第2話 廃病院で初コラボ!? 地下三階のナースコール
プロローグ:初めての正式コラボ
午後8時30分。
佐藤悠真は、都内のファミレスでノートパソコンを開いていた。
悠真「よし! 新チャンネルの準備、完了です!」
向かい側では、ブレイズヘアの女性が山盛りのポテトを食べている。
神楽坂麗奈。
神楽坂流除霊術『除霊千手』を操る、23歳のギャル除霊師である。
麗奈「で? チャンネル名は?」
悠真「こちらです!」
画面に表示された文字は――
『ギャル除霊師レイナのガチ除霊CH』
麗奈「おー! いいじゃん!」
悠真「前回の切り抜き動画、もう32万再生ですよ!」
麗奈「マジ!? うち有名人じゃん!」
悠真「特に除霊千手のシーンが大人気で!」
麗奈「ま、あれくらい普通だけどねー」
悠真「普通の基準がおかしいんですよ……」
悠真は続けて、一枚の資料を取り出した。
悠真「それで、今回の撮影場所なんですが」
麗奈「どこ?」
悠真「旧三門総合病院です」
麗奈「…………また病院?」
悠真「今回はちゃんと管理会社から撮影許可をいただいてます!」
麗奈「そこは偉い」
悠真「ただ、一つだけ条件がありまして……」
資料には赤字でこう書かれていた。
『地下三階への立ち入りは固く禁止する』
麗奈「…………」
悠真「…………」
麗奈「絶対なんかいるじゃん」
Aパート:登録者1万人の初配信
午後11時45分。
旧三門総合病院。
かつて地域最大級の医療施設だった建物は、現在では廃墟となっていた。
正面玄関には、管理会社から借りた鍵で入る。
悠真「機材よし! バッテリーよし! 回線よし!」
麗奈「うちのビジュは?」
悠真「完璧です!」
麗奈「よろしい!」
麗奈はブレイズを軽く後ろに払った。
金髪をベースに、ピンクと紫のエクステ。編み込まれた金色のリングが、照明を受けて輝く。
そして、配信開始。
ギャル除霊師レイナのガチ除霊CH
【初コラボ】立入禁止の廃病院でガチ除霊してみた!
同時接続 2,481人 配信開始 00:02:13
レイナ推し:待ってました!!
オカルト民:前回の千手の人だwww
名無し:髪型かっこよすぎる
病院勤務:また病院で草
麗奈「はいどーも! レイナでーす!」
悠真「撮影担当のユーマです!」
麗奈「今日はねー、この病院にいる霊を祓っていきたいと思いまーす!」
悠真「ちなみに、管理会社さんから許可をいただいているのは一階から地下二階までです」
麗奈「地下三階は?」
悠真「立ち入り禁止です」
麗奈「りょ!」
二人は病院の中へと入った。
その直後。
ピンポーン。
麗奈「ん?」
悠真「どうしました?」
麗奈「今、ナースコール鳴んなかった?」
悠真「え? 聞こえませんでしたけど……」
【コメント】
視聴者A:俺も聞こえた
視聴者B:前回もナースコール鳴ってたよな
視聴者C:開始早々フラグ立ったwww
Bパート:存在しない患者
一階の診察室。
悠真「こちらは、かつて内科として使われていた場所です」
麗奈「ふーん」
彼女は部屋の隅を見つめた。
悠真「何かいます?」
麗奈「いるよ」
悠真「えっ!?」
麗奈「あそこ。椅子におじいちゃん座ってる」
悠真がカメラを向ける。
誰もいない。
だが、配信画面には、ぼんやりと老人の輪郭が映っていた。
【コメント】
視聴者A:え!? 見える!!
視聴者B:椅子になんかいる!
視聴者C:今回もガチじゃねーか!!
麗奈「おじいちゃーん。診察待ち?」
老人の霊『…………まだ……呼ばれんのか……』
麗奈「あー、ずっと待ってたんだ」
老人の霊『番号札……持っとるんじゃが……』
麗奈「見せて?」
老人は震える手で、古びた番号札を差し出した。
そこには『38』と書かれていた。
麗奈「38番の方ー! 診察室へどうぞー!」
老人の霊『おお……やっとか……』
老人は立ち上がり、光に包まれて消えた。
悠真「…………え?」
麗奈「はい、一件完了!」
悠真「今ので除霊できたんですか!?」
麗奈「未練が軽い霊なら、こんなもんよ」
【コメント】
視聴者A:雑すぎるwww
視聴者B:38番のおじいちゃん成仏おめでとう
視聴者C:千手使わないパターンもあるんだ
麗奈「千手は必要なときだけね。なんでも力ずくってわけじゃないし」
そのとき。
病院全体に、古びた院内放送が響いた。
『…………地下三階……患者様のお呼び出しです……』
悠真「え?」
『…………神楽坂……麗奈様……』
麗奈の笑顔が消えた。
『…………至急……お越しください……』
ブツン。
院内放送が途切れた。
悠真「い、今……麗奈さんの名前を……」
麗奈「うん」
彼女は天井のスピーカーを睨んだ。
「うちを呼んでるね、これ」
Cパート:地下三階の正体
二人は地下二階まで降りた。
悠真「麗奈さん、本当に大丈夫ですか?」
麗奈「平気平気。地下三階には入んないから」
悠真「ですよね……」
地下二階。
そこには、かつて手術室として使われていた部屋が並んでいた。
しかし、奇妙なことが起きる。
ピンポーン。
ピンポーン。
ピンポーン。
無数のナースコールが一斉に鳴り始めた。
【コメント】
視聴者A:音ヤバい
視聴者B:これ全部鳴ってんの?
