どちらを選ぶ?』

『本物のお姉さん?』

『それとも、君を守ろうとする偽物?』

麗奈は唇を噛んだ。

「……ふざけんな」

黄金色の光が、暗闇を照らす。

「人の大事な思い出を、勝手に使ってんじゃねーよ!」

背後に、黄金の腕が次々と現れた。

十本。

百本。

五百本。

そして、千本。

「神楽坂流秘術――除霊千手・千手縛!!」

黄金の腕が一斉に伸び、黒い手を絡め取った。

黒い手が暴れ、壁を叩き、床を砕く。

それでも麗奈は、一歩も退かなかった。

「捕まえた! もう逃がさない!」

『……すごいね』

視聴者000の声が響く。

『でも、麗奈ちゃん』

『電話の向こう側にいるものを、どうやって捕まえるの?』

麗奈の顔から血の気が引いた。

黄金の腕がつかんでいたのは、黒い手の群れだけ。

本体は、どこにもいなかった。

そして――。

受話器の奥から、すすり泣く声が聞こえた。

『……れーちゃん』

『ごめんね』

『私……ずっと……』

麗奈の千手が、わずかに震えた。

その声は、偽物のようには聞こえなかった。

「……お姉ちゃん?」

『会いたかった……』

電話の奥で、誰かが泣いている。

『でも……まだ来ちゃだめ』

『北の廃寺へ行って』

『そこに……あなたが知らない、本当の家族のことがある』

「待って! お姉ちゃん! もっと話して!」

麗奈が受話器へ手を伸ばした。

しかし、電話は静かに沈黙した。

次の瞬間、黒い手が一斉に消えた。

暗闇が晴れる。

公衆電話も、壁に張り付いていた女も、跡形もなく消えていた。

残されたのは、床に落ちた一本の黒い電話線だけだった。

その先端には、小さな紙片が結びつけられていた。

麗奈が拾い上げる。

紙片には、震える文字で書かれていた。

『れーちゃん、ごめんね。私を見つけないで』


Dパート 配信に残された声

午前2時47分。

緊急配信は、ようやく終了した。

悠真は床に座り込み、両手で顔を覆っていた。

「……僕、もう公衆電話を見たら逃げます」

「うん。あたしも、ちょっと無理」

「麗奈さんでも無理なんですか!?」

「いや、幽霊は殴れるけど、家族ネタはキツいって……」

麗奈は紙片を握りしめた。

いつもの軽い口調は、もうなかった。

「ユーマ。神楽坂家について、調べてほしい」

「神楽坂家……ですか?」

「うん。あたしが知らないこと、全部」

悠真は真剣な顔でうなずいた。

「分かりました。できる限り調べます」

そのとき、パソコンから通知音が鳴った。

配信アーカイブに、新しいコメントが一件。

投稿者は――視聴者000。

『いい声だったでしょう?』

麗奈は画面を睨みつける。

コメントは続いた。

『でも、まだ君には教えられない』

『本物のお姉さんが、今どこにいるのか』

『君の千手が完成したとき、すべて分かるよ』

麗奈はパソコンの蓋を乱暴に閉じた。

「……絶対に許さない」

彼女の背後で、黄金色の腕が一本だけ浮かび上がる。

それは、いつもと違っていた。

手のひらの中央に、小さな黒い目が開いていたのだ。

麗奈は、まだ気づいていない。

だが、その目は、彼女の動きをじっと見つめていた。


エピローグ 十年前の写真

翌朝。

麗奈は実家の倉庫へ向かった。

神楽坂家は代々、強力な霊能力者を輩出してきた家系。

古い記録や術式の資料が、倉庫には大量に保管されている。

「……あった」

麗奈が見つけたのは、十年前の家族写真だった。

写真には、幼い麗奈と両親が写っている。

しかし、その隅に不自然な空白があった。

まるで、誰か一人だけを切り取ったように。

写真の裏には、日付と短い文章が記されていた。

『千手継承の儀』

『長女・神楽坂――』

その先は、黒いインクで塗りつぶされていた。

麗奈は震える指で、写真を裏返した。

その瞬間。

背後から、聞き覚えのある声がした。

『……見つけちゃったね』

麗奈が振り向く。

そこには、誰もいない。

ただ、倉庫の奥に置かれた古いテレビが、ひとりでに点灯していた。

画面には、長い髪の少女が映っている。

少女は、懐かしい笑顔で手を振った。

『れーちゃん』

『今度こそ、迎えに来てね』

画面が暗転する。

最後に表示された文字は――。

『第6話 北の廃寺、千手の始まり』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。