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鉱物採集  作者: 蒼玉
13/19

第6章 異変

ーーーー


前田ユミ(23歳)

本籍:東京都

高校中退後アルバイトを転々としていたが、数年後就職先が見つかり寮に入ると実家を出た。

その後は実家とは疎遠になっていた。


ーーーー




「その就職先と親に言っていたのが、採集家(ハンター)の組織だったようなんだ」


「そんな……あんなにお喋りしたのに」


「それも情報収集の一環だろう」

福丸さんの表情も曇る。


「ショックだろうが、ここも危ないと思う。蒼太君、前に君が狙われたことを考えると君の情報を収集することと、ここへ採集家(ハンター)の仲間を侵入させるため。そして、今回も君を連れ去ることが目的だと思う。

春花ちゃん、君の力も奴ら欲しがているはずだ。

綾那ちゃん、君だってそうだよ。

君たちCHは収集家(コレクター)たちにとっては手に入れたいピースだ。常に採集家(ハンター)たちに狙われていると自覚してくれ。

特に蒼太君、君は特別だからな。」


特別……

ギュッと冷たい手で心臓を鷲掴みにされた感覚に囚われる。


「さ、いつまでもここでお喋りをしている訳にもいかない。すぐに響一たちも来るはずだ、そうしたらここを出よう。いいね」



程なくして明月 響一(あかつききょういち)さんと道司 樹(みちつかさいつき)さんが到着し、僕らは部屋を出た。


樹さんを先頭に、僕、明月さん、綾那とノワをバッグに入れしっかりと胸に抱いた春花ちゃん、そして殿(しんがり)に福丸さんの順番で進む。


司令室は当然、戦略シェルターの役割もはたし、攻撃に耐えられる作りになっているので、一番安全な場所になっているそうだ。響一さんたちを待っていると間に福丸さんに教えてもらった。


僕らは七階建ての建物の丁度真ん中四階にある部屋で暮らしていた。そこから地下に向かっている。


「階段で進もう」

樹さんが言う。


「樹に任せる」

福丸さんが答えると、樹さんは迷わず階段への走り始めた。


二階まで降りて来たところで、左手を上げ、停止の合図をし樹さんが立ち止まった。


「不味いな…ここにも採集者(ハンター)がいる」


「例のスチームパンク女か?」

福丸さんが聞く。


「違う、男だ」


「ニヒッヒィ! や〜っと見つけたぞ! 小僧! お前は連れて来いって命令だからな〜、殺さないでおいてやるよ〜! け〜ど、後の奴は聞いてねぇなぁ、()っちゃって良いんだよなぁ! 楽しもうぜぇ!」

ナイフをカチャカチャと弄びながら、ギラギラと目を見開き、ニターッと歪めた唇を舌なめずりしながら男が近づいできた。


「前に殺った奴らは、遊びがいもなくす〜ぐ死んじまったからよぉ、全然楽しめなかったんだよな〜。ここならもう少し楽しめるっつーから来たんだけどよ、なんか全然面白くねーのばっかで退屈してたんだよ! その小僧守ってるつーことはよ、少しは強〜んだろオメーら?」


「下がってろ」

樹さんが、僕の前に体を滑り込ませる。福丸さん、明月さんも、綾那と春花ちゃんの前で身構えた。


「ニヒッヒィ! 守るものがあるってのは、大変そうだねぇ、そんなガキ共かばいながらじゃぁ、遊びがいがねーけどな! いっそのことそのガキ共は邪魔だから、先に殺ってたろうか? あぁ?」


「随分よく喋るな? 河川敷で局員を惨殺したのはお前か?」

福丸さんが男に問いかける。


「あぁ、面白くもなかったけどな。あっという間に死にやがって」


「なるほど、では手加減する必要もないわけだな」

樹さんは青竹のような凜とした佇まいで、メガネの奥から冷え冷えとした視線を男に向けた。


「そのようだな」

明月さんの殺気も跳ね上がった。


福丸さんが金剛丸(こんごうまる)を構え、ジリジリと前に出る。この中で最もパワーがあり、金剛丸によって身体強化とパワー増強されているので、先陣切って突破するにはもってこいだ。


ナイフ男のニタニタ笑いとギラついた目はさらに大きくなり、見ているだけで僕は腹のかがぐるぐるとかき回されている気分だ。


ナイフをさらにもう一本左手にも持ち、男も間合いを取ってくる。


僕らの前には、長刀三日月(みかづき)を構える樹さんと、日本刀の様な刀剣響月(きょうげつ)を持つ明月さん。この二人はどこか似た雰囲気があり、二人から漂ってくる凜とした気で、僕らの前に結界が張られている様なそんな錯覚を覚えた。


「ヒャーッホー!」

男が奇声をあげて福丸さんに飛びかかった!


