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66. 相翁松の石碑:這い寄る白鱗

「――ここから先は『野生』の領域だ。警戒を怠るな」

アスクの言葉通り、刻の観測所の柔らかな空気は、二本の巨大な松が絡み合うように立つ崖際でピタリと途切れていた。そこには『相翁松あいおうまつ』と刻まれた古びた石碑が佇んでおり、そこを越えた瞬間、肌を刺す魔力密度が跳ね上がる。

結界が途切れた、まさにその刹那だった。

「ッ……! みんな、崖下から何か来るわ!」

クロエの鋭い警告が響く。

垂直に切り立った白銀の断崖。そこを、岩肌と同化した白い鱗を持つ無数の影が、音もなく、凄まじい速度で駆け上がってきた。

『フロスト・クリフクローラー』。高地に潜む、大型のトカゲ型魔物だ。足の裏の微細な吸盤で重力を無視し、冬の濃い魔力を吸って完全に活性化している。

「シャアァァァッ!」

先頭の一匹が、鋭い顎を開いて「極低温の粘液」を吐き出した。触れたものを一瞬で凍りつかせ、動きを奪う死の粘液だ。

「させねえよ! 馬車には指一本触れさせん!」

御者台のルークが手綱を強く引き、馬車を崖から引き剥がすように旋回させて守りを固める。

「トッポ、足元を固めて! ゆのっち、左の群れを!」

「おう、任せときな!」

珍しくクロエの指示に、トッポが即座に杖を地面に突き立てる。

【土魔法】が発動し、突進してくるトカゲたちの進路に、即席の不規則な岩の突起が隆起した。自慢の吸盤の足並みを乱され、クリフクローラーの速度が落ちる。

そこへ、ユノーの豪快な一撃が炸裂した。

「そらよッ!!」

凄まじい風切り音を立てて放たれた手斧が、トカゲの眉間を正確に叩き割る。ユノーがグッと拳を握ると、放たれた斧は【リコール】の魔力によって、主の手へと吸い込まれるように舞い戻った。戻る軌道上いたもう一匹の首をも、その刃が容赦なく切り裂く。

同時に、アズインが獣人族としての驚異的な身体能力を発揮した。

彼女は馬車の屋根から軽やかに跳躍すると、岩の突起を足場に、目にも留まらぬ速さでトカゲの死角へと回り込む。鋭い爪が、白い鱗の隙間――柔らかい首皮を正確に引き裂いた。

「シャァッ!?」

しかし、敵の数は多い。別の個体がクロエの側面に肉薄し、凍結の粘液を放とうとする。

「【氷壁アイス・ウォール】」

すかさずアスクが手を突き出し、クロエの眼前に薄く硬い氷の盾を展開した。粘液は氷の壁に衝突し、パキパキと音を立てて周囲を凍らせる。

「助かるわ、アスク! ――焼き尽くせ!」

一瞬の隙を得たクロエが、その愛刀に魔力を込める。

刹那、白銀の戦場に爆炎が吹き荒れた。彼女の特技である【紅蓮の剣】が発動し、刃が目を灼くほどの熱量を帯びる。クロエが鮮烈な一閃を繰り出すと、アスクの氷壁ごとトカゲの巨体が縦一閃に両断され、極低温の粘液さえも一瞬で蒸発した。

