第13章「魔法の力のひみつ」
「ジェム博士、報告を頼む。」
ジェムおじさんは大きくうなずいてから話始めた。
「はい。先ほど研究所の職員たちと一緒に先代国王の部屋と、結界の外の森で発見した建物の中を調査し、そして、驚くべき事実を発見しました。」
「先代国王はジェムおじさんの家に住んでたんでしょ!」
ゆうすけは鼻をフンっと鳴らして自信満々に言った。
「いや、そうではなくて・・・。」
ジェムおじさんは、気まずそうな顔をした。ゆうすけは、ん?という顔をしている。
「うちでしょ。」
こうすけの静かな落ち着いた声が響いた。
「その通りじゃ。」
ジェムおじさんは驚いた顔でこうすけを見た。
「40年前、先代国王は今のこうすけくんの家を拠点にしてさくら小学校へ潜入しおられた。そして、有り余るヒュゴルのこどもたちの生命力について研究されていたのじゃ。しかし、何らかの原因で魔法の力失った、おそらく、新しい魔道具の研究の過程での事故だったと思われる。そして、野生化される直前にこのドワール王国へ戻られたことが判明したんじゃ。」
「そうか。ジェム博士、他に父上の研究内容についてはわかったことはないのか?」
国王はジェムおじさんとウルの方を見て尋ねた。
「おそらく、先代国王は弱まっていく魔法の力を案じて、ヒュゴルの世界とドワール王国の魔法の力を共有するための魔道具を開発しておられたようですじゃ。つまり、さくら小学校の子どもたちの有り余る生命力の一部をドワール王国に転送する研究をしておられたようですじゃ。」
ジェムおじさんとウルは持っている資料を見た。
「たぶんなんだけど・・・。」
こうすけが話始めた。
「森で見つけた建物の隣に南天の木が植えてあったでしょ。うちにあるのと同じだった。あの木は先代国王が作った魔道具なんじゃないかな。僕らの世界からドワール王国へ生命力、つまり魔法の力を送るために造られた魔道具だと思うんだ。」
「どうしてそう考えたのですか?!はっきりしたことはわからないのですが、あの巨大な南天の木が原因となっている可能性があるのは確かです、こうすけさん。」
ウルは驚きながらこうすけをじっと見た。
「単純なことだよ。ドワール王国の魔法の力は弱まっているのに、結界の外ではたグリトスが魔犬に変身したり魔獣がいたり、魔法の力が満ちていたでしょ。つまり、あの南天の木から魔力が放出されていたんだよ。」
ジェムおじさんがは大きく頷いた。
「先代国王は魔道具の研究途中で魔法の力を失い、野生化されてしまった。おそらく、その後、南天の木が成長して魔道具として完成したのじゃろう。そして、10年前、ゆうすけくんがあの家で生まれた。皆も気付いておるじゃろう。この子に秘められた力を。」
この場で、話についてきていないのはゆうすけだけだった。他の全員が大きく頷いた。
「え?どういうこと?」
ゆうすけはみんなを見た。
「あなたの力のことよ、火の戦士ゆうすけ。」
シェミーは愛しい目でゆうすけに言った。
「魔道具である南天の木のそばで、ゆうすけは生まれたのじゃ。その他に宿っておる力の類は、ドワールのそれと同じ。つまり、そなたの出生時にドワール王国の膨大な力がゆうすけくんの体に宿ったのじゃ。」
ジェムおじさんはゆうすけを見つめた。
「つまり、俺が産まれたことで、ドワール王国の魔法の力が奪われちゃったってこと??だったら逆じゃない?俺の強い生命力がドワール王国へ送られたんじゃないの?」
ゆうすけはジェムおじさんに聞いた。でも、その質問に答えたのはこうすけだった。
「ゆうすけ、お前が産まれる時の話、覚えてない?小さい時にお母さんから聞かされただろ。」
「え、なに?覚えてない。」
ゆうすけはキョトンとしている。
「まったく、ゆうすけは本当にお気楽なヤツだな。ゆうすけは生まれる前に死にかけてたんだよ。母さんのお腹にいる時のエコー検査で心臓に穴が空いていてるのがわかったんだって。お腹の中にいる時から血液がうまく流れなくて、無事に生まれるかどうかもわからないし、なんとか生まれたとして生きられるかどうか、という状態だった。だから、大きな病院に入院する予定にしていたら、いつの間にか心臓の穴が塞がっていたんだって。こんな奇跡はありえないって、先生がびっくりして、お母さんは何回も検査に付き合わされて大変だったって。」
ゆうすけは驚いていた。
「そうだったんだ。おれ、死ぬ病気だったんだ・・・。」
「そうか、それで10年前、ドワール王国の魔法の力はゆうすけくんの体に送られたのじゃな。」
「じゃあ、おれは先代国王の作った魔道具とドワール王国の魔法の力のおかげで生きているんだ。お兄ちゃん、気が付いてたの?」
「大体の予想はしていたよ。確信はなかったけどね。魔法の力が弱まったのとゆうすけが産まれた時期が同じだったし、ジェムおじさんが魔法の力で病気を治せるって言ってただろ。僕たちが魔法が使えるのと関係あるんじゃないかなって。多分、ゆうすけの近くにいすぎたせいで僕にも魔法の力がうつったんだろうね。」
「鋭いじゃない、水の戦士こうすけ。」
シェミーが顔を上に向け、見下すような視線でこうすけを見た。
