第53話 燃え広がるもの
『話題の新人声優ユニットに「枕抜擢」疑惑 背後に人気古参バ美肉Vの影』
最初にそれを見た時、正直、意味が分からなかった。
「……は?」
スマホの画面を見たまま、変な声が出る。
枕。抜擢。人気古参バ美肉V。
単語の並びが、あまりにも最悪だった。
見出しには、名前は出ていない。
けれど、記事を開けば、すぐに分かった。
話題の新人声優ユニット。
それは、Liminal Notesのことだった。
アニメ『ふたりのまんなか』で、メインキャスト三人に抜擢された新人声優アイドルユニット。
柚月ユキ、真白マユ、水瀬リン。
三人の名前が、記事の中にははっきりと書かれていた。
そして、その背後にいるとされる人気古参バ美肉V。
こちらも、直接的に断定しているわけではない。
けれど、原作者と親しい古参V。
アニメ化発表の公式同時視聴に出演。
新人声優アイドルユニットを以前から不自然に推していた。
メインキャストと主題歌を同時に任される異例の抜擢。
そんな書き方をされれば、誰のことかはすぐ分かる。
つまり、私である。
『これAL1-SAのこと?』
『古参バ美肉Vって他にいる?』
『リミノ急に出てきたと思ったらそういうこと?』
『さすがにありえんだろ』
『でも新人三人でメインキャストはおかしい』
『リミノ信じてたのに』
『俺はAL1-SAを信じる』
反応は、あっという間に増えていく。
馬鹿馬鹿しい。
まず、それが最初に来た。
私が立場を利用して、彼女たちに下衆なことをする……?
あり得ない。
そんなこと、するわけがない。
柚希と麻友は、俺の娘なんだぞ。
リンだって、俺が命をかけて守った子だ。
キャスティングの場にいたのは事実だ。
思い入れがあるのも、否定しない。
でも、キャスティングを決めたのは彼女たちの演技であって、私が三人をねじ込んだわけじゃない。
そもそも、そんな権限もない。
私が叩かれるだけなら、まだいい。
問題は、リミノの三人だ。
彼女たちは、まだ若い。
下積みを重ねて、ようやく評価されて、初めて立った大きな舞台なのだ。
それを下衆の勘繰りで穢された。
どす黒い怒りがこみ上げてくる。
ここまで強い感情に囚われたのは久しぶりだ。
そんなときスマホが震えた。
ウタからだった。
『は? 何よ、この記事。ふざけんな!?』
「落ち着け」
思わず声に出た。
慌てて返信を打つ。
『下手なことは考えるなよ?』
すぐに既読がついた。
『知らない。何も知らない奴らがあんたのこと好き勝手言って、ふざけんじゃないわよ』
画面越しでも、ウタが本気で怒っているのが分かった。
普段は皮肉っぽくて、面倒くさくて、感情をまともに出さないくせに。
こういう時だけ、やたら子供みたいにまっすぐ怒る。
いや、実際、子供なのだけれど。
『気持ちは嬉しい。でも、ぽえが動くのはまずい。お前の影響割とでかいんだから、騒ぎが大きくなったら逆効果だ』
送信してから、自分で嫌になった。
こんな時まで、私は正しい対応を考えている。
ウタは少し間を置いてから、短く返してきた。
『腹立つ』
『分かる』
『分かってない。あんた、自分のことになるとすぐ他人事みたいな顔する』
それには、返せなかった。
◇
その後、公式側からも連絡が来た。
記事への対応は、制作側と事務所側で確認中。
AL1-SA個人としての発言は、できる限り控えてほしい。
配信を行う場合も、本件には触れないでほしい。
可能なら、数日だけ様子を見てほしい。
数日後には、『ふたりのまんなか』の第一話放送を記念したキャストトークとミニライブが控えている。
リミノの三人にとっては、アニメのメインキャストとして初めて観客の前に立つ大きな場だ。
そこでオープニングを歌う予定にもなっている。
今、AL1-SAが下手に動けば、その場にまで火が飛ぶ。
命令ではない。
私は事務所所属のタレントではないし、制作側に活動を止められる立場でもない。