特殊警棒の先端に幾つかの短い棘が付いた様な形状の金剛丸と、男のナイフがぶつかり火花が散る。一瞬のにらみ合い。


「んっ。おりゃぁぁぁっ!」

福丸さんが男を弾き飛ばした。


「ニッヒィ! パワーはスゲーな! 面白くなってきたぜ!」

男には相変わらずニタニタ笑いが貼り付いている。


男はトリッキーな動きで、壁を蹴り高く飛び上がったところから、大きく振りかぶって福丸さんに斬りかかった。


「おりゃぁあっ!」

福丸さんは素早く反応し、フルスイングで男を弾き飛ばした。


「やったっ!」

僕は思わず拳を上げてしまった。


「悪魔王子、喜ぶのはまだ早い。警戒しとけ」

樹さんの鋭い視線が飛んできた。


「何がやったんだ? あぁ、ガキが!」

男はさらに目をギラつかせている。


福丸さんのパワーで攻撃を受けて、直ぐに立ち上がってくるなんてーー前に福丸さんに体術の訓練に付き合ってもらった時の豪快さを思い出して、驚愕した。あの時、福丸さん金剛丸を装備してなかったのにーー今の福丸さんのパワーは相当上がっているはずなのだが……


じっとりと、イヤな汗が背中を伝った。


「お前の相手は、こっちだ!」

福丸さんは、僕に視線を向けていた男に突進した。


「あんた、攻撃が直線的すぎ」

男がするりと福丸さんを交わし、背後に回り、背中から一突きした。


春花ちゃんの悲鳴が上がる。


「はっはぁ! 残念だったな。この程度じゃかすり傷だぁ!」

福丸さんは振り向きざまに、金剛丸を振り下ろした。


さすがはダイヤモンドの身体強度。服の破れからチラリと見えた傷は、想像よりはるかに小さいものだった。


ナイフ男は福丸さんの攻撃を辛うじて交わし、次の攻撃を繰り出す構えをした。


「もうお終いだよ。お前囲まれてるの分かってる?」

明月さんがナイフ男に向かって、吐き捨てるように言った。

ナイフ男はちょうど、福丸さん、樹さん、明月さんに囲まれる格好になっていた。


やった! これで終わりだ! 僕は小躍りしそうになったが、さっきも樹さんに叱られたのを思い出した。


綾那と春花ちゃんの張り詰めた気持ちも少し緩んだのを感じた。



「全く……あんた、まだ不完全なのねぇ? 覚醒にどれだけ時間がかかるのかしらぁ」

僕の心臓が聞き覚えのある鼻にかかった声に、ドクンと冷えた鼓動を打った。ハッとして綾那を見ると、ギリギリと歯を食いしばり、力一杯握りしめた拳は爪が食い込み今にも血が流れ出しそうだった。


