第8章 バンパイア
*
「主要な建物や人が集まるところを徹底的に叩け。奴らが根を上げて子供を差し出すまでやり続けろ」
『はい』
相手が短く答え通話を切ると、イーゴリは無表情にテレビモニターを見た。
「お楽しみはこれからだよ。日本の坊や」
静かに立ち上がると、クローゼットから大きな黒いアタッシュケースの様なバッグを取り出した。カチカチとロックを解除し、鼻歌交じりに中身を一つ一つ取り出しベッドに並べていく。大小形も様々のナイフが数十本、一つ一つ切れ味と握り心地を確かめると、丁寧に指紋を拭き取る。
全ての作業が終わると、また丁寧にケースに戻し、次のケースを取り出してきた。カチカチとロックを解除して、また中身を一つ一つ並べていく。黒い銃身の銃火器が数種類、これも一つ一つ分解し丁寧にメンテナンスし磨き上げていく。
「ハンティングはターゲットを追い詰め、もう無理だと悟らせるまでが一番の醍醐味だ。思う存分逃げ惑ってくれよ」
*
*
「班長、やはり防犯カメラには何も映っていませんでした」
堂外秋親が言う。
「うむ。やはりな。イーゴリの行方はどうだ?」
「はい。まだです」
境 剣太郎が答える。
「そうか。そう簡単に尻尾は掴ませないか。引き続きよろしく頼む。
蒼太君の方はどうだ? タカ」
「はい。成長がとても早いですね。力もかなりのものです」
「そうか。蒼太君には負担が大きいだろうが、しっかりサポートしてやってくれ」
「はい」
「もちろんです」
タカと樹は視線を交わし小さく頷いた。
*
「おはようございます! よろしくお願いします!」
色々と気になることはあるが、今はまだ昨日に引き続き力のコントロールの特訓だ。
「じゃ、始めるか! 今日も昨日と同じで、まずは一人づつやってみよう」
「はい」
最初は簡単なこと、立つ座るなど、それから何かを掴んだり、別の部屋に移動させたりと一通りの動作をさせることを目標にしている。
立つ座る掴むなど単純なことは、ほぼ問題なく出来るようになってきた。でも、何かを持って移動するとかふたつ以上の動作をさせるのは、失敗することが多い。特に剣持さんや樹さんが相手だとなかなか上手くいかない。
「蒼太っち凄いね〜、もうこんなに力コントロールできるんだもん」
「ねぇ……綾那ちゃん、春花もちゃんと力使えるようになるかな?」
「もちろんだよ! 春花ちゃんの力も結構凄いんだよー! 練習してごらんよ。手伝ってあげるよ」
「うん!」
「おぉ! 春花ちゃんもやる気になったな! 蒼太負けんなよ!」
大地が笑う。
春花ちゃんの鉱物は電気石。
攻撃能力の高いCHだ。
その名の通り、電気系の攻撃やコントロールができる。
味方であれば、心強い能力のひとつだ。
この先、春花ちゃんがどうしたいかにもよるだろうが、きちんとコントロール出来るように訓練する必要があるし、今後も採集者に狙われやすい能力なのも確かだろう。
僕は今、自分のことで精一杯でなかなか春花ちゃんを手伝ってあげられそうにないが、綾那に任せておけば大丈夫だろう。ああ見えて凄く面倒見が良いから。
僕はみんなに頼りっぱなしだな……
こんなに手伝ってもらって。
だから、必ず役に立ちたい!
みんなを守れるくらい!
夢を見た。
父さんと、母さんがまだ生きていたころの夢。
母さんが食事を作ってくれている間、僕は本を読みんでいた。
トントンとリズムよく響く包丁の音や、フライパンのジュージュー焼ける音。
食器のぶつかる音や、鍋の蓋の開け閉めの音。
どれも大好きだった。
食事の支度が整う頃を見計らったかのように帰ってくる父さん。
小さい頃は、どこかで見ていて丁度良いところで入ってくるのかと思っていた。
三人がそろったところで、みんなで夕食を囲む何気ない夢だった。
二人は僕のせいで死んでしまった。
どうしてこんな夢を見たんだろう……
「おはよー」
寝癖が残る頭をゆらゆらとゆらしながら、綾那が部屋から出てきた。
「うん。おはよう」
「どーしたの? 蒼太っちな〜んか朝から暗いよ?」
「うん……夢、見たんだ。父さんと母さんの……」
「そっかぁ」
綾那が隣に座わり、ドンと寄りかかってくる。
「蒼太っち。頑張りすぎだよ。もうちょっと寄りかかっても良いよ。泣きたい時はお姉さんが肩を貸してあげるよ」
「肩って……。それに寄りかかってるの綾那じゃん」
「えぇ、だって隣に座ってるんだから肩で良いの〜」
「なんだそれ」
「蒼太っちさー、一人で全部抱えることないよ〜。あたしも大地もいるしさ、局の人たちもみんな頼れる人たちなんだから」
そう言いながら、頭をコツンコツンと打つけてくるたびに、シャンプーの香りがふわふわと鼻をくすぐる。
「うん、ありがとう」
「さっ! コーヒーでも入れよーっと、蒼太っちも飲むでしょ?」
「あ、あありがとぅ」
尻つぼみになった返事に綾那は首を傾げた。
「ビンゴ」
境 剣太郎がつぶやく。
「アレどーうします? 爆発しちゃいませんかぁ?」
安藤茉由利がベンチの下のバックバックを指差す。
「するな」
「え? じゃ、どーするんですかー?」
「俺が処理する」
「健太郎さんて爆発物処理班?」
「は? 今回の爆発物はどれも同じ構造だ。だから処理方法は調べてきた」
「すごーい!」
「とりあえず、お前は警察や警備と連携して誘導を頼む」
「はーい! それじゃ、皆さーん誘導しましょー!」
二人の後ろに控えていた制服がわらわらと避難誘導に取り掛かった。
ネクタイを緩め、ジャケットをベンチに置くと境は、ひとつ大きく深呼吸し、バックパックを手に取った。中身は思った通りのものだった。
「本来、こんなこと俺がやる必要ないんだけどな……」
境は緊張のためか、珍しく独り言ちた。
そう、本来は爆発物は爆発物処理班に任せるべき案件、しかし、今回のように同時多発的にあちこちで起こっているような場合、それを待っているわけにはいかない。そう思い調べておいたのだ。
「フーーッ!!」
大きく息を吐き出し、グイッと両の掌を太ももに擦るつけると、数回、グーパーと握りこぶし作っては開いてを繰り返す。
「行くぞ」
いざという時の為に忍ばせていたレザーマンのマルチツールを取り出した。
「茉由利のヤツ、ちゃんと誘導できたかね……あの天然ちゃん……」
全く、自らやると言ったものの、嫌な役回りだと境は思った。
「これだな」
剥き出しの配線コードの中から、青色のコードを引っ張りだし、マルチツールのワイヤーカッターをそっと差し入れると、カチリッと一気に切断した。