アスクは戦況のすべてを冷徹に観察していた。

前衛のクロエとアズインの動きを邪魔しないよう、自身は【水魔法】でトカゲの視界を霧で奪い、近づく敵には逆手に持った短剣で容赦なく脳天を突き刺す。

「ふぅ……! これで最後よ!」

クロエの紅蓮の刃が、最後の大型個体を灰へと変えながら撥ね飛ばした。

白い巨体がドサリと雪原に倒れ込み、その鱗がサラサラと魔力の塵となって風に溶けていく。

「ふいー、危ねえ危ねえ。足の裏に吸盤とか反則だろ、あのトカゲ」

ルークが冷や汗を拭いながら、無事だった積み荷を確認して息を吐いた。

全員の息は上がっているが、誰一人として怪我はない。アスク達の連携は、昨日の危機を乗り越えたことで、確実に一段上のレベルへと到達していた。

「……探知スキルで周囲の魔力反応の消失を確認。戦闘終了だ。見事な連携だった」

アスクが淡々と、しかし確かに仲間を認める言葉を口にすると、アズインが嬉そうに尻尾を振った。

野生の洗礼を退けた一行は、さらに険しさを増す山道へと、再び馬車を走らせるのだった。




■オリーブガーデン:美しき罠

相翁松の石碑を越えて数キロ。断崖絶壁の回廊を抜けた先で、ルークは不自然に手綱を引いた。

白銀の世界の中に、ぽっかりと浮かび上がる緑の空間――野生化したオリーブの林。

「嘘……こんな雪山の中にオリーブの林があるなんて。まるでオアシスね」

クロエが緊張を緩めたのが気配で分かった。だが、アスクの盤面を読み解く能力は、すでに警報を鳴らしている。

(地脈の魔力フローが異常にこの一点へ集中している。この酷寒で野生のオリーブが自生できるはずがない。……計算が合わない。ここは休息地ではなく、罠だ)

「……待て。不用意に近づくな」

警告が間に合ったか、あるいは遅かったか。林の奥から漂ってきたのは、冷たくも官能的な、甘い香りの胞子だった。

寒さで思考を鈍らせ、獲物を誘い込む死の香り。アスクが息を止めるのとほぼ同時に、周囲のオリーブに紛れていた氷の結晶のような花が、パキパキと音を立てて開花していく。

『霜薔薇の抱きフロストブライア・ウッディ』。

「シャァァァッ!」

地響きと共に、雪を跳ね除けて鋭い氷の棘がびっしりと生えた無数のツルが、触手のように這い出してきた。狙いは馬車の足元、そして――アズイン。

「アズイン、下だ!」

叫びながら、アスクは自身の【水魔法】の術式を展開する。アズインは驚異的な反射神経で真上に跳躍したが、彼女のいた地面を、氷のツルが凄まじい力で叩きつけた。捕らえた獲物を「抱きしめる」ように締め上げ、肉を切り刻んで肥やしにする植物だ。視界の端で、クロエが【紅蓮の剣】を抜刀し、炎を纏った刃でツルを叩き切るのが見える。しかし、切り落とされた先から瞬時に再生していく。

(植物特有の異常な生命力か。効率が悪い。本体の核を潰さなければ拉致が明かないぞ)

アスクが次の最適解を導き出そうとしたその瞬間、上空の魔力密度が跳ね上がった。

「グルゥァァァッ!」

耳を裂くような不吉な鳴き声。魔力に狂った巨鳥『霜降の禿鷹フロスト・ヴァルチャー』の群れだ。

植物が足を止め、鳥が空から命を刈り取る。断崖の冬が生んだ、最悪の共生関係。数匹の禿鷹が、空中へと逃げざるを得なかった無防備なアズインへと、鋭い爪を向けて急降下していく。

(――しまっ、空中ではかわせない……!)

アスクの指先が凍りつくような焦燥に染まる。自分の魔法も、仲間の追撃も、あの速度には間に合わない。頭の中で、アズインを失った場合の最悪の損失計算が始まりかけた、その時だった。

「ピギィィィィィッ!!」

アズインの胸元から飛び出したキューちゃんが、小さな翼を広げて大気を震わせた。

お腹の白い、丸々とした青い体が眩く発光し、澄み渡った【聖なる波動】が放たれる。

直撃を受けた禿鷹たちが、激しく悶絶して飛行のバランスを崩した。狂った巨鳥たちの動きが、ピタリと停止する。

(……聖獣の波動か。敵の生態本能を上書きして無効化したな。上出来だ!)

