第3話 コメント欄に幽霊がいる
プロローグ:深夜の通知
午前2時17分。
佐藤悠真の自宅。
悠真「ふぁぁ……やっと編集終わった……」
先日の廃病院配信を編集し終えた悠真は、動画をアップロードした。
タイトルは、
【ガチ除霊】ギャル除霊師が廃病院の悪霊を百本の腕で祓った結果www
投稿からわずか5分。
再生数は既に3,000回を超えていた。
悠真「すごいなぁ……麗奈さん効果……」
そのとき。
ピコン。
新着コメントが一件。
視聴者000 たった今
編集お疲れ様。そろそろ寝るの?
悠真「……ん?」
何気なく返信する。
悠真『ありがとうございます! 今日はもう寝ます!』
ピコン。
視聴者000:電気、消さないの?
悠真「…………え?」
視聴者000:机の上のコーヒー、冷めちゃうよ。
悠真はゆっくり机を見る。
そこには、飲みかけの缶コーヒー。
悠真「…………」
ピコン。
視聴者000:今、後ろを見ようとしたでしょ?
悠真「ひっ……!」
ピコン。
視聴者000:見ちゃダメだよ。
視聴者000:まだ、天井にいるから。
悠真はスマートフォンを掴んだ。
「れ、麗奈さぁぁぁん!!」
Aパート:ギャル除霊師、緊急出動
午前2時46分。
ピンポーン。
悠真「は、はい!!」
玄関を開けると、そこには派手なブレイズヘアの女性が立っていた。
黒のパーカーにショートパンツ、厚底スニーカー。
片手にはコンビニの袋。
神楽坂麗奈である。
麗奈「うぃーす。生きてる?」
悠真「生きてますけど!! 怖くて動けません!!」
麗奈「はい、差し入れ」
悠真「え?」
麗奈「肉まん。あと、うちの分のカフェラテ」
悠真「こんな状況で肉まん!?」
麗奈「腹減ってたんだもん」
麗奈は部屋に入ると、天井を見上げた。
「…………あー」
悠真「何かいます!?」
麗奈「いるね」
悠真「やっぱりぃぃぃ!!」
麗奈「でも、今ここにいるのは本体じゃないっぽい」
悠真「本体?」
麗奈「ちょいスマホ貸して」
悠真が震える手でスマートフォンを差し出す。
麗奈はコメント欄を確認した。
そこには、新たな書き込み。
視聴者000:こんばんは、麗奈ちゃん。
麗奈「…………」
視聴者000:今日も髪、かわいいね。
麗奈「お、ありがとー!」
悠真「返信しないでください!!」
麗奈「いや、褒められたら礼くらい言うっしょ」
視聴者000:今度は千本の腕を見せてね。
麗奈の表情が変わった。
「……こいつ、うちの術を知ってんだ」
Bパート:コメント欄の怪異
翌日。
午後9時。
二人は悠真の自宅から緊急配信を開始した。
今回のタイトルは、
【緊急生配信】コメント欄に幽霊が現れました。
ギャル除霊師レイナのガチ除霊CH
同時接続 8,421人 配信時間 00:04:18
レイナ推し:待ってました!
オカルト民:今回は室内配信?
名無し:ユーマの顔色悪すぎwww
千手待機勢:今日も千手見れる?
悠真「えー……実は昨晩、奇妙なコメントが届きまして……」
彼は視聴者000とのやり取りを説明した。
麗奈「ま、要するにネットストーカーならぬ霊ストーカーって感じ?」
悠真「軽く言わないでくださいよ!!」
麗奈「んじゃ、呼んでみよっか」
悠真「呼ぶ!?」
麗奈はカメラに向かって手を振った。
「おーい、000さーん! 見てるー?」
コメントが勢いよく流れる。
【コメント】
視聴者A:煽るなwww
視聴者B:やめとけって!!
視聴者C:ギャル強すぎる
視聴者D:000出てこい!!
その瞬間。
コメント欄の動きが止まった。
そして、一件のコメントが表示される。
視聴者000
見てるよ。
今、悠真くんの右肩に手を置いてる。
悠真「…………え?」
麗奈の視線が、ゆっくりと悠真の右肩に移動した。
そこには。
青白い五本の指。
麗奈「あ、マジじゃん」
悠真「ぎゃああああああ!!」
Cパート:画面から伸びる手
麗奈「動かないで!」
彼女が右手を振る。
「除霊千手・一掌!」
背後から黄金の腕が一本出現!
悠真の右肩に張り付いた青白い手を掴み、そのまま引き剥がす。
バチィッ!!
黒い煙が弾けた。
悠真「と、取れました!?」
麗奈「うん。でも……」
彼女はパソコンのモニターを見つめた。
「こいつ、まだいる」
モニターに映っていた配信映像が乱れる。
ザザザザ……。
画面が真っ黒になった。
そして。
画面の内側から、一本の腕が伸びてきた。
悠真「…………は?」
さらに二本。
三本。
十本。
無数の青白い腕がモニターから這い出してくる。
【コメント】
視聴者A:え?
視聴者B:画面からなんか出てる!!
視聴者C:これCGじゃないよな!?