けれど、言っていることは正しかった。
炎上の中心にいる人間が喋れば、どんな言葉でも燃料になる。
それが正論でも、否定でも、沈黙への言い訳でも。
だから私は、数日間、AL1-SAとしての活動を止めることにした。
配信もしない。
SNSも見ない。
……でも、実際には、見てしまう。
見なければいいのに、スマホを手に取ってしまう。
検索しなければいいのに、流れてくる単語を目で追ってしまう。
リミノ。枕。AL1-SA。バ美肉V。ぽえ。ふたりのまんなか。
SNSには、記事を読んだ人が面白おかしく好き勝手に書いていた。
『AL1-SA、リミノ囲ってるってこと?』
『ぽえも関係者なんじゃないの』
『サクヤ先生も星空ルナも近いんだよな』
『古参Vの周り女ばっかじゃん』
『AL1-SAハーレム説出てて草』
『笑えないだろこれ』
馬鹿馬鹿しい。
馬鹿馬鹿しいのに、文字として並べられると、じわじわと精神が削られていく。
「ありちー、スマホ没収」
ひょい、と手元からスマホを奪われる。
「ちょっと」
「駄目です」
ヒナが、私のスマホを自分の背中側に隠した。
今日は部活が休みらしい。
そのせいで、昼過ぎからずっと私の家にいる。
「ありちー、顔が死んでる」
「死んでない」
「死んでる。だらーってしてる」
「それは否定しない」
私はソファに横になったまま、力なく答えた。
配信もできない。SNSも見られない。
かといって、何か手を打てるわけでもない。
できることがないと、人間は思ったより簡単にだらける。
「ありちー充電します」
ヒナは私の頭をそっと持ち上げると、自分の膝の上に乗せた。
「はい。充電中」
「私はスマホか」
「今のありちーは、電池切れのスマホより弱い」
「ひどい」
「事実です」
膝枕は、悔しいくらい落ち着いた。
ヒナの手が、ゆっくり髪を撫でる。
それだけで、張り詰めていたものが少しだけ緩んだ。
「……リミノ、大丈夫かな」
ぽつりと、声が出た。
すると、テーブルの向こうで黙っていたウタが、低い声を出した。
「またそれ」
ウタも来ていた。
来るなと言っても来た。
そして来てからずっと、機嫌の悪い猫みたいな顔で座っている。
「あんた、自分が何言われてるか分かってる?」
「分かってるよ」
「分かってない。全然分かってない」
ウタの声が少し大きくなる。
「人気古参バ美肉Vが、新人声優ユニットに枕させて抜擢させたって言われてるのよ。ハーレムだの、ぽえも囲われてるだの、好き勝手書かれてるの。あんたが下衆みたいに扱われてるの」
「……」
「なのに、なんで最初に出るのがリミノの心配なのよ」
「だって、リミノは新人だし」
「そういうところ!」
ウタの声が震えていた。
「そういうところが腹立つのよ。自分のことは蔑ろにして、他人のことばっかり心配して。あんた自分は傷ついてないみたいな顔をするから、余計に腹が立つ」
「でも、私は子供じゃないから」
「大人だから傷つかないって訳じゃないでしょ!?」
私は言葉に詰まった。
冷静ぶっている。
たぶん、それは当たっている。
怒ったら、壊れそうだった。
泣いたら、止まらなくなりそうだった。
だから、リミノの心配をしていた。
そうすれば、自分のことから目を逸らせる。
「うーちゃん、ダメ」
ヒナの声が、静かに響く。
「何」
「うーちゃんが、怒るのはわかる。ありちーのこと大切に思ってるのも知ってる」
「……」
「でも、それでありちーの負担になっちゃ、元も子もないでしょ」
ヒナは、私の髪を撫でながら言った。
「ありちーは今辛いんだから」
ウタは何か言い返そうとして、口を閉じた。
それから、少しだけ視線をそらす。
「……分かってる」
「うん」
「でも、腹立つ」
「それも分かる」
ヒナは頷いた。
「でも、怒るのはあとでいいよ。今は、ありちーを甘やかす時間」
「何それ」
「私たちの重要任務」
