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わんこ戦記 ~ ボクをバカ犬と呼ばないで  作者: Roxie
キャピタル・ヘリストン編、あるいは家族の絆とポッチーノの章
24/30

ハンターギルドを訪れました。

 中には、狩人と思われる人間たちが大勢おり、槍や斧やマスケット銃など大型の武器を持つ者も珍しくなかった。

 受付の人が“騎士の登竜門”と言った通り、希望に燃えた若者の比率が多いようにも見える。

 ──ポッチーノは知るはずもないが、ヘリストン・ハンターギルドは王家直属騎士団の傘下組織なのである。

 騎士というものは、戦争や災害の際に多く必要となるが、平和であればあるほど無用の長物と化す。その癖、どんなときでも人件費はかかるのだ。

 そこで害獣を狩るという名目で、騎士団はハンターギルドを立ち上げた。

 ここは報酬制なので、有能な人物にのみ給与を与えることができる。本当に優秀な人材なら、そのまま騎士団のメンバーに加えても良い。

 また有事の際は、ここの狩人を傭兵としてそっくりそのまま戦場へ向かわせることもできる。ここは言わば、人件費を抑えつつ戦力をプールする予備兵組織なのだ。

 なので、価格統制や社会的発言力の強化を主目的とした商業ギルドとは、少々性格の異なる組織なのである。

 まあ、知っていたとしてもポッチーノには関係のないことだろう。別に、ここで狩人になるわけではない。単に、靴を直してほしいだけなのだ。

 あちらの方では、

「どうか俺を弟子にしてください!」

 と1人の少年が、熟練そうな狩人へ頭を下げている。

「坊主、悪いことは言わねえ。良い暮らしがしてえだけなら、他の職を当たれ。一歩間違えば、マジで死ぬぞ」

「俺、親父みたいな立派な騎士になりたいんです! お願いします!」

「よし、そこまで言うなら弟子にしてやる。ただし泣き言こぼしたら、承知しねえぞ」

「はい! ありがとうございます!」

 どうも話はうまくまとまったらしい。

 いかにここが他のギルドと勝手の異なる組織とは言え、ギルドはギルド、暗黙的な師弟制が敷かれている。

 そもそも血気盛んな世間知らずの若者に、いきなり武器を持たせて野へ放り出せばどうなるか。これはあまり酷な話である。なので、ギルドの加盟には、必ず親方となる人間の認証が必要なのだ。

