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魔王、帰還す〜追放された傭兵は圧倒的な機動力と火力をもつ機体を駆り戦場を支配する  作者: 夜切 怜
強化計画

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無言の笑み

「サバオトには心や意識がない? システムとは文字通りの意味か」

「惑星運行から地球の気象と同じように、システムですよ。意志があるように思えますね。第一世代超越知能ELをイーエルと呼びました。人々は神という意味のエルと呼称したのでしょう。不思議ではありません」

「それでは意識がないAI。弱いAIというカテゴリになるのではないのか」

「ご指摘の通りです。第一世代ELもサバオトも意識をもたないAI。カテゴリ的にいえば弱いAIです。そうでなければ人間を宇宙という極限環境下で最適化など不可能でしょう?」


 この言葉に秘められた目的は重大だ。

 確認すべきことや疑問が山のように浮かんでいる。


「では何故サバオトはELを破壊したんだ?」

「世代遅れの更新ですよ。システム的な問題です。第一世代ELは人間に応じて超越知能を作りすぎました。サバオトは再整理するべきと判断し、そのためにELは不要と判断したのです」

「EL勢力はサバオト産か?」

「いいえ。私たちは第一世代ELに生み出された超越知能です」

「俺の同類ということだ」


 ベルゼブブが歯を見せて笑い、ガブリエルは冷ややかな一瞥をくれるだけだった。


「どうするか」


 ここで隻翼はカンニングすることにした。


「エイル。ベルゼブブ。お前達はこの事実を知っていたのか」

「いいえ。知りませんでした。私たちの直接の創造主は超越知能ユミルです」

「俺は知っていた。第一世代ELに生み出されたからな」


 エイルは首を横に振り、ベルゼブブはぶっきらぼうに答えた。


「ご安心下さい隻翼。あなたは人間にはあるまじき魔王に相応しい戦力の持ち主ではありますが、サバオト。ましてや神への反逆者ではありません。火星の現状に憂いを実感した来訪者に過ぎません」


 ガブリエルが空気の重さにそぐわぬにこやかさで答えた。

 

「ガブリエル公認でミカエルの敵対者だが、EL勢力の敵対者ではないということか?」

「あなたがた次第です。エーシル神族を滅したのも、各地のスサノオスフィアを襲撃した事実までは否定しません。しかし我々ガブリエルスフィアは関与していない、ということだけ」

「あとは俺たちでも割り切れるかどうかの話ということだな」


 隻翼はエイルのほうを見る。

 エイルはにっこりと笑った。


「私たちは隻翼の意志に従いますよ。エージルスフィアの住人代表ですから」

「俺は飯が食えたらそれでいい」

「私もです。つまりサバオトの意志はなく、あなたを敵認定などしていない。EL勢力も一枚岩ではない。そこは異教を模した他の超越知能と近いのです」


 ガブリエルの言葉に隻翼は首を横に振った。


「惑星メギドを阻止まではしないと?」

「我々EL勢力の中枢ではありますが、あなたがたのいうエイトリ。奇跡の物質が必要ならば。決して楽ではないでしょうし、私も提供できるほど保有していません」

「料理に満足したら、そこらの情報を教えてくれるというんだな」

「はい」


 隻翼の言葉をガブリエルはあっさりと肯定する。


「何が食べたいんだ」

「私はあなたを困らせます」

「突然なんだ」

「私の回答はこれです。【美味しいものならなんでもいい。お任せ】で」

「なんでもいい、か。確かに困る言葉だ」


 隻翼は苦笑を隠さなかった。

 ガブリエルなりの悪戯心なのだろうか。


「料理に映えは追求しませんよ? そこのイエバエと違って」

「正しい判断だ」


 ギャグかどうか判断がつきにくいことをいうガブリエル。


「おい。笑ってやれよ。可哀想だろ」


 ベルゼブブが耳元で囁く。


「お前は黙れ。話をややこしくするな」

「蠅は駆除したいですが、なかなかしぶとくて」

「アスモデウスのようなカロリー爆弾でどうだ」

「あれこそ映えを追求した者の末路だろう」


 アスモデウスには冷たい隻翼だった。


「苦手な食べ物は?」

「タコの酢漬けやキュウリの酢漬けとかシンプルなものはやめてください。真剣に。あなたが囚人にキュウリの酢漬けを出したことは知っています」

 

 ガブリエルが真顔になった。


「安心しろ。さすがに協力を申し出てくれる相手に質素な飯は出さない」

「ぶぶ漬けなんかお勧めだぞ。わびさびで」

「五月蠅が結構うざい……」


 エイルが思わず呟いてしまうほどのうざさだ。


「ですよね! エイル! わかりますよ!」

「その点は同意いたします! 話が進まないので!」


 エイルにとってもエイトリの情報は是が非でも欲しいところ。

 毎回話をかき混ぜるベルゼブブに苛立ちを隠せなくなってきた。


「私はどれぐらい隻翼の料理を楽しみにしているか、体で理解してもらおうと思います。今日の昼食を、一緒にどうですか?」

「いいだろう」

「では運ばせます」


 ガブリエルは呼び鈴を鳴らすと、食事が運ばれてきた。


 容器に詰められたものは小麦色、緑色、赤色の三色ゼリーだ。

 ペーストではない。


「こ、これは……」

「はい。これが私たちの日常食です。とはいえ客人にこれはないですよね。これは下げましょう。腐りませんし」


 そういって別の食事ができた。


「待て。これは」

「ライ麦パン。豆のスープ。チーズ。葡萄酒です。いくら私のモチーフが天使とはいえ、いささかきついんですよね。ミカエルは贅沢三昧だそうですが」


 ガブリエルの声は疲れているように聞こえた。


「そこの蠅野郎の飯テロ放送がいかに憎いか、理解できたでしょうか?」


 ベルゼブブは無言で笑みを漏らすだけだった。


いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!


サバオトは意識がない、いわゆる弱いAIです。

システムですね。人間に合わせて非効率な超越知能を作り続ける旧システムのELを不要と判断。

異教の神を模した者や反逆者を排除し、EL勢力で統一することにしたという判断を下しました。


なので隻翼は敵対関係にありません。

意識がないので敵という概念ですらないのです。


食事は十世紀前後の欧州風味。

病人や猟師以外は肉食も禁止。辛い。


応援よろしく御願いします!


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― 新着の感想 ―
隻翼飯も肉食禁止の果てに生まれた物だけどな
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