第5章 奪還作戦
「何かあったの?」
リビイングで綾那がうつむいて座っていた。
「うん……。
十一歳の女の子がね……採集者に連れ去られちゃったんだって……
あたしも小さい頃、攫われそうになったことがあるから、何か気になっちゃって……
あたしじゃ何にもしてあげられないかもだけど、何かしてあげられないかって思っちゃって……」
そうだ前に大地に聞いた話だ。
その時のことが原因で、家を離れたって。
そりゃ綾那にとっては、確かに人ごとではいられない。
僕だって、あの偽医者に連れ去られそうになった時は、すごく怖かったもの。
十一歳の女の子じゃ、もっと怖い思いしてるよな……
「うん……聞いた。
きっとさ、剣持さん達がきっと何とかしてくれるよ!」
なんとも人任せな話しだとは思うが、こんなことしか言えないのが情けない。
「僕らに出来ることなんて、たかが知れてるけど……出来ることがあれば何でも手伝うよ。きっと、無事に戻って来るよ」
「ありがと」
綾那はぎこちない笑みを浮かべた。
「班長。稲田春花ちゃんの居場所が特定できました」
安藤茉由利が大燈標に告げた。
境 剣太郎は、現場に残り監視を続けている。
即座に、大燈班に招集が架かり、春花ちゃんの奪還に向けて準備と対策がなされた。
春花ちゃんの安全が最優先事項であり、周辺への被害は最小限に止めること。また、先の局員惨殺事件を受け、敵を殲滅させたいところではあるが、まずは子どもの安全が優先であり、春花ちゃんの他にも、同じように連れ去られた子どもを発見した場合には、即座に保護すること。
まず、春花ちゃんの保護は、女性の方が安心感があるとの理由から茉由利と、面識のある辰藤紅が担当する。
堂外秋親と森安吾は、遠隔からの狙撃で侵入ルートを確保。
その後福丸太一を先頭に近接攻撃班が突入する。
念のために、周辺には他の班も展開待機している。逃走した者については、こちらが対処することになっている。
春花ちゃんに仕掛けた発信器は、恐らくは途中で落ちたのではないかと推測しているが、相手に感づかれる前に行動を起こし方を付けたい。
各自、準備を整え日が暮れるのを待つ。
静かに時が来るのをーー
豊島区内、幹線道路から一本奥まったところにある一軒家。
外には見張りはいない。
狙撃チームからの報告では、一階の玄関横の部屋に一人、リビングに二人、二階は全ての部屋がカーテンが閉められ中の様子は分からない。だが、この二階部分に春花ちゃんが居ると思われる。
互いの呼吸音が分かるくらいの静寂の中、耳につけたインカムに微かな雑音ののち、作戦開始の号令がかかった。
福丸太一を先頭に突入チームが配置につくと、ゴーのハンドサインが出された。直後、森安吾が玄関横の部屋の人物を、堂外秋親がリビングの二人を同時に狙撃。
境 剣太郎が黒曜で玄関ドアをブッタ切り、太一、剣持崇智、道司 樹順に中には入り二階への階段を登る。
リビングの窓を斎賀龍人のインドラと明月 響一の響月が切り裂いた。二人の後に辰藤 紅、安藤茉由利が続く。
外では一階の物音に気付き、カーテンの隙間から男が顔を出した。瞬時に安吾の道草から矢が放たれ、音もなく男が倒れた。
階段を三段ほど登ったところで、右から一人来ると樹が指示を出すと、即座にタカは鳴神を、階段上方の右寄りに構える。
樹の三日月は数秒だが先が見える。数秒だが、こう言う敵が何人いるのかも、建物構造も分からない現場では、強力な助けになる。
パンッーー
迷いなく行動できる。
あっという間に、二階に到達した。
二階には階段のすぐ側の部屋と、回り込む形で奥にもう一部屋。
この二階に春花ちゃんが居ることを想定すると、ここから先は更に慎重に行きたい。
一階の確認を終わらせた龍人達も合流して、同時に二つの部屋に突入する。樹は指示、タカは万が一の援護に回る。
紅は奥の方、茉由利は手前の方の部屋にそれぞれ別れ春花ちゃんや他の子の保護に当たる。
三、二、一、ゴー!ハンドサイン確認と同時にドアを蹴破った!
奥の部屋では、入り口付近に男が一人、奥に春花ちゃんともう一人の女の子を守るように女が一人いる。
突入と同時に、剣太郎が黒曜で入り口にいた男を倒し、太一は部屋の奥に突進し、女を取り押さえた。
「春花ちゃん! 助けに来たわよ! あなたも! こっちへいらっしゃい」
紅が春花ちゃんともう一人の女の子を抱き寄せると、もう大丈夫と声をかけた。春花ちゃんともう一人の女の子は名を桜井未来ちゃんと言い、後日捜索願が出されていたことがわかり、親元に帰って行った。
階段寄りの手前の部屋の方では、入り口付近に男が一人、窓際で男がもう一人倒れている。部屋の奥には高校生くらいの女の子が一人いた。こちらでも、響一が男を倒し、茉由利が女の子を保護しあっさりと制圧を完了した。
が、何かがおかしいーー
スチームパンクの姿が見当たらない。
ここまで、スチームパンクが一切出てきていないのはなぜだ?
全員がその思いが抜けないまま、警戒を怠らず撤収に入る。
保護した子たちに、他に誰か居なかったか確認したが、今日はあの場にいた者しか見ていないと言う。なんとも腑に落ちない思いのまま、CH管理局に帰還した。
現場にいた男たちは全員連行し、順次事情聴衆を行う。
保護した、女の子たちは念のために医務室のドクターに診察してもらったあと、局内にてしばらくは保護する事になった。