 むしろ短い研修を経ただけで、いきなり大仕事を任されているポッチーノの方が少数派なのである。

 また、別な方では

「聞いて驚け、ケガワカワウソの群れを一網打尽にしてやったんだ。いい儲けだったぜ」

「かーっ、とことんツイてるな、おまえって。なあ、祝いに一杯奢ってくれよ」

「良いぜ。その代わり俺の武勇伝、最初から最後まできっちり聞いてもらうがな」

 なんて手練れの狩人同士が狩りの成果を語り合っている。

 ポッチーノのすぐ隣では

「知ってるか? あのマチクイムカデが真っ二つになって砂漠に転がってたって」

「ああ、聞いてる。誰がやったか知ってるか?」

「俺も知らねえ。でも、あんな化け物ムカデをぶった切るなんて、並みの狩人の仕業じゃねえぜ。やった奴の自慢話が広まっても良いと思うんだが」

「だよなあ。ここで聞こえてこねえとなると、騎士の連中がやったんじゃねえか?」

 なんて話をしている2人がいた。

 この前、シャイロックがやっつけた個体かな、とポッチーノは思ったが、それを言う前に2人は雑踏の向こうへ消えてしまう。

 どうもあの化け物ムカデは、害獣退治の狩人ですら手こずる代物だったらしい。

 そのとき。

「おい、そろそろ入団試験が始まるみたいだぜ」

 と誰かが誰にともなく呟いた。

「へえ。今日は誰が試験官をやるんだ?」

 なんて話が出る中、次々と狩人たちは建物の窓辺へ集まり出した。好奇心に駆られたポッチーノも、体躯の小ささを活かして窓辺へたどり着く。

 外は、王家直属騎士団の公開訓練場と隣接していた。まあ、傘下組織なら立地が近いのも無理はない話である。

 このような公開訓練場を設けることで、騎士団はその力を市民に誇示するのだ。これはそのまま、王家が持つ権威のピーアールに等しい。

 さて、公開訓練場にいたのは、この入団試験へ挑むと思われる若者、そして──

「あー、あの兄ちゃん、不運だったな」

 ポッチーノの隣にいた男が、さらにその隣にいた友人に言った。

「見ろよ。今日の試験官。青旗の本隊副長、レインクルス様だ」

 その通り、ここから見える横顔にポッチーノは見覚えがあった。Cの友人にして、青旗騎士団の本隊副長、レインクルスだったのだ。

 オフだった先日とは異なり、強固そうなプレートを装備している。それに何と言っても目を引くのは、彼女自身ほどの大きさがある木製の斧だった。

 その恰好は、まさに国を背負う騎士と呼ぶにふさわしい。

「本当だ。それにしても、こうして見る分には美人ちゃんなんだけどなぁ」

「発情して手ぇ出すなよ? 副長様は、あの名誉分隊長の全盛期にも匹敵する強さだって噂だぜ」

 と隣の男たちが談笑している。

 ポッチーノは、そんなすごい人だったのかぁ、とレインクルスのことを見つめた。

 ──その公開訓練場で、試験官レインクルスは

「誓約書にサインしたからには分かっていると思うが、この入団試験、どちらかが気絶もしくは降伏するまで行う」

 と、受験者とまっすぐに向き合った。

 王家直属騎士団の中でも、最もイメージの良い青旗騎士団は入団志望者に困ることはない。

 しかし予算というものもある以上、抱えられる人員には限りがある。だからこそ、こうして入団試験は高難易度となっているのだ。

 試験は、まず新人では勝ち目のない模擬試合だが、大切なのは善戦することである。入団者の大半は、幹部騎士の実力を思い知らされながらも未来有望として合格となった者たちだ。