ヒナは真顔で言った。
ウタはしばらく黙っていた。
それから、小さく息を吐く。
「……ヒナ」
「なに?」
「変わって」
ウタは少し恥ずかしそうにそう告げた。
ヒナはにっこり笑うと、私の頭をそっと持ち上げた。
「ありちー、交代です」
私は大人しく体をずらされて、今度はウタの膝に頭を預けることになった。
ウタは、少し気まずそうに視線をそらしていた。
「……何よ」
「いや、珍しいなって」
「うるさい」
ウタの指が、私の髪に触れた。
ヒナほど慣れてはいない。
少し不器用で、どこか探るような手つきだった。
「噂のひとつは、本当になっちゃったわね」
ウタがぽつりと言った。
「何が」
「私、アリサの枕になってるから」
「あー……そうだな」
わざわざ、真面目に訂正する必要もないだろう。
これは、ただの膝枕だ。
あの見出しが言っているようなものとは、何もかも違う。
けれど、ウタがそう言うなら、それでよかった。
私は目を閉じる。
撫でられる手は、優しかった。
怒っているくせに。
不機嫌なくせに。
それでも、私を傷つけないように触れてくる、不器用な手だった。
◇
翌日の昼前、あかりが家に来た。
インターホン越しに顔を見た瞬間、私は少しだけ眉をひそめる。
「なにしに来たの」
「疑惑のVを見物に?」
「帰れ」
「冗談よ。ほら、開けて」
玄関を開けると、あかりは遠慮なく中へ入ってくる。
いつもの軽さだった。
けれど、歩き方だけは少し早い。
心配して来た、とは絶対に言わない。
そういう女だった。
リビングに入ると、あかりはコンビニ袋をテーブルに置いた。
中から出てきたのは、つまみになりそうな菓子と、なぜかビールとノンアルの缶だった。
「おい」
「まあまあ、一杯やりましょうや」
「まだ真昼間だぞ。それに、私は未成年なんだが」
「真昼間に飲むからいいんじゃない。それに、そっちはノンアル」
あかりは悪びれもせず、ビール飲料の缶を指で弾いた。
「こういう時は、飲める人間が飲むのよ」
「で、寝たの?」
「……は?」
「だから、記事に書かれてるようなこと。したの?」
「するわけないだろ」
「そうだろうとは思うけど、一応の確認」
「確認するまでもないだろ」
「本人に確認しないで決めつけるのも違うでしょ。ほら、性癖は自由だし?」
それは、まあ。そうなのかもしれないが。
「断固としてしてない」
「まあ、そうでしょうね」
あかりはあっさり頷くと、自分用のビールを開けた。
小さく、気の抜けるような音がした。
「中学生相手に酒盛りか? バレたら炎上必至だぞ」
「はっはっは。男関係がバレるより全然マシ」
「笑えねえよ」
「私は笑える」
「帰れ」
「だから冗談だって」
あかりは缶を少しだけ傾ける。
「乾杯」
「しない」
「じゃあ、一人で」
そう言って、あかりはビールを一口飲んだ。
「でも、世間はそう見てくれないわよ」
「……だろうな」
「AL1-SAは、基本的には男だと思われてる。素の声で騒がれた時だって、あれは作ってない声ってだけで、ボイチェン自体は使ってると思ってる人の方が多いでしょ」
「まあ……そうだろうな」
私はテーブルの上のポテチに手を伸ばした。
小袋を開けて、ひとつ口に入れる。
しょっぱい。あまりにも普通の味がした。
「食べるんだ」
「悪い?」
「ううん、全然悪くない。食べて食べて」
あかりはまたビールを飲む。
私は、もうひとつポテチをつまんだ。
「自分から男だと思われるように振る舞ってきたのが、こんな形で仇になるとは思わなかった」
AL1-SAは、最初からバ美肉おじさんだと思われるようにやってきた。
元々は、幼女だった私が社会に出るためにかぶった皮だ。
中身は男。声も姿も、ネット上のキャラクターとして作っているもの。
そう思われていた方が、都合が良かった。
女性Vとコラボしにくいとか、多少の不具合はあったが、基本的には問題なかった。