視聴者C:早く帰れ!!
悠真「うわあああ!?」
麗奈「うっさいなぁ……」
麗奈が耳を塞ぐ。
その瞬間。
手術室の扉が開いた。
ギィィィ……。
中から現れたのは、白衣を着た女性。
顔には目も鼻もなく、口だけが大きく裂けている。
女『…………患者様……』
悠真「ひっ!?」
女『…………お時間です……』
麗奈「あー、なるほど」
女『…………地下三階へ……』
麗奈「いや、行かないけど?」
女『…………拒否は……認めません……』
ズルリ。
女の白衣の袖から、黒い腕が何本も伸びた。
悠真「麗奈さん!!」
麗奈「はいはい。まずは捕まえよっか」
麗奈が右手を上げる。
「除霊千手・十掌!」
背後から十本の黄金の腕が出現!
バババババッ!!
黒い腕を次々と弾き飛ばす。
【コメント】
視聴者A:出たあああ!!
視聴者B:除霊千手きた!!
視聴者C:10本でも十分強くね?
しかし。
女『…………患者様……逃がしません……』
床が突然、黒い液体のように変化した。
悠真「うわっ!?」
彼の足元が沈み始める。
麗奈「ユーマ!」
黄金の腕が悠真を掴む。
そのまま天井近くまで持ち上げた。
悠真「高い高い高い!!」
麗奈「ちょい我慢して!」
女『…………地下三階へ……』
床の下から、巨大な顔が浮かび上がった。
麗奈「……あんた、ただの看護師の霊じゃないね?」
女の身体が裂ける。
その内部には、数十人もの患者の顔が蠢いていた。
禍霊――呼出看護師。
地下三階に残された怨念が、看護師の姿を借りて現れた怪異だった。
Dパート:除霊千手・百掌!
女『患者様……患者様……患者様ァァァ!!』
地下二階の壁という壁から、無数の腕が飛び出す。
麗奈「うっわ、しつこ!」
悠真「麗奈さん!! 僕どうすれば!?」
麗奈「撮って!」
悠真「ええっ!?」
麗奈「せっかくの初コラボじゃん! ちゃんと撮っといてよ!」
悠真「こんな状況で!?」
麗奈「当たり前っしょ!」
麗奈は両手を合わせた。
金色のリングが発光し、長いブレイズがふわりと宙に浮く。
麗奈「神楽坂流――」
背後に黄金の腕が展開されていく。
十本。
三十本。
五十本。
そして、百本。
「除霊千手・百掌!!」
ドドドドドドドドッ!!!
百本の黄金の掌が、黒い腕を次々と打ち砕く!
呼出看護師『ギャアアアアアア!!』
麗奈「はい、拘束!」
「千手縛!」
無数の腕が看護師の霊を取り囲む。
身動きを封じられた悪霊は、なおも叫び続けた。
『…………地下……三階……』
麗奈「そんなに地下三階に連れていきたいわけ?」
『…………助けて……』
麗奈「……え?」
女の裂けた口から、小さな声が漏れた。
『…………まだ……患者が……いる……』
麗奈「…………」
彼女は一瞬、目を細める。
そして、掌を合わせた。
麗奈「分かった。でも、あんたは先に休みな」
「除霊千手・百掌浄化!」
百本の掌が、看護師の霊を優しく包み込む。
眩い黄金の光。
女『…………ありがとう……』
その身体は光の粒となって消えていった。
地下二階に静寂が戻る。
【コメント】
視聴者A:すげええええ!!
視聴者B:今回もガチだった
視聴者C:最後なんか言ってなかった?
視聴者D:地下三階にまだ何かいる?
エピローグ:配信終了後
午前1時48分。
病院の外。
悠真「いやー……死ぬかと思いました……」
麗奈「お疲れー!」
悠真「麗奈さん、元気ですね……」
麗奈「まあね!」
悠真が配信の結果を確認する。
本日の配信結果
26,731人
最大同時接続者数
登録者数 12,870 → 28,409人
投げ銭合計 ¥84,600
麗奈「…………は?」
悠真「どうしました?」
麗奈「8万!?」
悠真「はい! 初コラボ大成功ですよ!」
麗奈「マジ!? 除霊ってこんな稼げんの!?」
悠真「いや、普通は配信しませんから!!」
麗奈「よっしゃ! 次もやろ!」
悠真「もちろんです!」
二人は笑い合った。
しかし、麗奈はふと病院を振り返った。
地下三階。
あの看護師の霊が最後に残した言葉。
『まだ患者がいる』
麗奈「…………」
悠真「麗奈さん?」
麗奈「んーん。なんでもない」
彼女はポケットに手を突っ込んだ。
「とりま帰ろ。ラーメン食べたい」
悠真「今からですか!?」
麗奈「除霊したら腹減んの!」
二人は夜道を歩き始めた。
その背後。
誰もいなくなった旧三門総合病院。
地下三階の閉鎖病棟。
真っ暗なナースステーションで、一台の古びたパソコンが起動した。
画面には、先ほど終了した配信のアーカイブが映っている。
そしてコメント欄に、一件の書き込みが現れた。
視聴者000 たった今
もうすぐ、千本でも足りなくなるよ。
ピンポーン。
地下三階のナースコールが鳴った。
第2話・完