「不慮の死を遂げた場合も、自己責任となる。それを承知できるなら、命を賭してかかってこい。私が相手をしてやる」

「はい! 行きます!」

 受験者の少年は、鋼鉄の剣を構え、一気に距離を詰める。

 対してレインクルスはその木製の大斧を高々と掲げ──

「あぶない!」

 ギルドの建物からポッチーノは叫んでしまった。

 超高速走行が可能な彼女だからこそ、動体視力もまた抜群に高い。そうでなければ、走っている最中に壁へぶつかってしまうだろう。

 だからこそ、レインクルスが大斧を高く掲げたその直後、恐るべき速さで横振りの構えにシフトしたのを目で追えたのだ。

 大きく、重量のある巨大な斧を軽々と自在に操る。これでまだ、本隊副長が誇る強さの本領ではないのだから恐ろしい。

 これを受けた受験者の少年は、この陽動からの急襲に反応できず、もろに一撃を食らって吹き飛んだ。

「はえぇ」

 隣の男が、その華麗な斧さばきを目にした正直な感想をぼそっとこぼす。

 受験者の少年は何とか立ち上がろうとしているが、どうにも辛そうだ。あんな一撃なら、肋骨が折れていてもおかしくない。

「ボク、こんなの、もう見てられないよ」

 ポッチーノはまた人込みの中をかき分けて、建物の中央へ戻ることにした。

 ハウス・ポスタルの受付の子もかつては騎士を目指してハンターになったというが、辞めて正解だったとポッチーノは思ったのだった。

 彼女自身、猛獣に襲われたことは今まで何回もあったとは言え、逃げるのは得意でも戦うのは苦手なのだ。ワンコロフ孤児院の仲間たちとすら喧嘩したことはない。

 ──ボクを拾ってくれたのが騎士さんじゃなくて良かった。

 そんなことを思いながら、ここに来た本当の用事を思い出す。装備屋のブルドン一味とやらを捜すのだ。

 後ろの方で盛り上がる観戦者たちを背に、ポッチーノは再びギルドの建物の中を歩きだした。

 すると、

「俺たちの武器に何か文句あるってのか!」

 という怒号が廊下の方から聞こえてきたのを、ポッチーノの敏感な耳がキャッチした。

「こんな使いにくい物を押し付けといて逆ギレか!?」

「そいつは、おまえの鍛え方が足りねえんだ。武器がおまえを裏切ったんじゃねえ、おまえが武器を裏切ったんだ!」

「くそっ! 2度と来るかよ、こんな店!」

「上等だ! 一昨日きやがれ!」

 まるで大喧嘩である。

 しかし、武器職人と思われる方はなかなかプライドが高いようにも思えた。

 これがあのブルドン一味なのだろうか、とポッチーノは声がした廊下の方を進む。

 途中で顔を真っ赤にした男が足を踏み鳴らしながら向こうからやってきて、ポッチーノのことなんか見向きもせず通り過ぎて行った。

 そのブルドン一味の居場所はそんな遠くないのかな、とポッチーノが思ったその矢先。

 “ブルドンの工房”という大きな鋳鉄の看板を掲げた大きな扉が、堂々と廊下に構えられていた。中からは鍛冶の音も聞こえてくる。

「ごめんくださーい」

 ポッチーノは扉を開けた。途端、ものすごい熱気が彼女の横を通り抜けていく。

 半分は溶けた鋳鉄の熱気だろう。もう半分は──

「おおう。何か用か? チビすけ」

 と、顎も腹筋も綺麗に割れた筋骨隆々の巨漢が、ポッチーノを見下ろしていた。

 上半身は素っ裸。むしろ自分のたくましい筋肉を見せつけるかのような格好である。

 声色から察するに、さっき口論していたのはこの男らしい。この人がブルドンなのかな、とポッチーノは思った。

「ボク、靴を直してほしいんだ。ここに靴の職人さん、いる?」

「チビすけ。弱い者いじめする気はねえが、他所をあたりな。ここはおまえみたいなチビっ子が来る場所じゃねえんだ」

「お願いだよ。ボク、昔ハンターだった人からここをおススメされて来たんだ」

 ポッチーノはゴネたが、

「ここは貧しい子に小銭で靴を作ってやる店じゃねえんだ。害獣と命がけのバトルを繰り広げるビッグでワイルドな命知らずのため、ハイコスト・ハイパフォーマンスな装備を手掛ける。それがこのブルドンと愉快な仲間たちよ」

