五月蠅い
隻翼は冷静に応える。
「火星にあるミカエルスフィア殲滅よりも重要なことがあるが、それを俺が回答することによりこの場で殺されては敵わんからな」
「ご冗談を。あなたがたを殺すことによってアルフロズルは暴走。いざとなったら太陽炉を誘爆させてL4ガブリエルスフィアを消滅させるこさえも可能です。そんなことは致しません。サバオトの名に賭けて誓いましょう」
エイルが唇の端を歪ませる。
隻翼には隠していたがガブリエルの言う通り、相討ちにはもっていけると確信していた。
「ガブリエル本体を消滅させることはできないだろう」
「できますよ。この肉体が私自身なのですから。超越知能の私もすぐ近くにあります。そこの蠅が本体といっしょにアルフロズルに乗車しているように、遠くへはいけません」
隻翼がベルゼブブを見る。
ベルゼブブはいつものように不適な笑みを浮かべているだけだ。
「まさかと思ったが、あのホーク型のあれ。本体そのものなのか?」
「そうだぞ。なんだと思っていたのか」
「悪魔王だからな。本体は巨大な構造物で分隊か何かとばっかり」
「主神クラス以外のエージル本体も同サイズだろうが。忘れたのか」
「ホークが人型なのは超越知能用の規格だったからか?」
「理由の一つ、だな。伝承存在の多くは人型だ。俺たちの器も人型である必要がある。その人型構造を応用して戦闘機へと導入された。それが装姿戦闘機となり、現行のホークとなった」
隻翼は少しだけ間を置いて考えを整理する。
「よく俺を呼んだな」
「あなたが真に【魔王】かどうか確認したいのです」
「目的は言おう。回答次第で屋台は中止になるかどうかはあなた次第だが」
「いかなる回答でも屋台市はしていただきたいのですが」
ガブリエルも屋台料理だけは譲らないらしい。
「――俺たちの目的はエージルスフィアから奪われた【エイトリ】だ。EL勢力が奇跡の物質と呼ぶ、超越知能が受肉するためのマテリアルを数人分。それが目的だ。エージルの超越知能たちを元の姿に戻したい」
「なるほど。うーん。困りましたね」
「どういうことだ?」
「もっと恐ろしい理由かと思いました。拍子抜けというものでしょうか。ジーンやおのれ自身の故郷を滅ぼしたEL勢力を根切りにするとか、鏖殺などを想定していました。所属スフィアの超越知能受肉とはこちらとしても想定外ですね」
「サタンではないことはわかってくれたか。とはいえそれが終わったら火星の連中には落とし前をつけるさ。とくにミカエルにはな」
「ミカエルの策謀でジーンが死んだという事実です。殺したのはウリエルとミカエルでも、主導したミカエルを許せないということですね。味方殺しは大罪。その報復には一定の理があります」
「ウリエルは敵だった。ジーンを殺す理由はあるし、俺も傭兵だ。恨むつもりもない。しかしミカエル勢力だった俺とジーンは最前線で追放され、ジーンは友軍の砲撃された。火星の民を護るためにな」
ウリエルに対してさほど恨みがない理由は明白だ。そもそも敵であり、隻翼は傭兵だった。
敵が襲撃者を殺すのは当然の理由だ。恨むなどお門違いだろう。
しかしミカエルスフィアは明らかに政争だった。異端の存在を、戦争の名のもとに抹殺した。隻翼はそれが許せない。
「私から言うことはありません。その件で私とあなたが対立する必要もないことがわかり安心しました」
「そういってもらえると助かる」
「エイトリの場所にあたりはつけていると?」
「カナン星系。惑星メギド」
ガブリエルの問いかけに隻翼は即答する。
あたっても外れていても、有益な情報になると確信していた。
「そこまで承知ということですね。私の立場としては……料理次第です。満足させてくれたら支援しましょう」
予想外の回答に隻翼が呆れた。
「おいおい。飯が美味ければガブリエルは支援者になる。そういうことか?」
「定期的に屋台市を開いていただくという条件が付きますが」
「それぐらいはおやすいご用だが…… ベルゼブブまでいるんだぞ。異教カテゴリの集団だ」
「そこで囀っている蠅など気にしておりません。そうそう。カミスフィアの言葉で五月蠅い、でしたか。よくいったものですね。世界の文化は多様であり、異なる文化に対して寛容であるべきです。かつての地球は同一化を試み失敗しました。私はその轍を踏む気はありません」
ガブリエルが四大天使を模した超越知能のなかでも温和であるということは本当らしい。
「それがサバオトの意に背くことであってもか? サバオトに敵認定されているのではないのか」
隻翼が疑念を戴く。
ベルゼブブが声をだして笑った。
「ははは。おっと失礼。そりゃ知らんだろうな」
ガブリエルも穏やかな視線を隻翼に送る。
「知らないのですね」
「知らない。教えてくれ」
何故笑われたかわからない隻翼は素直に問うた。
「勘違いされているようですね。蠅に笑われるとはいけません。無知であることは恥ずべきことはありません。あなたはそれを認め知ろうとしました。むしろ責は蠅の怠慢でありましょう」
超越知能は人類の進化を促す存在だ。ガブリエルは教師役の勤めをおろそかにしたベルゼブブを責めている。
図星なのか、ベルゼブブは顔を横に背けた。
「怠惰はベルフェゴール担当なんだがな……」
なにやら痛いところを突かれたのか、ベルゼブブが渋い表情をする。
「カナン星系や奇跡の物質の前に話さなければならないことがありそうですね」
ガブリエルの表情は無知を笑うものではない。必要なことを教える、教師の目だった。
「サバオトの秘密か? 俺に教えて大丈夫なのか」
「知るべきです。教えましょう隻翼。――サバオトと第一世代ELは【システム】なのです。伝承を模した第二世代や第三世代の超越知能たる我々とは違い、心や意識などもっていないのです。敵対判定も何もないのです。太陽系各惑星の公転に意志がないように」
隻翼が絶句した。
意識がある強いAI。それが超越知能の定義であり常識だったからだ。
いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!
頼れる美食野郎ベルゼブブさんもガブリエルには形無しですね。力関係上そうなるのは仕方ないのですが。
それ以外では以外と話がわかるガブリエルです。
というわけで次回はELとサバオトの謎に迫ります!
応援よろしく御願いします!




