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長編版:撫でられるのが仕事です。~裏切られ死んだ俺、猫に回帰して仲間を最強にプロデュースする~  作者: 堀籠遼ノ助(ほりこめりょうのすけ)
第六章 黄金ノ温泉郷ト古龍トノ邂逅

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第43話『活躍する聖騎士と謝罪するガーラントにゃ』

 ダンジョンの空気は、深層へ進むにつれて重く、冷たくなっていく。

 俺たちは現在、地下15階層を突破し、未踏の領域へと足を踏み入れていた。


「――盾突き(シールド・バッシュ)!」


 先頭を行く白銀の鎧――レオニードが、小気味よい掛け声とともに盾を振るう。

 ガキンッ! と硬質な音が響き、岩壁から襲い掛かってきた魔物が弾き飛ばされた。

 それは今まで見たこともない、全身が鉄鉱石で構成された『鉄の人形(アイアン・ゴーレム)』だった。


「今だ、総員攻撃!」

「「「ハッ!」」」


 レオニードの号令一下、部下の騎士たちが一斉に剣を突き出す。

 連携の取れた一糸乱れぬ動き。

 硬いゴーレムの関節部分を正確に貫き、一瞬で沈黙させた。


「すごい……。あれだけ硬い魔物を、あんなに簡単に」


 エレナが目を輝かせている。

 無理もない。レオニード率いる『白銀の黎明』の実力は本物だ。


 道中現れた『岩食い大蜥蜴(ロック・イーター)』や『鉱石蜘蛛(ジュエル・スパイダー)』といった新種の魔物たちを、彼らは危なげなく処理しながら進んでいる。


「いやあ、お恥ずかしい。バウマン領のダンジョンは魔物の質が高いですね。良い訓練になります」


 レオニードが爽やかに汗を拭う。

 その横顔は、絵画のように美しい。

 ガーラントが雇った護衛とは思えないほど、彼らは誠実で、協力的だった。


「……クラウス、少し良いか?」


 ふと、歩きながらガーラントがクラウスに声をかける。

 彼はレオニードたちの活躍を見ながら、少しバツが悪そうに視線を彷徨わせている。


「なんだ、ガーラント」

「いや……昔のことだ。さっき、レオニード殿の戦いを見ていて思い出したんだ」


 ガーラントは、クラウスの方を見ずに、ボソリと言った。


「子供の頃……『騎士ごっこ』と称して、私は君に酷いことをしたな。木の棒で叩いたり、無理な役を押し付けたり……。あの時は、それが面白いと思っていたんだ」

「…………」

「だが、本物の騎士というのは、ああいう方々のことを言うのだろうな。……今更だが、すまなかったと思っている」


 ガーラントが、頭を下げた。

 それはほんの一瞬だったが、あのプライドの塊のような男が、かつての「ゴブリン役」に謝罪をしたのだ。

 クラウスは驚きに目を見開き、そして小さく息を吐いた。


「……もう過ぎたことだ。気にしなくていい」

「そう言ってもらえると助かるよ。……君は昔から、私より大人だったな」


 ガーラントは自嘲気味に笑い、再び前を向いて歩き出した。


(……本気か?)


 俺はクラウスの腕の中で、そのやり取りを呆然と聞いていた。

 あのガーラントが、謝った?

 演技には見えなかった。少なくとも、今の彼からは悪意の波動を感じない。


(もしかして……この時代のガーラントは、まだ腐りきっていなかったのか?)


 あるいは、レオニードという「本物の英雄」と出会ったことで、彼の中で何かが変わりつつあるのかもしれない。


 もしそうなら、俺の復讐はどうなる?


 俺を殺したのは「未来のガーラント」だ。

 今、目の前で改心しつつある男に、未来の罪を背負わせて断罪することは……正しいのか?


 俺の心に、迷いが生じていた。

 その迷いが、俺の「野生の勘」を鈍らせていたことに、この時の俺は気づいていなかった。


 ◇


 地下19階層の最奥。


 そこには、巨大な一枚岩の扉が立ちはだかっていた。

 表面には複雑な幾何学模様が刻まれ、魔力を帯びて青白く発光している。


「ここが、行き止まりか……」


 レオニードが扉に手を触れるが、うんともすんとも言わない。

 バウマン家の記録でも、ここから先――地下20階層以降に進めた者はいないとされている。

 部下たちの痕跡はここまで続いているらしいが、彼らがどうやってこの扉を抜けたのかは謎だ。


「鍵穴も見当たりませんね。これでは……」


 騎士たちが困惑する中、エレナがぽんと手を叩いた。


「あ、この扉なら大丈夫だよ! ね、ノワ様?」

「にゃあ(ああ、9層にあったのと同じやつだ)」


 俺は尻尾を振って答える。

 以前、地下9層で発見した隠し部屋への扉。それと全く同じ術式が施されている。

 俺たちにとっては、既に見慣れたギミックだ。


「ノワール様の出番ですね!」


 ミアも微笑んで、俺を見る。

 俺はクラウスの腕から飛び降り、悠然と扉の前へと歩み出た。


「おや、猫ちゃん? 何を……」


 レオニードが不思議そうに見つめる前で、俺は扉に肉球を押し当てた。

 やることは単純だ。鍵となる魔力を流し込むだけ。


 【魔力譲渡(マナ・パス)】。


 その瞬間、脳内に無機質なシステム音が響いた。


《認証開始……》《個体名:ノワールより、龍族(ドラゴニア)の魔力因子を検知》《アクセス権限を確認。中層エリア『嘆きの坑道(グリーフ・マイン)』を解放します》


(……ん? 龍族?)


 俺は小首を傾げた。

 前回の扉では、こんなメッセージは出なかったはずだ。

 龍族の因子……もしかして、あの寝坊助ドラゴン(イグニス)と一緒にいすぎて、魔力が似てきたのか?


 まあいい、開けば何でも。


 ズズズズズ……ッ!!


 重低音と共に、巨大な岩の扉が左右に開き始めた。

 溢れ出す冷気と、カビ臭い風。


「なっ……開いた!?」

「猫が……扉を開けたのか!?」


 騎士たちがどよめく。


 ガーラントも目を見開き、レオニードは口笛を吹いた。


「驚いたな。バウマン家の守り神というのは、伊達じゃないようだ」

「えっへん! ノワ様にかかればこんな扉、朝飯前だよ!」


 エレナが自分のことのように胸を張る。

 俺もつられて尻尾をピンと立てた。


「よし、行こう。この先に遭難者がいるはずだ」


 レオニードが剣を抜き、先陣を切る。

 俺たちもその背中を追って、未踏の中層エリアへと足を踏み入れた。

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