あの黒髪にところどころ赤い房の入った独特な髪色。鼻にかかった甘ったるい喋り方。中世風に歯車や羽の付いた特徴的なスチームパンクの服。前に僕らの前に現れた女だ……


「トウジィ、あ〜んたも何囲まれてるのぉ〜」

スチームパンクは大袈裟に眉を上げ、肩をすくめ手のひらを天井に向けると、ナイフ男に言った。


「う、うるせーよ! 助けてくれなんて頼んでねーぜ」


「よく言うわよねぇ〜何だかすごーくピンチに見えるけどぉ?」


「そんな事より、ユミとは合流できたのか?」

トウジと呼ばれたナイフ男がスチームパンクに聞いた。


スチームパンクの裏から顔を出したさやかちゃんーーいや、ユミーーは、今まで僕らと過ごしてきた彼女とは思えないような、鋭い目つきに薄ら笑いを浮かべていた。


「さやかちゃん……」

綾那は声にならない声でつぶやき、春花ちゃんがギュッと綾那の服にしがみ付いた。


「感動の再会は、もうお終いにしてくれないか?」

樹さんは周りの者達すべてを、氷の石像に変えてしまいそうなほど、冷え冷えとした声と視線をスチームパンクに向けた。


「なんか虫が煩いわねぇ」

そう、スチームパンクが言うと同時に、グワンッと周りの空気が全部鋼鉄の塊にでもなったかのような圧力で、僕たちにのし掛かってきた。


「ぐっ……はっ……」


立っていられなくなって、ガクリと膝をつき、そのまま床に押し付けられる。肺の中の空気が絞り出されるように、押し出され呼吸もし辛いーー


「虫は虫らしく地面に這いつくばっていれば良いのよ! あっははははは! お似合いの格好ねぇ〜」


ツカツカと僕の前にスチームパンクが近づいてきた。

「本当にあんた、のろまねぇ」

僕は唇を噛んでクッとスチームパンクを睨みつける。


「あははは! 一応は反抗的な態度はとるのねぇ。な〜んにも出来ないくせに。

さぁ、じゃぁこいつと、それからぁこの前逃げられたこのガキも……、拘束して連れて行くわよぉ〜」

その声に応じてトウジが僕に近づいてきた。


スチームパンクが、顔を確認するために足で春花ちゃんを転がそうとしたその時、ノワが勢い良くスチームパンクに飛びかかった。脚に爪を立ててよじ登り、腕組みしていた右手の手首に思い切り牙を突き立てた。


「ノワ!」

春花ちゃんが叫び、ノワはスチームパンクに払い落とされた。


ンギャッ!と小さく叫び、弾き飛ばされたが、シュタッと猫らしく器用に体を捻り四本の足でしっかりと着地した。


犬歯をむき出しにして、鼻の上には盛大にシワを寄せて、大きく背中を丸めてシャー! シャー! とスチームパンクを威嚇している。


噛まれたスチームパンクの手首からは血が滴り、足を踏みならして、今にも破裂しそうなほど首やこめかみの血管が浮き出してきた。


「このクソ猫! あたしに血ーー」


バタリとスチームパンクが倒れた。


「悪いが、お前は邪魔だ」

明月さんの響月(きょうげつ)が怪しい光を放っている。


「ノワ、お前は賢いな」

明月さんが身を屈めノワを抱き上げた。


ノワに噛まれた瞬間、スチームパンクの重力操作が解除され、その隙をついて明月さんは一番厄介なこの女を倒したのだ。


残念ながらトウジとユミがスチームパンクを連れて逃げてしまったが、とりあえずの危機は脱した。この隙に司令室に急ぐ事にした。


明月さんが抱いていたノワを春花ちゃんのバッグに入れ、春花ちゃんはまた大事に抱きかかえ急いで地下への階段を降りる。


やっとのことで司令室にたどり着いたが、あの後ずっと綾那の表情は硬いままだ。状況をなんとなく察知したのか、司令室にいた安藤茉由利(あんどうまゆり)さんが、綾那と春花ちゃんのそばについていてくれた。


