36話:今、愛する人
高級そうなブティックを前にし、私はそっとその場を離れようとした。
が、セナにその手を掴まれる。
「こら。どこ行くの? 萌花」
「私なんかが、場違いすぎる!!」
じたばたしても、そのままセナにずるずる引きずられてしまった。
いらっしゃいませ。目をハートにしている女性店員にセナは慣れた口調で言う。
「この女性にドレスを着せてあげたいんだけど」
かしこまりました。その女性は深々と返事すると、私を試着室へと引き込んだ。
やだやだやだやだ!!
という心の叫びは届くはずもなく……。
まず、着せられたのは赤のセクシーなドレス。
胸元と背中が大きく空いてて……、恥ずかしい。
「こちらはどうでしょうか?」
そう言った女性店員にセナは大きく目を見開き、首を横に振った。
却下、って事?
次に着せられたのは水色のフリルのドレス。
さっきよりは露出度は低いけど、肩とかは出てて……やっぱ恥ずかしい。
セナは今度は少し固まって、首を横に振った。
これも却下。
3回目に着せられたのは純白の清楚なドレス。
ウェデングドレスっぽくて、可愛いかも。
セナはまた固まったけど、今度は首を縦に振った。
でも……仕方なくって感じ。
やっぱり似合わないんだよ……ドレスなんてさ。
かも、そのドレス、ゼロがいくつついてるんだってぐらい高くて……。
「セナ!! やっぱり私が払うから!!」
「払えるの?」
「……」
言葉に詰まった私にセナはにっこり微笑んだ。
「手助けするって言っただろ? 大丈夫だって」
納得しきってない私の頭をセナは優しく撫でた。
……負けた。
何年かかっても返済してやると私は心に誓った。
「セナ!! 私、何年かかっても返済するから!!」
「いいよ。プレゼントだと思って受け取って」
こんな高いプレゼント、受け取れるわけないよ……。
申し訳なさから溜息をついた私にセナは言った。
「そういえば、もう一つプレゼントがあるんだけど……」
「いや! もういい! もう十分です!!」
そんな私などおかまいなしにセナはそっと私の指を手に取った。
そっとはめたのはきらきらと輝る指輪。
これ……。
「これ……!! な、なんで……」
「萌花が持ってて」
「だめだよ!! これはセナと美奈さんの思い出でしょ!?」
これは……私なんかがもらえない。
涙がぽろぽろと溢れてくる。
だめだよ。だめだよ、セナ。
そんな私の手の甲にセナはそっとキスを落とした。
「萌花が好きだ。僕と付き合って」
そのセナの瞳は真剣そのもので目を離せなかった。
「君は美奈の身代わりなんかじゃない。萌花自身が好きなんだ」
やだ。そんな言葉……、嬉しすぎるよ。
「な、んで、うぅ……」
「だから、これは萌花が持っててくれ。僕が今、愛する人に持っていて欲しい」
そう言って、セナは優しく微笑むと私の額にキスを落とした。