視聴者D:俺のスマホもなんか変なんだけど
麗奈「……なるほどね」
悠真「何がなるほどなんですか!?」
麗奈「こいつ、映像を通って移動してる」
悠真「映像!?」
麗奈「コメントを見た人の意識に入り込んで、画面を出口にしてるっぽい」
その瞬間。
配信コメントが一斉に流れ始めた。
視聴者000:みんな、見てる?
視聴者000:見てるよね?
視聴者000:じゃあ、そっちにも行くね。
【コメント】
視聴者A:おい、スマホの画面に手形ついた
視聴者B:テレビ勝手についたんだけど!!
視聴者C:怖い怖い怖い!!
悠真「麗奈さん!! 視聴者さんまで!!」
麗奈「分かってる!」
麗奈はカメラに向かって叫んだ。
「みんな! いったん画面から目ぇ離して! コメントも見ないで!」
そして両手を合わせる。
ブレイズに編み込まれた金色のリングが輝いた。
「神楽坂流――除霊千手!!」
ドォォォン!!
背後に百本の黄金の腕が展開する。
麗奈「まずは、こっちに出てきた分を祓う!」
「除霊千手・百掌!」
百本の掌が、モニターから伸びる青白い腕を次々と叩き潰した。
バババババババッ!!
黒い霊気が部屋中に飛び散る。
悠真「す、すごい!!」
しかし。
視聴者000:百本なんだ。
視聴者000:千本は?
麗奈「…………」
視聴者000:見せてよ。
視聴者000:神楽坂の千手。
麗奈「……あんた、何者?」
画面の向こうから、低い笑い声が響いた。
『…………まだ、教えない』
Dパート:除霊千手・千手縛
麗奈「ユーマ! 配信切って!」
悠真「え!? でも、切ったら……」
麗奈「こいつの通り道を塞ぐの! 早く!」
悠真「は、はい!!」
悠真が配信終了ボタンを押そうとする。
しかし。
『配信を終了できません』
悠真「なっ!?」
何度押しても、画面は変わらない。
視聴者000:まだ終わらせないよ。
モニターから巨大な黒い顔が浮かび上がった。
目も鼻もない。
ただ、口だけが耳元まで裂けている。
『もっと……見せて……』
麗奈「…………あー、そう」
彼女はゆっくり立ち上がった。
「そんなに見たいなら、見せたげる」
悠真「麗奈さん!?」
麗奈「ただし、タダ見は禁止ね?」
麗奈が両手を合わせる。
黄金の光が部屋全体を照らした。
百本の腕が、さらに増えていく。
二百。
三百。
五百。
そして――。
千本。
麗奈の背後に、巨大な黄金の千手が完成した。
【コメント】
視聴者A:きたあああああ!!
視聴者B:千本!?
視聴者C:部屋に収まってないwww
視聴者D:これが本気の除霊千手!!
麗奈「神楽坂流――」
「除霊千手・千手縛!!」
千本の腕が一斉に動いた。
モニターから伸びる黒い顔を掴み、さらに画面の奥へと侵入していく。
悠真「えっ!? 腕がモニターの中に!?」
麗奈「霊の通り道があるなら、こっちからも行けるっしょ!」
黄金の腕が、画面の奥に広がる暗闇を掴む。
その先にいたのは、巨大な黒い影。
だが。
『…………違うよ』
麗奈「……は?」
『僕は、そこにはいない』
ブツン!!
モニターが消えた。
同時に、配信も強制終了した。
部屋に静寂が戻る。
悠真「…………終わった?」
麗奈「……いや」
彼女は自分のスマートフォンを取り出した。
そこには、新着通知が一件。
視聴者000:今日はここまで。
視聴者000:千本、綺麗だったよ。
麗奈「…………」
初めて、麗奈の表情から笑みが消えた。
エピローグ:除霊できない相手
午後11時32分。
悠真の部屋。
麗奈はソファに座り、スマートフォンを操作していた。
悠真「……麗奈さん。あいつ、祓えなかったんですか?」
麗奈「んー。祓う以前に、本体がどこにいるか分かんなかった」
悠真「そんな……」
麗奈「でも、分かったことはある」
悠真「何ですか?」
麗奈「あいつ、うちの除霊千手を知ってる」
悠真「……え?」
麗奈「しかも、百掌と千手縛の違いまで理解してた」
麗奈はブレイズの金色のリングを指先で弄った。
「神楽坂家の術を知ってる霊なんて、そうそういないんだけどね」
悠真「じゃあ……」
麗奈「うん。ちょっと調べてみる」
そう言うと、彼女は立ち上がった。
麗奈「ま、とりま飯行こ!」
悠真「切り替え早っ!?」
麗奈「腹減ったし!」
悠真「さっき肉まん食べてましたよね!?」
麗奈「千本出したらカロリー使うんだって!」
悠真「そんな仕組みなんですか!?」
二人は笑いながら部屋を出ていった。
その数分後。
誰もいない部屋で、パソコンのモニターが再び点灯する。
画面には、黒い背景と白い文字。
視聴者000
麗奈ちゃん。
君の千手は、まだ完成していない。
本当の千手を見せてあげるよ。
その直後。
モニターの奥に、無数の黒い腕が浮かび上がった。
その数は――千本を遥かに超えていた。
第3話・完