私がやりたかったのは、リスナーとゲームをしたり、くだらない雑談をしたりすることだったから。
「古参の男Vが、新人声優ユニットを妙に推していた。原作者とも仲がいい。公式同時視聴にも出ていた。そこにメインキャストと主題歌の抜擢が重なる。邪推されても仕方ない状況ね」
「最悪だな」
あかりはビールを一口飲んでから、缶を置いた。
私は、テーブルの上に置かれたノンアルの缶を見た。
飲む気なんてなかった。
けれど、ポテチを食べていると喉が渇いてくる。
それに、こんなあかりを真面目に相手しているのも、少し馬鹿馬鹿しくなってきた。
「お、開けるんだ」
「私のなんでしょ?」
「うん、付き合ってよ」
「へいへい」
プルタブを起こす。
軽い音がして、泡の匂いが少しだけ立った。
「それで、どうするの?」
「どうするって言われても何もできないよ。今、私が何か言っても燃料にしかならない」
「うん」
「だから黙る」
「よろしい」
あかりは軽く缶を掲げた。
「じゃあ、黙ることに乾杯」
「最悪な乾杯だな」
「今日はそういう日」
私は少しだけ迷ってから、ノンアルの缶を軽く持ち上げた。
缶同士が、小さく鳴る。
私は一口飲む。
当然、酒ではない。
けれど、わずかな苦味と炭酸が、喉の奥に残っていた嫌なものを少しだけ押し流してくれる気がした。
その時、スマホが震えた。
画面を見る。
SNSのDMだった。
相手は、水瀬リン。
リミノの三人とは、あの発表番組のあと相互フォローになっていた。
私的な連絡先を交換しているわけではない。
だから、リンが私に直接連絡を取るなら、このDMしかなかった。
『AL1-SAさん。突然すみません。少しだけ、相談しても大丈夫でしょうか』
指先が止まった。
「……リンちゃんからだ」
「何て?」
「相談したいって」
そう言っている間にも、続けてメッセージが届いた。
『ユキさんが、あまり眠れていないみたいなんです。今日も目の下にクマができていて、それでもみんなの前では笑おうとしていました。マユも、いつもよりずっと大人しくて、話しかけても少し遅れて返事が返ってくる感じで』
胸の奥が詰まった。
ユキが。マユが。
画面の文字だけで、二人の顔が浮かんでしまう。
『今日の収録でも、なかなかOKが出ませんでした。三人の息が合わなくて、私もちゃんとやらなきゃって思っているんですけど、うまくできなくて。今度、ミニライブもあるのに、練習しても前みたいに揃わないんです』
「……ユキちゃん、眠れてないって。マユちゃんも、いつもより大人しいらしい」
私は画面を見たまま言った。
「収録も、なかなかOKが出なかったって。ミニライブの練習も、前みたいに揃わないって」
言葉にしているうちに、胸の奥が重くなっていく。
数日後には、『ふたりのまんなか』のミニライブがある。
第一話放送を記念した、キャストトークとミニライブ。
リミノの三人が、アニメのメインキャストとして初めて観客の前に立つ大きな場だ。
そこで、オープニングも歌う予定になっている。
その前に、三人の歌が揃わなくなっている。
それだけで、今すぐ何かしなければいけないような気がした。
さらに、メッセージが届く。
『すみません。こんなこと、AL1-SAさんに言うべきじゃないのは分かっています。でも、少しだけお話ししたいことがあります。できれば、私一人でお会いできませんか。ユキさんとマユには、まだ言わないでください』
私は、そこで息を止めた。
「……会いたいって」
「誰が」
「リンちゃんが。できれば一人で来たいって。ユキちゃんとマユちゃんには、まだ言わないでほしいって」
言いながら、自分でもまずいと思った。
でも、それ以上に、放っておけないと思ってしまった。
「どうしよう」
私がそう呟くと、あかりは缶を置いた。
「ちょっと、そのDM見せて」
「え?」
「いいから」
私は少し迷った。
