第8章 バンパイア
『今日一三時ごろ、都内でまた爆発が起こったとの情報ですーー』
テレビ画面には、黒煙を上げ燃え盛るビルが映し出され、ニュースキャスターが淡々と状況を告げる。
「ーー切りがねーな。今日止められたのは、お前と茉由利で対処したとこともう一箇所だろ。早いとこイーゴリの尻尾を捕まえないとな」
福丸太一がモニターを見つめながら言う。
「あぁ。全くだ」
境がコクリと頷き同意する。
「曉燕からは何か情報は聞き出せないのか? 響一」
「やってます。でも、イーゴリのことは知らなそうです」
「やっぱりか。大方、収集家がリーを見限って、別の駒を出してきたんだろ」
福丸は大きな手でガシガシと頭を掻く。
「クソ……。イーゴリの直接の情報じゃなくても、何か繋がるような情報聞き出してくれ。頼むな」
「はい。やってみます」
「リー、何か知っている事を教えてくれないか?」
明月が聞く。
「……」
「毎日、それだな。流石だよ」
「……」
管理局の地下深くに、CH専用の収容施設がある。
分厚い壁と特殊ガラスの部屋、一切の能力が届かないよう、直接の接触は禁止されている。
その部屋でスチームパンクこと曉燕は、腕を組みつまらなそうな顔のまま黙秘を続けている。
「……あの子、少しは成長したの?」
ここに収容されてから、リーが初めて声を発した。
「あの子? 蒼太のことか?」
「えぇ」
「そうだな。成長してると思う。今も頑張っている」
「そう」
リーは一瞬、微かな笑みを浮かべそれきりまた黙り込んでしまった。
進展がないまま、予告なく起こる爆発に奔走する日々が続いていた。
こうなる事も、時間の問題だったのかもしれない。
管理局ビルで爆発が起きたーー
どれだけの人間を用意していたのか、武装した集団が局内になだれ込んできた。爆発による火の手と、襲撃者とで、あちこちで戦闘が起き、指揮系統もままならない状況に陥りつつあった。
多分、僕は決めなければいけないんだと思う。
覚悟を。
非常ベルや怒号が響く中、剣持さんと樹さんと合流した。
「君たち怪我はないかい?」
「はい」
「大丈夫です」
「うん。大丈夫」
春花ちゃんは、しっかりとノワを抱いている。
「今回は、ここもどれくらい持つか分からない。特に春花ちゃんはすぐにでもここを出ないといけない。綾那付いて行ってやってくれ」
「はい」
「僕は残ります! 僕が一緒に行くと二人が危ないと思うので……」
「確かにな。イーゴリの標的は悪魔王子だからな」
「護衛は剣太郎と茉由利に付いてもらう。二人はすぐにここを出る準備を」
「はい。行こう春花ちゃん」
「蒼太君も何があるか分からない。貴重品なんかはまとめて置いてくれ」
「分かりました」
自分の部屋に戻り、簡単な荷造りを始めた。
高校生の貴重品なんて、そう多くはない通帳や印鑑、それに父さんと母さんの写真。
燃えたりして、無くなったら困るものなんて、それくらいだ。
それらをサコッシュに押し込むと、リビングの剣持さんたちのところに戻った。
「もう良いのかい?」
「はい。僕の大事なものなんてこれくらいです」
「そうか」
剣持さんは小さく影を落としたが、すぐに続けた。
「もう少ししたら、剣太郎と茉由利がくる。そうしたらここを出よう」
「はい」
境さんと茉由利さんが到着すると、荷物をまとめた綾那と春花ちゃん。それから綾那の背中に背負われたリュック型のペットキャリーの中にはノワもしっかりと収まっている。
「蒼太っち、気をつけてね」
「ありがとう、そっちも気をつけて」
「うん。じゃ、行くね」
「うん」
四人が出て行くと、僕らもひとまず司令室に向かうことになった。
「剣持さん、ここにイーゴリも来てるんですか?」
気になっていたことを聞いてみた。
「おそらくな」
司令室では大燈班長を中心に慌ただしく、武器の準備や重要データのバックアップなど、とにかく騒然として状況になっていた。
そんな中に一本の内線が入った。
最上階にイーゴリと思われる男を確認したとの報告だった。
「剣持! お前はここで蒼太君を守れ! 残りの者は上に向かう!」
大燈班長が命令を下した。
「はい!」
「三分で準備を完了しろ!」
「了解!」
とうとう……
とうろうイーゴリとの戦闘が始まるのか……
手が震える。
心臓が早鐘を打つ。
「蒼太君、大丈夫かい?」
「は、はい」