 とこの巨漢、ブルドンはさっぱり譲歩しようとしないばかりか、なぜか筋肉を見せつけるポーズをとる。

 ハウス・ポスタルのキャピタルヘリストン支店の受付が言っていた、気難しい人物だという話は本当のようだ。

 しかも、工房の中には彼の仲間と思われる職人たちが何人もいる。どれもこれも、すごい筋肉だ。見ているだけで暑苦しい。

「ボク、ビッグじゃないけど、ワイルドには自信あるよ。野宿、得意だもの」

 ポッチーノは珍妙な自慢をした。

「それだけじゃあな」

「あとボク、ハウス・ポスタルで配達員をしているんだ」

 普通、そちらが先に出てきても良さそうなものだが。

「何ぃ? ハウス・ポスタルだぁ?」

「ウソじゃないよ、本当だよ。ほら、身分証だってあるんだから」

 とポッチーノ、黄銅の社員証をブルドンに見せつける。

 それを見た途端、ブルドンは目を丸くした。

「ポッチーノ・ワンコロフ? おまえ、ワンコロフ孤児院育ちか!?」

「そうだよ」

 自慢の生家である。ポッチーノは胸を張った。

「そうか。実は俺も、ブルドン・ワンコロフって言うんだ。同窓生だって思うと、急に親近感が湧いてきたな」

「え? おじさんもそうなの?」

「ああ。だが、それだけじゃねえ。──確か、靴が所望の品だったな。うちの新人を紹介してやるぜ」

 と言うと、ブルドンは後ろを向いて、

「おい! 新米! おまえに客だ!」

「はい、ただいま!」

 店の奥から、甲高い声がした。それから間もなく、棚の向こうの死角から出てきたのは……

「お待たせし──、って、ポッちゃん?」

「トリバー!」

 捜していた大親友トリバー・ワンコロフの姿に、ポッチーノは思わず飛びついた。

 女の子の癖に大して柔らかくなく、それでいて腕の力だけはやたらに強い。

 トリバーは先日に続き、2度目の愛ある締め上げを受けて危うく泡を吹きかけたのであった……。




「情けねえぞ、新米! 女のハグでダウンするとは何だ!」

「す、すみません……」

「大体おまえは絶望的に筋肉が足りてねえんだ! 見ろ、俺のたくましい筋肉を!」

 とブルドンはまた、筋肉を見せつけるポーズをとる。

 このときポッチーノは、トリバーがまだ筋肉のかたまりになっていなかったことを安堵したのであった。

 ──トリバーがこんな暑苦しくなっちゃったら、嫌だなぁ。

「1に筋肉! 2に筋肉! 3,4に筋肉! 5に筋肉! 最後に頼れるのは己の肉体美と、筋肉が結ぶ仲間との絆だ! 新米、おまえは鍛え方が足りなすぎる!」

「精進します」

 トリバーが答える。

 ブルドン一味の仲間たちも、珍客が来たということで親方の一声のもと小休憩をとることにした。

 大勢の筋肉に囲まれながら、ポッチーノは、いちいちポーズを変えるブルドンのことは放っておくことにして、

「ゴメンね、トリバー。ボクのせいで、クビになっちゃったんだって?」

 と、心から謝った。

 彼女自身、他の何よりクビが怖い身だ。それだけ、親友に申し訳ないことをしてしまったと思っているのである。

 が、

「気にしないで、ポッちゃん。僕は、これで良かったと思ってるから」

 トリバーの返事は優しかった。

「この前、ポッちゃんが持ってきた靴の残骸を見て、思ったんだ。僕は立派な靴を、どんな荒れ地をどれだけ走り回っても壊れない靴を作りたいって。前の親方は、市民のために安い靴を作る人だったんだ。その考えも間違ってはいないと思うけど、僕が本当にやりたいこととは違うなって」

