第10章 ドワール城の地下のひみつ
ゆうすけの炎で照らしながら階段を降りた。下まで降りると3つの別れ道になった地下通路につながった。
「城の地下にこんな隠し通路があったとは。ずいぶんと古そうじゃ。」
ジェムおじさんは羽をパタパタと動かして飛んだりかがんだりしながら、地下通路を調べている。グリトスもクンクンと匂いを嗅ぎながら何かを調べているようだ。
「3本道だね。どの道にすすむ?」
ゆうすけはワクワクした様子だ。こうすけが答えに悩んでいると、グリトスが低い声でワンワンと吠えながら一番右の道を進み始めた。まるで、こっちの道だよと案内しているみたいだった。
「グリトスがこっちだって言ってるよ。」
ジェムおじさんは他の2本の道も気になる様子だったが、ゆうすけはグリトスに案内されるままに、炎を出して道を照らしながら先頭を歩いていった。こうすけは、危険かもしれないので止めようかと迷ったが、どの道を選んでも危険であることは変わりないので、グリトスとゆうすけについて行くことにした。
グリトス、ゆうすけ、こうすけ、ジェムおじさんの順に地下通路を進むとすぐに広い空間に出た。一番奥に鉄の大きな扉がある。扉の両サイドに甲冑を着た2体のライオンの石像があった。こうすけ達が近づくと、2体のライオンの目が赤く光り、石像とは思えないほどなめらかで素早い動きでこうすけとゆうすけを襲ってきた。
「スターティア!!」
2人は瞬時に呪文を唱え、後ろに飛びのき、水と炎の剣を出して戦闘態勢をとった。しかし、すでにライオンたちは2人に向かって飛びかかってきていた。
「あっぶね!」
ゆうすけは寸前のところでよけたが、こうすけはその攻撃をガチンッと水の剣で受けた。赤く目を光らせたライオンの剣と、こうすけの水の剣が押し合っている。力は互角だった。互いの剣の力が反発し、こうすけとライオン同時に後ろに飛びのいた。
「石なのに動きが早い。ゆうすけ気をつけろ!」
別のライオンがゆうすけに切りかかっていた。ゆうすけは再びジャンプをしてかわそうとした。が、軽く跳んだだけなのに10メートルほど高く飛び上がっている。ゆうすけは宙に浮いたまま体を回転させて、ライオンの肩の上に片足で着地した。
「へへん!遅い遅い!」
ゆうすけは余裕の顔でライオンを挑発した。ライオンがゆうすけの足をつかもうと自分の頭の上に手を伸ばした。その瞬間、ライオンの腕をグリトスが噛みついた。ライオンはグリトスを振り払おうとしたので、グリトスはライオンの腕を噛んだまま振り回されて、後方へ投げ飛ばされた。グリトスはクルンと回転してトンと着地した。ゆうすけはグリトスのおかげで間一髪のところでライオンをかわし飛び上がり空中の高いところでその光景を見下ろしていた。にライオンの頭上高く、空中にいた。そして、着地する勢いのままライオンの背中に剣を振り下ろした。ライオンの石像は、上半身と下半身は縦斜め半分に切り裂かれた。
「真面目にやれよ。」
こうすけは、心配したと呆れたのとで、一瞬気が散ってしまった。その一瞬の好きをライオンが見逃してくれるはずがなく、すでにこうすけの目の前まで襲い掛かってきていた。
「おっと。」
そう言いながらも、こうすけは慌てることなく斜め後ろに跳ねた。軽くジャンプしたように見えたが、弾丸のような速さで異次元の飛距離を記録して壁に着地した。重力を無視して壁に立膝で座り、次の攻撃を狙っている。こうすけはその姿勢のまま壁を蹴ってライオンに飛びかかった。水の剣で切り裂りさかれたライオンの石像は、
2体ともに致命傷を与えたと思った。少なくとも、森で戦ってきた魔物だとこのまま黒い煙になって消えるはずだ。
ところが、砕けた石像の破片はカタカタと一つに集まり、再び元の姿を取り戻した。2体のライオンはゆっくりと立ち上がり、先ほどまでバラバラだったことが嘘のようにら剣を構えて戦闘体勢をとった。
「うそだろ。」
「そうこなくちゃ。」
ふたりはもう一度剣を構えた。
「普通に切ってもだめなら、どうやったら倒せるんだ?」
「やるしかないじゃん!」
ゆうすけが前に踊り出る。体重がなくなったように軽く飛び上がって宙を舞う。空中で逆さになりながら、ライオンの頭から下に向かって剣を突き刺した。