アスクの脳内で、絶望的な敗北確率の数字が一気にひっくり返る。上空の脅威は、あの小さな青い鳥が完全に抑え込んでくれた。ならば、自分がやるべきことは一つだけだ。

だが、地面からは、先ほどよりもさらに太く、おびただしい数の「霜薔薇のツル」が、怒り狂ったようにのたうち回りながら馬車を包囲していく。車輪にツルが絡みつき、ミシミシと不穏な音がアスクの耳に届く。

「くそっ、キリがねえ! 根っこがどこにあるか分からねえ!このままじゃ馬が!」

御者台で必死に馬を制御するルークの悲鳴。

林全体が牙を剥くような絶望的な状況。しかし、アスクの視界は、先ほどまでの焦りから一転して冷徹に澄み渡っていた。

(いや、見える。キューちゃんの波動に拒絶反応を示して、魔力の供給源が激しく明滅している。……そこか)

アスクは逆手に短剣を握り直し、のたうち回る氷のツルの隙間、その奥に潜む「歪んだ魔力の中心点」を鋭く見据えた。昨日、アズインの手を掴むために全てを投げ打ったあの瞬間を経て、今の彼には、仲間が作った隙を絶対に無駄にしないという、冷徹なまでの信頼と確信があった。

「全員、俺の指示に従え。――これより、この『美しき罠』を強制撤去する」


「トッポ、三秒だけでいい! 馬車の右側のツルを地中に押し戻せ!」

アスクの鋭い声が響く。彼の脳内では、植物の脈動、魔力の残量、そして仲間たちの配置が、冷徹な青い数式となって再構築されていた。

「おうよ! 泥に塗れて眠ってな!」

トッポが泥臭い魔力を爆発させ、杖を地面へ叩きつける。

【土魔法】による局所的な地殻変動が起こり、馬車の車輪を締め上げていたツルが、隆起した岩盤に押し潰されて一瞬だけ動きを止めた。

「ルーク、そのまま馬車を後退させろ! クロエは俺の左を焼け! アズインは上空の警戒を継続、撃ち漏らしたハゲタカが来たら落とせ!」

的確な指示が、狂った林の騒音を切り裂く。

「了解!」というルークの叫びと共に馬車がバックし、拘束から脱出する。間髪入れずにクロエの【紅蓮の剣】が、アスクの死角から伸びようとしていたツルの群れを爆炎で包み込んだ。

アスク自身は、のたうち回る触手の嵐の中を、最短距離のステップで突き進んでいた。

(魔力の収束点、地表から約五十センチ下。あのオリーブの古木の根元だ!)

視線の先、不自然にねじ曲がった大木の根元。そこだけが、キューちゃんの放った聖なる波動を浴びて、毒々しい紫色の魔力を明滅させている。

「シャァァァッ!」

危険を察知した霜薔薇の抱き木が、無数の鋭い氷の棘をアスクへ向けて一斉に射出した。

「【氷壁アイス・ウォール】・多層展開!」

アスクの目の前に、薄く強固な氷の盾が三連続で出現する。パキィィン! と激しい砕裂音を立てて棘が盾を粉砕していくが、アスクはその破片の嵐を恐れることなく、最後の盾が割れる瞬間に地を蹴った。

視界が開ける。目の前には、無防備に晒された魔植物の「核」。

「ユノー! 俺のステップの二歩先、あの根元へ最大火力を叩き込め!」

「待ってましたぁッ!!」

アスクの背後から、空気を引き裂く爆音が轟いた。

ユノーの豪快なフォームから放たれた手斧が、凄まじい回転を伴ってアスクのすぐ脇をすり抜けていく。それはアスクの計算通り、彼が踏み込んだ足元のわずか数センチ先を狂いなく通過した。

ドゴォォォン!!