 とトリバーは、靴に対する気持ちを熱く語る。

「だから、追い出されちゃったとき、真っ先にここへ弟子入りを頼んだんだ。ここならきっと、ポッちゃんでも満足する靴が作れると思って」

「こいつの筋肉は情けねえが、ガッツはなかなかのものだぜ。半日も、配達員をやってる友達のために最高の靴を作りたいって粘ってよ」

 ブルドンが口をはさんだ。

「最初は断っちまったが、半日も頼まれ続けたら嫌とは言えねえ。毎日、筋肉を鍛えることを条件に特別、弟子にしてやったんだ」

「トリバー、ありがとう! ボク、嬉しいよ」

 ポッチーノは感激のあまり、またハグをするところだった。

 何より、トリバーは昔からずっと抱きしめるのにちょうど良い体格なので、すっかり癖になっているのである。

「だが新米! ドリームってのは、限りなくビッグでなけりゃいけねえ! 俺の夢はもっとデケえぞ!」

 とブルドンは今日一番の力強そうなポーズをして、

「俺の夢は、武器作りを極め、筋肉を極め、最高の武器と最高の肉体を以てロックゾーラに住むという人食い鬼人ゴライアスを討伐することだ!」

 そう高らかに宣言する。すぐ、弟子たちから拍手が沸き起こった。そろって、尊敬のまなざしでブルドンを見つめている。

「それを成し遂げた暁には──」

 とブルドンは言うと、急に体格に見合わぬ小声になって、

「こ、こ、今度こそ、ふ、フレイミーちゃんに、すすす好きだって伝えるんだ」

 急にスケールが小さくなったなぁ、とポッチーノは反射的に思ってしまったが

「流石です、親方!」

「親方の筋肉ならできますよ!」

 弟子たちからはエールが沸き起こった。

 この騒音の中、

「ねえ、フレイミーちゃんって誰?」

 とポッチーノは隣のトリバーに尋ねる。

「親方の片思いの相手なんだって。僕たちと同じ、ワンコロフ孤児院育ちらしいよ」

「ふーん」

 ポッチーノは相槌を打ったが、意外にも耳が良かったブルドンがポッチーノの方を見た。

「おい、チビすけ! おまえ、ワンコロフ孤児院育ちの癖にフレイミーちゃんのことを知らねえのか!?」

「う、うん……。そんなに有名な人なの?」

「あたりめえだ! このキャピタル・ヘリストンで1番ビッグな男が俺だとすれば、フレイミーちゃんは世界で1番ビッグな女だ」

「天井にめり込まないの?」

「そういう意味じゃねえ! 聞いて驚くなよ、フレイミーちゃんはなぁ──」





 その頃、公開訓練場の裏方で。

「お疲れさまでした、副長」

 青旗騎士団の裏方事務員が、入団試験官を終えてきたレインクルスへ労いの言葉をかけた。

「ありがとう。それにしても、なぜ今日なんだ。これから、ネオリカ皇帝の来訪に対する警備があると言うのに」

「私に仰られましても……」

「ああ、すまない」

 と言いながらレインクルスはため息をつく。

 副長というのは、就任前に想像していたよりはるかにハードなスケジュールなのだ。

 これでは、領土の見回りへ出向いている最中の方が休憩時間とすら思えてしまう。

「そう言えば昔、あの名誉分隊長も仰られていました。どんな害獣や盗賊より、書類の締切の方がはるかに手ごわい、と」

「まったくだ」

 レインクルスは深くうなずいた。

 ──名誉分隊長は、彼女の憧れの人物である。

 かつて同じ任務に挑んだ大先輩というのもあるが、それ以上に、天才と呼ばれたレインクルスにとって名誉分隊長の遂げた偉業は大きな目標だった。

 いくつもの盗賊を討伐し、鬼人の襲撃をも撃退した名誉分隊長だが、最も偉大な業績は『蛇王との決戦』だろう。

 この偉業は、王家騎士団の権威を高めるため、半ば誇張されながらも伝承として世に広く伝わっている。

 そもそも蛇人は、六聖教の教えにおいて“悪魔の手先”と定義されている。事実、狡猾で利己的な性格をした個体が多い。

 故に青旗騎士団の任務の1つに、蛇人の討伐がある。長いヘリストンの歴史の中で、蛇人たちは常に駆除されてきた。

 そんな蛇人が最後の住処としたのが、エンドポイントの地下洞窟だった。

 蛇人たちの指導者『蛇王』と、彼に仕える4人の強力な武将『四頭蛇』は、この地に蛇人の楽園を作ったのだ。

 青旗騎士団は幾度となくこの蛇人の巣窟を攻撃しているが、幾度となく蛇王に蹴散らされ、そのたびに事実を湾曲して虚しい勝利宣言をするだけだった。

 そんなパッとしない歴史の中、“名誉分隊長”は20年前、ただ1人で四頭蛇の全員を打ち破ったばかりか、史上初めて蛇王と互角の戦いを展開したのだ。

 結局、戦いは両者が手負いとなったことで引き分けに終わったが、これは青旗騎士団創立以来の大快挙だった。だからこそ“名誉分隊長”として、除隊後の今も未だ世間から英雄視されているのである。

 レインクルスの夢は、青旗騎士団の悲願である蛇王の討伐を成し遂げることだった。

 だからこそ、それに最も近づいた名誉分隊長は、彼女の憧れであり、超えるべき壁でもあるのだ。

「そろそろ警備の方へ戻らねばな。ネオリカ皇帝もそこまで来ているのだろう?」

「はい。しかし、一休みくらいしなくて良いのですか?」

 と尋ねる事務員を傍目に、レインクルスは手早く仕度をした。

「フレイミー様だって、これくらい多忙だったのだろう。私もやらねばなるまい」

 名誉分隊長、フレイミー・ワンコロフ。

 これは、彼女もまた乗り越えた試練なのだ。そう思うだけで、レインクルスは大きくモチベーションを回復できるのだった。

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