第5章 水の剣と炎の剣
ジェムおじさんについて森の中を走っていくと、大きなガラスの壁がそり立っていた。
「見えるか?これが結界だ。ドワール王国全体を囲っている。結界の外には凶暴な魔物がおる。そいつらは結界からドワール王国内へ入ることはできんし、王国へ干渉することさえできんのだ。そして、魔法の力を扱える者だけが結界を通ることができる。つまり、お前さんたちはこの結界を通りぬけることができるはずじゃ。さぁ行こう。」
ジェムおじさんがすっと結界を通り抜け歩いていく。こうすけはゆうすけの方を見た。そして、ゆっくり手を伸ばし結界を押すと、何の抵抗もなく手は向こう側へ通り抜けた。
「お兄ちゃん!」
こうすけはゆうすけに向かってうなずいた。
2人は結界を通り抜け、ジェムおじさんについていった。
ガサガサと木が揺れる音がする方を見ると、こうすけの3倍はある大きさの生き物がいた。ティラノサウルスのような体にこうもりのような羽が生えている。グリトスがグルルルと唸りながら、噛みついていた。ドラゴンだ。
「ストローグアロー!」
ジェムおじさんが杖をふり、呪文を唱えるとカミナリがドラゴンを攻撃した。ドラゴンは、一瞬ひるんだが、すぐにこちらへ向き直った。
「おまえさんたち、さあ!願うのだ!願いに力が答えてくれる。そして唱えるんだ!」
ジェムおじさんは闘いながらこうすけとゆうすけに叫んだ。
「唱える?」
こうすけは意味が解らなかった。
「えぇーっと、スターティア!」
戸惑うこうすけの横で、ゆうすけは大きな声でそう唱えながら右手を前に出した。その右手にゆうすけを包み込むほどの大きな赤い炎が現れた。
「おぉー!」
嬉しそうにゆうすけが言い、こうすけを見た。
「熱くないのかよ。」
「全然!」
嬉々としてゆうすけが答える。兄としての責任がある僕の身にもなってくれ、とこうすけは思う。
ゆうすけが出した炎がぎゅっと集まって、その中心がキラッと光った。光は長細い形になり、剣となった。赤い柄の部分はしっかりとゆうすけに握られている。剣道の竹刀よりずっと軽かった。目の前のドラゴンよりも師範の城崎先生の方がもっと怖かった。ドラゴンに勝てる、ゆうすけは思った。
「いくぜぇ!」
ゆうすけはドラゴンに向かって走り出した。恐怖はない。ドラゴンの少し手前で思い切り踏み切ってジャンプをすると、15メートルはあるドラゴンの頭の上の高さまで一気に飛び上がった。一番高く飛び上がったところでゆうすけは剣を振り上げた。その瞬間、ニッと笑ったゆうすけを、こうすけは見逃さなかった。
「あいつ。」
こうすけは自分の弟の行動に、心配を通り越して呆れた。そしてなぜか、あいつなら大丈夫だという直感があった。
ゆうすけは下に落ちる勢いでドラゴンを縦半分に切り裂いた。ドーンという音とともにドラゴンは倒れた。しかし、ドラゴンはすぐによろめきながら起き上がり、ゆうすけに襲いかかろうとした。
「スターティア!」
こうすけは反射的に唱えた。こうすけの右手に大量の水が現れ、ぎゅっと一つにまとまったその中心から、光とともに剣が現れた。青い色をした柄の部分は、しっかりとこうすけの右手に握られている。こうすけはドラゴンに飛びかかった。今度は横にドラゴンを斬り裂いた。こうすけの剣の斬り口は横一文の閃光となり、ドラゴンを上下に2分割した。ドラゴンは自分の体が真っ二つに切り裂かれていることに気付く暇もなく、黒い煙になって空中に消えた。
こうすけがドラゴンを倒してほっとしていると、ゆうすけが満面の笑顔で駆け寄ってきた。
「へへへ、ごめんごめん、油断しちゃった。」
「おまえなぁ。」
こうすけは呆れた。
「魔法の力ってすげぇ!城崎先生のほうがよっぽど怖いよ。」
2人は目を合わせて笑った。
