第8章 バンパイア
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「ヨシ。上階に向かうぞ」
大燈班長の一声で、一斉に上階へ向かい出発する。
「イーゴリも下へ移動しているかも知れん。気を抜くな」
「はい!」
「樹、何か感じないか?」
「今のところは…」
「神経を使わせて悪いが、何か感じたら直ぐに頼む」
大燈班長は樹を労うように肩を叩く。
「当然のことですから」
福丸太一を先頭に斎賀龍人、明月 響一、森 安吾、堂外秋親、辰藤 紅、道司 樹、そして、班長大燈標の順番で階段を上る。
最上階にその男は立っていた。
「ふん。遅かったな」
イーゴリは無表情なに腕組み言い放つ。
「子供は連れてこなかったのか?」
「ここには居ない」
大燈班長が答える。
イーゴリは左の眉を吊り上げて、フンと鼻を鳴らした。
「では、お前たちを倒して探しに行くまで」
言葉が終わるとどうじに、両手に持っていた拳銃を大燈班の面々に向け引き金を引いた。
すかさず辰藤 紅がバジリスクを一振りして、銃弾を弾き飛ばした。
と、同時に周りに隠れていたイーゴリの雇った傭兵たちが大燈班目掛けて飛びかかった。
「来る」
傭兵たちの動きより一瞬早く樹が振り返り、三日月を振るう。自身と紅目掛けて飛びかかってきた二人が同時に床に崩れていく。響一も響月を抜刀して、慎重二メートルはあろうかという男を袈裟斬りにし、次の攻撃に備えている。
安吾は秋親を背に、遅れて出てくる者に道草の照準を合わせる。
秋親は大燈班長をと並び、イーゴリに宇迦之御魂の銃身を向け、大燈班長は玄武を脇に持ち、仁王立でイーゴリと対峙している。
「ふん。なかなかしぶといね」
イーゴリが肩をすくめると、大燈班長は「当然」と、返した。
「では、ヤレ」
イーゴリが顎を動かし命じると、先ほどの二倍に及ぶ傭兵たちが襲いかかる。
「お前らには、もう少しここで遊んでてもらおう」
一瞬、秋親の大燈班長の視界が遮られた。
視界を塞いだ輩がくずおれた先には、既にイーゴリの姿はなかった。
「まずい。イーゴリが居ない! 樹! 下に降りるぞ!」
「はい」
大燈班長と樹がイーゴリを追って走り出す。
「さーて、んじゃこっちもこいつら、ちゃっちゃと片付けますか」
龍人が言い、左の口角を上げると福丸が答える。
「あぁ、すぐに班長たち追うぞ!」
「人数多くて、面倒だけどな」
秋親が愚痴る。
「楽しいんでしょ? 素直じゃないんだから」
紅が笑う。
「茉由利、一旦戻ろう」
黒曜に手を掛け、今にも抜刀しそうな殺気で剣太郎が言う。
「そうですねー、何か凄く沢山来ちゃったみだいですね」
「お前が言うと、気が抜けるな」
「そんなことないよねー? 綾那ちゃん、春花ちゃん」
「いやー……それより、私でも何かヤバそうってのは分かります。取り囲まれちゃってますよね?」
「あぁ。しっかし、イーゴリはどんだけ連れてきたんだ?」
四人は、少しずつ元来た道をだどり、ほんの数メートル外に出ただけの場所から、移動し始めた。
「この辺、ちょっと樹が少ないけど」
茉由利は能力の蘖で小枝状の杖を出現させると、街路樹を操ってバリケードを作り始めた。
街路樹は急激に成長し、絡み合いながら、大きく壁を作っていく。地中からも新しい芽が出て、細い若枝は隙間を塞ぐ。
「こんなもんかなー?」
「サンキュ。よし戻ろう」
「茉由利さん、スゴイ!」
大きく伸びた街路樹のバリケードに春花が感嘆の声をあげる。
「さ、のんびりしてられないみたいだから、春花ちゃん行くよ」
綾那が春花の手を取り、歩き始めた。
「しかし、外もこの状況とはな。とりあえず、何ごともなく戻ることだな」
「はい」
「何か凄いことになってますね」
「大地! あんた何やってんの?!」