けれど、今の状況で一人で判断する方が危ない気がして、スマホをあかりに差し出した。
あかりは文面を最初から読み直した。
そして、すぐに顔をしかめた。
「会っちゃダメ」
「いや、でも」
「絶対、ダメ」
早かった。
「まだ言ってないだろ」
「言うことは分かるわよ。会って、慰めて、君は悪くないって言いたいんでしょ」
「……まあ」
「それ、罠」
「リンちゃんが?」
「あの子に悪意があるって話じゃない」
あかりはスマホを私に返さず、画面を指で軽く叩いた。
「でも、この文面は駄目。ユキが眠れてない。マユが大人しい。収録がうまくいかない。ミニライブが近い。全部、あんたが動きたくなる材料でしょ」
「……」
「同情を引くための文面になってる」
「リンちゃんが、そんな」
「意識してやってるかどうかは知らない。でも、結果としてそうなってる」
あかりの声は冷静だった。
だからこそ、きつかった。
「それに、大体おかしいでしょ」
「何が」
「記事が本当なら、AL1-SAは新人声優の女の子を食い物にしてるかもしれない男ってことになるのよ?」
「……あっ」
「そんな相手に、女の子が一人で相談に行こうとする? しかも、他の二人には内緒で」
言葉が詰まった。
「普通なら怖がる。避ける。事務所に相談する。マネージャーを通す。なのに、その子は一人で会おうとしてる」
「……」
「つまり、その子は、確認しに来ようとしてるのよ」
「確認?」
「記事が本当なのか。もし本当なら、自分がどうすればいいのか」
嫌な予感がした。
「どうすればって……」
「自分が犠牲になれば、他の二人は助かるんじゃないか。そう考えてる可能性がある」
息が止まった。
「いや、それは……」
「分からない?」
あかりは、私の目をまっすぐ見た。
「記事が本当だったとする。人気古参Vが新人三人をねじ込んだ。世間はそう見てる。だったら、その中の一人が責任をかぶって切られれば、残り二人は守れるかもしれない」
「……」
「その子が考えてるのは、そういうことかもしれないって言ってるの」
胸の奥が、冷たくなった。
リンが。あのリンが。
ユキとマユには言わずに、一人で俺に会いに来ようとしている。
自分の身を差し出せば、この騒ぎを終わらせられる。
自分が悪者になれば、ユキとマユは残れる。
そう考えているのだとしたら。
「……馬鹿なこと、考えるんじゃねぇよ」
自分でも驚くくらい、低い声が出た。
「だから会うなって言ってるでしょ」
あかりは言った。
「実際には、あんたはおっさんじゃない。だから間違いなんて起こりようがない」
あかりは、そこで一度言葉を切った。
「でも、その子はそれを知らない。AL1-SAを男だと思ってる。だから、自分が犠牲になればそれで済むって考えていたなら、暴走するかもしれない」
言葉が、喉の奥で詰まった。
「そんなわけないだろ」
「追い詰められてる時の人間は、都合よく解釈する。自分を犠牲にする理由がほしい時は、なおさら」
「……」
「ああいう子には気をつけたほうがいい」
リンに悪意があるとは思えない。
むしろ逆だ。
たぶん、善意だ。罪悪感だ。
誰かを守りたいという気持ちだ。
だからこそ、危ない。
私は返信欄を開く。
何度か文字を打って、消した。
大丈夫。違う。気にしなくていい。君は何も悪くない。
どれも足りない。
どれも、今のリンに届く気がしない。
少し考えてから、私は打ち直した。
『相談したいことがあるなら聞く。でも、一人で会うことはできない。会うなら、ユキ、マユ、マネージャーさんも一緒にしてほしい。今回の件はリン一人の問題じゃないし、君たちは何も悪くない。だから、一人で抱え込まないで』
送信する。
すぐに既読がついた。
けれど、返事はなかった。
画面の小さな文字を見つめたまま、私は息を止めていた。
火は、もうついている。
そして、その火は、誰かが思っているよりもずっと早く、彼女たちの足元まで広がり始めていた。