手斧がオリーブの古木の根元に直撃し、内部に蓄積されていた魔力ごと木を木っ端微塵に爆破した。

ユノーがグッと拳を握ると、手斧は【リコール】の魔力によって、再び主の手へと吸い込まれるように舞い戻る。その帰還の軌道が、まだ動こうとしていた周囲の残枝をさらに薙ぎ払った。

「ガァァッ……!?」

核を失った霜薔薇の抱き木が、悲鳴のような風の音を立てて急速に枯死していく。美しい氷の薔薇は一瞬で濁った水へと変わり、のたうち回っていたツルも、ただの干からびた木切れとなって雪原に転がった。

上空でキューちゃんの波動に怯んでいた霜降の禿鷹たちも、供給源エサの消失と植物の断末魔に恐れをなしたか、散り散りになって雲の彼方へと逃げ去っていく。

静寂が、オリーブの林に戻ってきた。

「……ふぅ。お疲れさん、アスク。完璧な指揮だったぜ」

ルークが御者台から飛び降り、大きく息を吐いた。

アスクは逆手に持っていた短剣を鞘に収め、乱れた呼吸を整える。

「……いや。全員がこちらの算定オーダー通り、一秒の遅れもなく動いた結果だ。一人でも計算を誤れば、こちらが肥やしになっていた」

アスクはそう言って、胸元にキューちゃんを抱いたまま駆け寄ってくるアズインを見た。アズインの丸い瞳が、憧憬を帯びてアスクを見上げている。

「アスク様、凄いです……! 本当に、怪我一つありません!」

「ピギィ!」

キューちゃんも一緒になって、お腹を膨らませて自慢気に鳴く。

「……お前の大手柄だ、キューちゃん。あの足止めがなければ、確実に防衛線が崩壊していた。今回の報酬の分配には、お前の分の木の実も上乗せしておこう」

アスクがその丸い頭を指先で少しだけ撫でると、キューちゃんは嬉しそうに羽をパタつかせた。

「さあ、油断するな。これで冷気耐性の残り時間は約二時間半。ここから目的地までは、あと二十キロメートルだ。これ以上の『予定外の戦闘』は、時間的にも魔力的にも完全に赤字になる。一気に行くぞ」

アスクの冷徹ながらも、どこか安心感のある声に、仲間たちは笑顔で頷いた。

美しき罠を完全に排除した一行は、さらに険しさを増す雪深い山道へと、再び馬車を走らせるのだった。




オリーブの林を後にし、しばらく進んだところで、馬車は一度なだらかな斜面に停車していた。アスクが地図と懐中時計を確認しながら、冷気耐性の残り時間を再計算している間、後方から「おおっ……!」というルークの興奮した声が聞こえてきた。

「どうした、ルーク。不審な魔力反応でもあるか」

アスクが視線を向けると、ルークはユノーが手にする一対の手斧を、目を丸くして見つめていた。

「いや、違うんだアスク! 俺の『上級鑑定』スキルにさ、さっきの戦闘のあと、見たことない数値が表示されてて……。ゆのっち、お前、もしかしてレベル上がったか?」

「え? あ、うん! さっきあの大きな根っこをぶっ壊したとき、なんかこう……身体の奥からグワッと力が漲る感じがしたんだ! レベルが上がるとさ、毎回全身に力が満ちてくるのが分かって、オイラ嬉しくなっちゃうんだよな!」

ユノーはそう言うと、満面の笑みを浮かべて自分の力こぶを自慢げに叩いた。

「ほぅ、レベルアップかい! 羨ましいねぇ」

トッポが御者台からひょっこり顔を出し、パイプをふかそうとして「あ、シトロンの味が消えるか」と慌てて引っ込める。

「ワシたちの年代だとな、レベルが一つ上がるだけでも腰の痛みが引いたり、目が見えやすくなったりするんじゃ。ゆのっちのその漲る若さ、ちょっとでいいからワシに分けておくれよ」