綾那が思わず声をあげる。
「いやー、来ちゃった」
ポリポリと頭を掻く大地に、綾那が詰め寄る。
「来ちゃったじゃないでしょ! 危ないんだから!」
「だからだよ。お前らが大変そうだから居ても立ってもいられなくなってな」
「剣太郎さん、茉由利さん、俺も手伝いますんで何でも言ってください」
「全く大地くんまで……とりあえず、司令室に戻るぞ」
「はい!」
「中も敵が攻め込んでるから、気を抜くなよ大地くん」
「はい!」
「蒼太はどうしたの?」
「蒼太っちは、一緒に行くと狙われやすくなって危ないからって残ったの」
「蒼太らしな」
大地はニッと歯を見せて笑う。
「蒼太も助けないとな」
その頃、イーゴリはユミからの報告をもとに、地下階を目指していた。
ビルの中枢は地下にあるとのことだったので、子供がいるとすればそこだろう。もしも、いなかったとしても中枢を潰しておけば、今後の指揮系統にも支障が出るはずという判断からだ。
途中で出会う相手は、上に置き去りにしてきた奴らほどの歯ごたえもなく進んで行く。
一階にたどり着いたところで、子供を連れた一団と出くわした。
「まずい……」
剣太郎が呟いて、春花ちゃんの前に立った。
「もしかして?」
茉由利もイーゴリに気づき前に出る。
「あぁ、イーゴリだろう。特徴が一致する」
大地も綾那と春花ちゃんの前に腕を伸ばし、守るような体制をとる。
「子供……? ソウタ……では、なさそうだな……」
大地を値踏みするようにつま先から、頭のてっぺんまでじっくり観察して言う。
「あぁ、蒼太はここにはいない」
剣太郎が答える。
「まぁ、いい。女の子供……その二人はもらっておく」
「そんなことはさせない!」
「剣太郎、茉由利!」
大燈班長が階段を駆け下りて来た。
続いて樹もその横に並ぶと
「お前たち……外もダメだったのか? 大地までいるのか……」
眉をしかめて言う。
「じっとしてられませんでした!」
大地がニッと歯を見せて笑うと、樹は大きなため息をつき「まったくお前らは……」と眼鏡をクイッとあげた。
「ヘヘッ! 大丈夫っす! 綾那と春花ちゃんは俺が守ります! そんな奴ヤッちゃってください!」
「まったく……。あぁ、二人は任せたぞ」
樹は三日月を構えた。
「んじゃ、ヤッちゃいますか!」
同じく黒曜を構え直した剣太郎が答える。
室内では能力が生かしきれない茉由利だが、こっそりと踊り場にあった観葉植物の根と枝をイーゴリの足元に伸ばしていた。
剣太郎が、剣先向けじりじりと前進しイーゴリを追い詰める。構えるために一歩右足を後方に引いた瞬間、シュルシュルと観葉植物がその足を捕えた! 別の枝は階段の手すりに絡みついている。
「今だ!」樹が叫ぶ。
ほんの一瞬遅れて「クソ!」イーゴリが足に絡みついた枝や根に気がついた。
大地はその瞬間、綾那と春花ちゃんの腕を取り駆け出した。
「司令室だ。行こう!」
大地は春花ちゃんを支えるようにしてどんどんと走る。
「ノワ、ちょっとの間揺れるけど我慢してね」
優しく話しかけると、綾那もスピードを上げる。
「あと少しだ! 頑張れ!」
大地が春花ちゃんを励ます。
なんとかドアの前までたどり着き、勢いに任せてドンドンと叩く。
「開けてください! 春花ちゃんと綾那を連れてきました!」
ガタガタとデスクや椅子がぶつかる音のあと、ロックが解除されドアが開いた。
「大地くん! なんでここに?!」
タカが声を荒げる。
「そんなことより、すぐそこまでイーゴリとか言うヤバそうなのが来てます!」
「まずいな……誰が対応している?」
「大燈班長と樹さん、あと剣太郎さんと茉由利さんもです」
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