「もうすぐ班長たちも到着するだろう。そうしたら再度状況確認と作戦を立てる」

福丸さんが告げた。



しばらくして、大燈班全員が揃ったところで今後の作戦会議が始まった。


「恐らくスチームパンクたちは、まだこの局内に潜伏しているはずだ。何とか炙り出して確保したいところだが……」

大燈さんが切り出した。


「あと、一般の局員への被害もなるべく出したくねーな」

福丸さんが付け加える。


「面倒だが地下からくまなく索敵していくか?」

堂外(どうがい)さんが言う。


「そんな悠長なことしてる間に、暴れ出さなきゃ良いが……」

斎賀(さいが)さんが答える。



「あのぉ……僕が囮になるのはどうでしょう?」

司令室の端っこの方で見守っていたが、僕は恐る恐る手を挙げた。


うわぁ……

僕すっごくまずい事言ったかな……

みんなの視線が……すごく痛い……


「蒼太君、一番危険にさらされているのは君なんだよ? 分かっているのかい」

大燈さんが諭すように言った。


「分かってます。でも、僕のために他の人が犠牲になるなんて嫌なんです! ……それに、皆さんならあんなヤツ、必ず捕まえられますよね」


「僕が殺される心配はないと思うんです。目立つところで囮になって、あいつらを引きつけたらこの中の人たちが危険な目にあることは無くなりますよね?」


張り詰めた沈黙が痛い……


「お願いします。僕を囮に使ってください!」



僕らのいる管理局のビルは外見こそはどこにでもある雑居ビルだが、細い路地を跨いだ隣のビルと繋がっている。もちろん隣のビルも管理局でものだ。


その細い通路に今僕は立っているーー


堂外さん、森さんの狙撃チームは上階で待機している。大燈班で最速の斎賀さんが、僕に一番近い物陰に隠れている。その他の皆さんもそれぞれ隙なく周囲に散って奴らがどこから現れても対応出来る体制だ。


大燈さんの合図で、僕は大声で叫んだ。


「お前たちの狙いは僕だろぅ! だったら僕だけここだ! 関係ない人を傷つけるな!」


奴らも僕が囮だとは気がつくだろう。

でも、僕のせいで他の人が傷つくなんてもう沢山だ。



ドサッーー

後手に縛られた茉由利さんが通路に投げ出された。


「さっきはあのクソ猫のせいで取り逃がしたけど、今度はそうはいかないわよぉ〜」

スチームパンクが管理局のビルから出てきた。


投げ出された茉由利さんの側には、ナイフを突きつけてユミがしゃがんでいる。


トウジの姿は見当たらない。


「茉由利さんを離せよ! 僕だけ連れて行けばいいだろう?」

「そんな簡単にいくわけないじゃなぁ〜い? あんたが囮で出てきたことくらいはすぐに分かるわよ〜! 管理局も随分必死みたいね〜、本来守るべきあんたまで囮に使ってぇ」

「……」

チラリとユミに合図を送ると、ユミが茉由利さんにナイフを突き立てた。

「グアァァァァッ!」

茉由利さんの悲鳴が上がる。

「この女を殺されたくなかったら、隠れてる奴ら全員出てきなさぁ〜い! 変な真似したら今見た通りよぉ〜」

「やめろーーーーーーーーーっ!」


カッシャンッーー

ユミのナイフがアスファルトに落ちた。ユミは感情のない無表情でただそこに立っている。


「王の玉座……とうとう悪魔の力が覚醒したみたいだな」

そう言って、樹さんが近づいてきた。

「スチームパンクに命令するんだ。攻撃を禁止すると」

「全員への攻撃を禁止する! 手を上げてそこに跪け!」

僕がスチームパンクに命令すると、表情が消えその場に跪いた。


「トウジーッ! お前も出てこーいっ!」

僕はまだ姿を見せていないトウジにも命令した。

しばらくすると、無表情のトウジがゆらゆらと通路に現れた。

ユミ、スチームパンク、トウジを拘束して、事態は収拾を迎えた。



「君の鉱物(クリスタル)は、ブルーサファイア。土星(サタン)の石、王の玉座とも言われる。絶対的な支配だ」


樹さんの目が何時もにも増して真剣でまっすぐだ。


「絶対的な支配……」


「そうだ。今のでも分かっただろう? 君の力は相手を支配し従わせることができる。禁忌にも等しい力だ。君が狙われる理由も分かっただろう? 当然だが、その力を使う君自身の資質も問われることになる。君がその力を持つ理由をよく考えるんだ。いいな」





「フッ、フハハ、フハハハハハハッ! とうとう覚醒したぞ! フハハハハハ!

あぁ、あの力……なんと素晴らしいことか……

あの力があれば、全てが……我が手に……」

色素の薄いその頬を珍しく紅潮させ、甘美に酔いしれた灰色の眼に恍惚とした表情を浮かべていた。その灰色の眼に銀髪の男が片手を上げ、部屋の入り口近くで待機していた男に合図した。


「ミハイル様どうぞ」

そう言って、男は銀髪の男ミハイルのグラスに強い酒を継ぎ足した。


「もう、下がって構わない」

「では、これはこちらに置いておきます」

ミハイルが頷くと、男は深く一礼し部屋を後にした。


「シャオイェン達は残念でしたが、大いに役に立ってくれました」

満足げにグラスを傾け、その琥珀色の液体を一気に飲み干した。


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