第1話 ギャル除霊師、配信に映る
プロローグ:深夜の廃病院
午前2時13分。
山奥にひっそりと建つ、閉鎖されて20年以上の旧黒峰病院。
かつて、この病院では不可解な患者の失踪事件が相次いだという。
そんな場所に、一人の青年が足を踏み入れていた。
「はい、どうも皆さんこんばんは! 『ユーマの深夜探索』の佐藤悠真です!」
片手にはカメラ。もう片方にはLEDライト。
スマートフォンには、現在の配信状況が表示されている。
同時接続者数:87人
【コメント】
視聴者A:今日こそ幽霊映してくれよ
視聴者B:また何も起きないパターン?
視聴者C:ここガチでやばい場所じゃん
悠真「いやいや! 今回こそ本物を撮ってみせますから!」
彼は意気揚々と病院の正面玄関をくぐった。
その直後。
――ギィィィィ……バタン!!
悠真「うおおおっ!?」
背後の扉が勝手に閉まった。
【コメント】
視聴者A:草
視聴者B:開始3分でビビってて草
視聴者C:今の風じゃなくね?
悠真「か、風ですよ! 風!」
しかし、病院内に風など吹いていなかった。
Aパート:映ってはいけないもの
探索開始から20分。
悠真は二階の病室を歩いていた。
「ここが例の203号室ですね。噂では、夜中になると誰もいないベッドからナースコールが鳴るそうです」
ピンポーン。
悠真「…………え?」
ピンポーン。
誰もいないベッド。
その枕元にあるナースコールのランプが点滅していた。
【コメント】
視聴者A:え?
視聴者B:今鳴った?
視聴者C:ユーマ後ろ!!!
視聴者D:逃げろ!!!!
悠真「え、後ろ?」
振り返る。
誰もいない。
「ちょっと皆さん、驚かさないでくださいよ……」
【コメント】
視聴者C:違う!! カメラに映ってる!!
視聴者E:天井!!!!!
悠真がゆっくりカメラを上に向ける。
そこには。
天井に四つん這いで張り付く、異様に手足の長い女がいた。
女『…………みぃつけた』
悠真「ぎゃああああああああああああ!!!!!」
彼は全力で走り出した。
だが、廊下の奥にある非常口が突然消えた。
代わりに現れたのは、無数の病室の扉。
そのすべてが一斉に開く。
女『かえさない……かえさない……』
悠真「誰かああああああ!!」
そのときだった。
「うっわ。なにここ、霊気エグくね?」
廊下の向こうから、場違いな女性の声が聞こえた。
Bパート:派手すぎる除霊師
コツ、コツ、コツ。
厚底ブーツの足音。
暗闇から現れたのは、黒いオーバーサイズのジャケットを着た女性だった。
腰まで伸びた金髪ベースのブレイズヘア。
ピンクと紫のエクステが編み込まれ、髪には金色のリングがいくつも付いている。
長いネイルに、大ぶりのピアス。
どう見ても、心霊スポットよりクラブにいそうな格好だった。
悠真「お、女の人!? 逃げてください!! 幽霊が!!」
女性「ん? あー、見えてる見えてる」
悠真「え?」
女性「てか、あんた何してんの? こんな時間に」
悠真「心霊配信を……」
女性「は? 配信?」
女性はカメラを覗き込んだ。
「え、これ生?」
【コメント】
視聴者A:誰!?
視聴者B:めっちゃ派手な女来たwww
視聴者C:ブレイズすげえ
視聴者D:いや後ろ!! 後ろ!!!
女『アアアアアアアア!!!!』
天井から悪霊が飛びかかる。
悠真「危ない!!!!」
しかし女性は、振り向きもせずに片手を上げた。
「ちょい待ち」
バシィッ!!
何もない空間から、黄金色に輝く巨大な腕が出現した。
悪霊の顔面を鷲掴みにする。
女『ギッ!?』
悠真「…………は?」
女性「今、話してんじゃん。割り込まないでくんない?」
【コメント】
視聴者A:?????
視聴者B:今なんか出たぞ
視聴者C:CG?
視聴者D:手!? でっかい手!?
悠真「あ、あなた一体……?」
女性「あー、自己紹介まだだったわ」
彼女はニッと笑った。
「神楽坂麗奈。除霊師やってまーす」
Cパート:神楽坂流・除霊千手
麗奈「で、あんた。なんでここに居座ってんの?」
悪霊『ニガサナイ……ワタシヲ……オイテイクナ……』
麗奈「ふーん。置いてかれた系ね」
麗奈は周囲を見渡した。
廊下に並ぶ病室。
そこには、無数の人影が立っていた。
悠真「ひっ!? 増えてる!?」
麗奈「違う違う。こいつが取り込んでんの」
悠真「取り込む?」
麗奈「この病院で死んだ人たちの霊。全部、自分の中に閉じ込めてるわけ」
悪霊の腹部が不気味に膨れ上がる。
その内側から、何十人もの顔が浮かび上がった。
悪霊『ヒトリハ……イヤダァァァァ!!!!』
ズズズズズ……!!