剣道の指導者の城崎先生はめちゃくちゃ怖い。時間を守らないとか、挨拶をしないなど、礼儀には特に厳しい。練習も厳しくて、剣先が少しでも揺れようものなら、厳しく注意された。ただ、心の底から子ども剣道が大好きで誠実だ。2人ともそんな城崎先生から習う剣道が大好きだった。
「おまえさんたち、いつのまに魔法を使いこなせるようになったんじゃ?」
ジェムおじさんが近づいてきた。剣はいつのまにかなくなっていた。
グリトスがニヤッと笑ったような顔でこっちを見ていた。
「グリトス?!」
ゆうすけがグリトスを見て驚いた顔をした。
グリトスはもともと大きな犬だったが、ひとまわり大きい。ライオンのタテガミのように顔周りの毛が長く伸びている。目の色が黄色く光り、口が裂けていて、大きな牙が生えていた。
「グリトス、おまえ魔犬だったのか!!!!」
こうすけが驚いて言った。不思議だった。ドワール王国では魔法が封印されているのに、結界の外では魔物が存在している。結界の外は魔力が十分にある、ということなのだろう。
「このまま結界の外を調べよう。封印の秘密がわかるかもしれない。」
こうすけは提案した。
「それが良さそうじゃな。」
ジェムおじさんも賛成した。
「よっし!じゃ行ってみよう。」
ゆうすけがスキップしながら、進みはじめた。ゆうすけの後をついていくグリトスは、いつのまにか元の犬の姿に戻っていた。
こうすけ、ゆうすけ、ジェムおじさんとグリトスは、森の中を進み続けた。森を抜けると、ここが世界の果てだと言わんばかりに巨大な岩山がそびえ立っていた。どのくらいの高さがあるのだろう。1番上は霞んでしまってはっきりと見えない。
「ねぇ、魔法の力で空って飛べないあのかなぁ。」
上を見上げゆうすけがつぶやいた。途方もない高さだ。
ここに辿り着くまでに、ドラゴンやクロヒョウのような魔獣と何度も遭遇し、闘ってきた。実戦を重ねるたびに2人は強くなっていた。魔法の力で自由に体を動かせることが楽しくて2人の剣技はメキメキと上達していった。こうすけたちは時間が経つのも忘れて森の中を進んでいった。
実際にはどれくらいの時間、冒険をしたのかわからない。不思議なことに、疲れることも眠たくなることもなかった。これが魔法の力によるものなのか、ドワール王国では時間の流れ方が違うのか、わからなかった。
ジェムおじさんは、魔法は生命力そのものだと言っていた。高くジャンプする時に、足に力を込めて高く飛ぶことをイメージする。すると、イメージ通りに強い生命力が足に集中して体が動く。剣は生命力そのものが具現化したものだ。力が強ければ強いほど、強力な剣となる。
「わし1人なら簡単に飛べるのじゃがな。おまえさんらを乗せて飛ぶのはちと難しい。」
ジェムおじさんはフクロウの姿だと、その翼で空が飛べるらしい。だったら一人で飛んでいって、岩山の上を調査してくれたらいいのに、とこうすけは思った。でも、ジェムおじさんがそうしないということは、一人で行くには危険だと判断したいうことだろう。今や、ジェムおじさんよりもこうすけとゆうすけの戦闘能力の方が格段に高かった。
果てしない高さの岩山は、魔法の力を使っても、人間のこうすけたちはさすがに空は飛べない。魔法で身体強化をして、おもいっきりジャンプしたぐらいじゃとても届きそうにない。グリトスをかかえてよじ登るのも無理そうだ。どうしようか。悩みながらこうすけはグリトスと一緒に岩壁の周りを調べた。
グリトスは岩壁を見上げたり、匂いを嗅いだりしながらこうすけの前を歩いていた。
「ねえグリトス、何か見つけた?」
グリトスはうーん、と人間みたいな唸り声を出してこうすけを見た。
森を探検している間にこうすけとゆうすけはグリトスととても仲良くなっていた。2人が魔物と戦う時、グリトスのさりげないサポートでたくさんのピンチを潜り抜けてこられた。グリトスも2人といることが楽しい様子で、いつもどちらかの隣を歩いていた。兄弟が増えたような、そんな感じだった。