「いくら生命力が強いとはいえ、本来、お前たちヒュゴルがそれほど大きな魔法の力を宿すことはねぇからな。ゆうすけは赤ん坊の時に魔法の力を吸収したことをきっかけに覚醒しちまったんだろうな。」
グリトスが珍しく難しい話をした。ゆうすけは事実を受け入れられなかった。知らない間に、自分がドワール王国の力を奪って、たくさんのドワール国民の命を奪ってしまっていた。そんな自分が生きていていいのかという疑問が、ゆうすけの心を責めた。不安でいっぱいになった。
「ねぇ国王様、俺の命は、ドワール王国に返した方がいいのかな?」
ゆうすけは珍しく、元気のない声で聞いた。
返してくれ、と国王に言われたら、自分はどうしたらいいのだろう。もしかしたら、今までに犠牲になった国民たちの責任をとって生命力を全部奪われるかもしれない。そうしたら、自分は死んでしまうのだろうか。お兄ちゃんはなんて言うのだろう。お父さん、お母さん、あすかの顔が頭の中に浮かんで涙がこぼれそうになった。
そんなゆうすけの表情を見て、こうすけはゆうすけが何を考えているのかわかった。大丈夫、お兄ちゃんがついている。国王がゆうすけに危害を加えるようなことがあれば、全力でゆうすけを守る。こうすけは何があってもすぐに動けるように体全体に神経を張り巡らせて構えた。
「そんなに殺気を出さなくても大丈夫だ、こうすけ。」
そう言ったのはグリトスだった。
「どういうこと?」
こうすけは身構えたまま、グリトスの方を見た。
「ゆうすけの魔法からはドワール王国の匂いはしねぇよ。俺はそれぞれの魔法の力の匂いを嗅ぎ分けられるんだ。言っただろ?覚醒のきっかけになっただけだ。今の力は、お前が生きてきた中で蓄積されたものだ。それを奪う権利は国王にもねぇよ。ゆうすけは自分の力で国王を助けたんだ。」
グリトスはゆうすけに向かってニッと笑った。
「さよう、ゆうすけが魔法の力に覚醒してくれたおかげで今の私がある。それに、魔法の力が尽きることは、寿命が尽きると同じこと。つまりは自然の摂理である。犠牲に生った者は残念であったが、それも自然の流れ。ゆうすけの命はゆうすけのものであり、誰にも奪うことはできん。ドワール王国は遅かれ早かれ魔法の力は枯渇する運命だったのだ。」
国王の言葉で、ゆうすけの心をいっぱいにしていた不安がすっと引いたのと同時に、ドワール王国を救いたいという気持ちになった。こうすけもいつでもか剣を出せるように構えていた体の力を抜いた。
「ところで、ジェムおじさん、ウル。うちにある南天の木を別の場所に動かすことはできる?」
こうすけはすぐに問題解決のために考え始めた。
「調査をしてからでないとなんとも言えませんが、魔法陣をつかって、シェミー様のお力を借りれば何とかなるのではないでしょうか。ねぇ、ジェム博士。」
ウルは腕を組んで眉間にしわを寄せ、考えながら言った。
「ふむ、確かに。」
「へぇー、シェミーって転送魔法が使えるの?」
こうすけはそう言ってすぐにしまった!という顔をした。七獣魔導士に魔法が使えないはずがない。プライドの高いシェミーにこんな質問をしたら、機嫌を損ねてどんな目にあわされるかわからない。やばい!と思いながらそっとシェミーの方をみると、いつもの顔を上に向けて見下げるような視線でこうすけを見ていた。やばい、本気で怒っている目だ・・・。
「何を企んでいるのかしら?」
シェミーの冷たい声が響いた。こうすけは背筋がぞくっとした。
「ちょ、ちょっと考えたんだけどさ、うちの南天の木は、根元からどんどん脇芽が増えてて何本もあるんだ。だから、それをバラバラにして日本中の小学校とか幼稚園とかに植えたら、少しずつたくさんの力が集められるんじゃない?」
こうすけはシェミーの視線にビクビクしながら話した。みんなが一斉にこうすけの方を見た。
「ヒュゴルの世界にはさくら小学校がいくつもあるのかね?!」
もうお馴染みになったジェムおじさんのいつもの驚いた顔だ。こうすけもまた、みんなのそんな反応に驚いた。
「そんなの数えきれない程あるよ。」
「そ、そ、そんなことがありえるのですか?!さくら小学校だけでも600人程の子どもがいるのに、その小学校がいくつもあるというのですかは?!」
ウルはジェムおじさんに負けないくらい大きな目をして言った。国王の前でずっとおとなしく振る舞っていたので、やっといつものウルに戻ったみたいまだった。
「うん。」
「さすがヒュゴル、恐ろしいほどの生命力でありますね・・・。」
「ドワール王国にはないの?学校。」
ゆうすけが聞いた。
「あるにはありますが、王国内には3つの魔法学校があるだけです。」
「魔法学校?!行ってみたい!!」
ゆうすけは目をキラキラさせた。いつもなら、兄として弟をたしなめるべきなのだか、こうすけも魔法学校には興味をそそられた。
「ダメです。あなたたちヒュゴルに学校に来られたら大騒ぎになります。そんなことより、南天の木をバラバラにすることなどできるのですか?」
ウルにキッパリ断られたので、2人は仕方なく魔法学校にひくことは諦めることにした。
「できると思うよ。根が張るまで少し時間はかかるかもしれないけどね。でも、僕らはなぜか元の世界では魔法がうまく使えないんだ。だからみんなの協力が必要だよ。」
そう言って、こうすけは自分の計画をみんなに説明し、実行に移した。