壁から黒い腕が伸びる。
床からも、天井からも。
病院全体が悪霊の身体のように変貌していく。
悠真「麗奈さん!! 逃げましょう!!」
麗奈「えー? なんで?」
悠真「なんでって、こんなの勝てるわけ……!」
麗奈「余裕っしょ」
麗奈はジャケットの袖をまくった。
そして、胸の前で静かに両手を合わせる。
ジャラ……。
ブレイズに編み込まれた金色のリングが、淡い光を放ち始めた。
麗奈「悪いけどさ」
その背後に、一本の黄金の腕が現れる。
続いて二本。
十本。
二十本。
五十本。
百本。
悠真「…………え?」
麗奈「その人たち、もう解放してあげなよ」
麗奈「神楽坂流――除霊千手」
ドォォォォォン!!!
背後に巨大な千手の光背が展開された。
黄金の腕が幾重にも重なり、病院の廊下を埋め尽くす。
【コメント】
視聴者A:は???????
視聴者B:千手観音!?
視聴者C:待ってこれ生配信だよな!?
視聴者D:登録した
視聴者E:なんだこの女www
麗奈「まずは、捕まえる」
「除霊千手・千手縛!」
無数の黄金の腕が一斉に伸びた。
壁から伸びる黒い腕を引き剥がし、巨大化した悪霊の四肢を拘束する。
悪霊『ギャアアアアアア!!!!』
麗奈「はい、動かないでねー」
黄金の腕が悪霊の腹部に触れる。
その瞬間、内部に閉じ込められていた霊たちが、一人、また一人と光の粒になって解放されていった。
悠真「す、すごい……」
麗奈「よし。あとはあんただけ」
悪霊『イヤ……ヒトリニ……シナイデ……』
麗奈「一人が嫌なのは分かるけど、だからって他の人を巻き込んじゃダメっしょ」
麗奈は少しだけ表情を和らげた。
「もう、休んでいいんだよ」
背後の千手が、ゆっくりと合掌する。
「除霊千手・百掌浄化」
百の掌が悪霊を包み込んだ。
激しい光が病院全体を照らす。
悪霊『…………ありがとう』
その声を最後に、女の姿は消えた。
病院には、静寂が戻った。
Dパート:まさかの配信デビュー
午前3時02分。
廃病院の外。
悠真は地面に座り込み、呆然としていた。
「…………助かった」
麗奈「いやー、結構デカかったね、あいつ」
悠真「結構どころじゃないですよ!!」
麗奈「そ?」
悠真「ていうか!! あの腕は何なんですか!?」
麗奈「あー、除霊千手?」
悠真「除霊千手!?」
麗奈「うちの家系の術。霊力で腕いっぱい出すやつ」
悠真「説明が雑すぎる!!」
麗奈は笑いながらスマートフォンを取り出した。
「あ、そういや配信どうなった?」
悠真「え?」
悠真が配信画面を確認する。
ユーマの深夜探索
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最新コメント
「あのギャル何者!?」
「次の除霊配信いつ?」
「金払ってでも見たいwww」
「除霊千手かっこよすぎ」
悠真「…………え?」
麗奈「おー、めっちゃ人いるじゃん」
悠真「い、1万人超えた……」
麗奈「へー。配信って儲かんの?」
悠真「え? まあ、広告とか投げ銭とか……」
麗奈「投げ銭?」
悠真「視聴者さんがお金を送ってくれる機能です」
麗奈「…………マジ?」
麗奈の目が輝いた。
「ねえ、あんたさ」
悠真「はい?」
「うちと組まない?」
悠真「…………はい?」
麗奈「うちが幽霊祓うから、あんた撮影してよ」
悠真「ええええええ!?」
麗奈「全国の心霊スポット巡ってさ、悪霊祓って、ついでに配信すんの。よくね?」
悠真「いや、それは……!」
麗奈「取り分は半々でいいよ」
悠真「やります!!!!」
即答だった。
麗奈「決まりね!」
彼女はカメラに向かってピースする。
「ってことで、みんなよろしくー! ギャル除霊師のレイナでーす!」
【コメント】
視聴者A:新チャンネル爆誕www
視聴者B:絶対登録する
視聴者C:このコンビ好きすぎる
視聴者D:次回も除霊千手見たい!
こうして、異色の心霊配信コンビが誕生した。
エピローグ:謎の視聴者
配信終了後。
誰もいなくなった旧黒峰病院。
二階の203号室。
先ほどまで点滅していたナースコールが、再び光った。
ピンポーン。
ピンポーン。
その部屋の古びたテレビが、突然点灯する。
画面に映ったのは、数分前の麗奈の除霊シーン。
そして、真っ黒な画面に白い文字が浮かび上がる。
『視聴者000が入室しました』
『…………見つけた』
テレビの内側から、何者かの笑い声が響いた。
第1話・完