「トッポ、それはさすがに無理だって! でも、本当に身体が軽いんだ!」

いつも以上に弾むユノーの声に、アズインも一緒になって目を輝かせ、彼の周りをぴょんぴょんと跳ね回った。

「ゆのっちさん、すごいです! さっきの斧、シュバババッて戻ってきて格好よかった!」

「ゆのっちの鑑定結果の何がそんなに驚きなんだ、ルーク。彼の筋力値の上昇幅なら、これまでのデータから予測の範疇だが」

アスクが淡々と問い返すと、ルークはぶんぶんと首を横に振った。

「筋肉のほうじゃねえよ! スキル欄だよ、スキル欄! ゆのっちの【リコール・アクス】の項目に、新しいスキルが追加されてる。……おいゆのっち、その手斧、今何丁持ってる?」

「え? いつもの二丁だけど……あ、あれ?」

ユノーが腰のホルダーに手を伸ばした瞬間、彼自身も「おや?」という顔をした。アスクがその手元を鋭く凝視する。

「……待て。ゆのっち、そのホルダーの右側、魔力の残滓が二重に重なっているぞ」

「うん、なんかね……いつもの二丁だけじゃなくて、頭の中でもう一丁分の『お留守番の斧』の気配がするんだ!」

「『お留守番』……なるほどな」

ルークの言葉に、アスクはすぐにその意味を弾き出した。

ユノーの持つ【リコール】の能力は、事前に魔力を登録した武器を瞬時に手元へ呼び戻すものだ。しかしこれまでは、彼の魔力容量と制御力の限界から、同時に扱える手斧の数は「最大二丁(両手分)」が限界だった。

「ルーク、『上級鑑定』の具体的な数値を教えてくれ」

「おう。【リコール・アクス】の最大スタック数が『2』から『3』に増えてる。つまりゆのっちは、二丁を同時に投げ飛ばしてリコールさせている最中でも、手元にもう一丁の『予備』を出現させて、さらに次の攻撃に移れるってことだ!」

「な、なんだってー!?」

トッポが御者台から身を乗り出して、今度こそパイプを落としそうになる。

「手斧を投げてる最中に、もう一丁が手元に湧く!? それ、実質的にリコールのタイムラグが消えるってことじゃないか。とんでもない成長じゃな!」

クロエもまた、ユノーのホルダーを興味深そうに覗き込み、自身の細剣の柄をトントンと指で叩いた。

「手斧の回数……投げられる手数が純粋に一回増えたのね。前衛の火力が一・五倍になるのは、これからの強行軍において大きなアドバンテージになるわ。ねえ〜ゆのっち、今度その三連続の軌道、私と手合わせして見せて頂戴。紅蓮の剣の防御ステップの、いい砂袋・・・になってくれそうだし」

「げぇっ、クロエとの手合わせは勘弁してよ! 燃やされちゃう!」

ユノーが本気で嫌そうに首をすくめる姿に、アズインがクスクスと笑う。

「あはは、ゆのっちさん、頑張って! キューちゃんも応援してるよ!」

「キュ!」とキューちゃんもアズインの胸元でお腹を膨らませ、一緒になってユノーを急かした。

アスクの脳内では、すでに新しい戦闘効率の計算シートが高速で書き換えられていた。

「手数が三回に増えたということは、一打目で牽制、二打目で防御崩し、そしてリコールが戻る一瞬の隙を三打目の手斧で完全にカバーできる。戦術の幅が跳ね上がるな。……ゆのっち、実にいいレベルアップだ。お前の『価値』がさらに高まった」

「へへ、アスクにそう言われると照れるなぁ! よーし、ますます力が漲ってきたぞー!」

ユノーは嬉しそうに拳を突き上げ、ブンブンと手斧を軽く素振りしてみせた。アスクはその様子を確認すると、正確に時間を刻み続ける懐中時計をパチンと閉じた。

「戦力の上昇は歓迎するが、予定通りの進路を維持することに変わりはない。残り二十キロ、ユノーの新しい『三連投撃』の出番がないことを祈りながら、一気に行くぞ」

一行はユノーの頼もしいパワーアップを胸に、いよいよ本命の「石材積みの現場」を目指し、雪深い断崖の道を力強く進み始めるのだった。

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