「串刺しライオンの出来上がり!まずそっ!」
冗談を言う余裕があるならさっさとそいつを片付けろ、とこうすけは思った。ライオンは串刺しの姿でゆうすけに拳で強烈な一撃を打っている。
「わっ。」
間一髪で、突き刺した剣を支点に体を回転させて攻撃をかわした。
「つまんないこと言ってるからだよ。」
こうすけは呆れた。その間にもう一体のライオンがこうすけに攻撃を仕掛けている。こうすけは地下空間をめいっぱい使い、ライオンと距離を取りながら平行に走った。その対角線上を、ライオンも同じ速さで走っている。ただ走っているように見えるがその速さは時速80キロにもなっていた。反撃のチャンスを狙う。体が軽い。森で戦った時よりも素早く動けるようになっている。
こうすけの体の中心を、電気が流れるような鋭い感覚が走った。握りしめた剣に力を込めると、その感覚は剣に流れていく。そして、石像が襲い掛かろうとしてこうすけの間合いに入った瞬間だった。
「メラス!」
言葉は自然と出てきた。まるで、ずっと前から知っていたみたいに、自然に。こうすけの声とともに、大量の水が剣から放出され、こうすけごと包み込んだ。その水は瞬時にいくつもの鋭利な氷の刃となり、あらゆる方向からライオンを貫いた。
何本もの氷の刃で貫かれた石像は、なんとかこうすけに攻撃しようともがいたが、まもなく赤い目の光が消えて動かなくなった。ライオンの体は、氷の刃の刺さったところから順番に凍っていき、全身が凍りついたところでバラバラにくずれて、空気に紛れて消えた。
「お兄ちゃん、いつの間にそんな新技できるようになったの?!いいなぁ。」
呑気なことを言いながら、ゆうすけは剣を構えて手に力を込めた。その瞳は赤みをおびて澄んでいて、迷いなどなかった。
「メラス!」
ゆうすけの声と同時に大量の炎が剣を包む。
「だぁぁぁぁぁー!!!」
ゆうすけは炎をまとった剣を構えてライオンに向かって走った。剣からあふれた炎の残像が光の線となり描かれていく。その幻想的な美しい光線は、その場にいたみんなを魅了した。描かれた光線をライオンは剣で止めようとしたが、ゆうすけに剣ごと真っ二つに切り裂かれた。縦半分になったライオンは、それでもゆうすけに攻撃をしようともがいたが、無意味に手足をばたつかせただけだった。地面に倒れたライオンは炎に焼きつくされボロボロと崩れ落ちた。
こうすけとゆうすけは、目を合わせると、ほっとしたように微笑んだ。ジェムおじさんはホッホッホッと笑いながらこうすけとゆうすけに近づいた。
「2人とも素晴らしい魔法使いに成長したな。」
2人とも魔法が上達していくことが嬉しかった。不可能が可能になっていく。
「さぁ、扉を開けよ!」
ゆうすけの元気な声が地下空間の中に響いた。
鉄の扉は近くで見ると想像以上に大きく、分厚かった。押しただけではびくともしない。
「全然動かないや。身体強化も全然ダメ。」
ゆうすけが言った。
「ゆうすけがやって無理なら僕も無理かな。」
こうすけはそう言って扉をよく観察した。黒い鉄の扉には、でこぼこした模様が描かれているみたいだ。ただの飾り模様に見えるが、よく見ると左右の扉で模様が違っている。
「この模様は――」
こうすけは何かに気がついた。
「ねぇゆうすけ、炎出せる?」
「できるけど、どうするの?扉燃やしちゃう?」
ゆうすけがにかっと笑ってノリノリで言った。
「さすがに燃えないだろうな。身体強化しても動かないってことは、きっと何かの仕掛けがあるんだよ。扉の模様を見てみろよ。古くてわかりにくいけど、左が水で右が炎を表しているだろ。つまり、火属性のゆうすけと、水属性の僕の魔法を込めて、同時に押すと――」
こうすけは左側のドアを、ゆうすけは右側のドアを、それぞれ水と火を腕にまとって力いっぱい押した。
こうすけから出された水が左半分のドアを包み、ゆうすけから出された炎が右半分のドアを包みこんだ。全体が眩しい光に包まれ、ゆっくりとドアは開いた。
「開いた。」
ゆうすけが言った。
地下だというのに部屋の中はなぜか明るい。
「こ、これは。」
ジェムおじさんが羽ばたきながら部屋の中へ進んだ。




