20話:優しくて、可愛い人
反射的に口をついて出た言葉に私自身も驚いてしまった。
「萌花……な、何言ってるの?」
珍しくうろたえたセナの声にはっとして急いでまくしたてる。
「いや、こ、この服可愛いから。す、好きだなーって。し、白とか」
どもりながらとぎれとぎれに伝えた言葉だったが、セナは安心したようににっこりと微笑んだ。
「そうなんだ。僕も萌花に似合ってると思うよ」
あ……危なかった。
でも、私、セナが好きなんだ……。
かあ。意識した途端、恥ずかしくなってきた……。
「どうしたの、萌花。顔赤いけど……熱でもあるの?」
セナの手が私の額に当てられる。
ちょ……どうしよ、どうしよ。
心臓がどきどきとなって苦しくなる。
「熱はないみたいだね。……萌花?」
……名前を呼ばれるだけで恥ずかしい。
そんな私にセナは悪戯っぽい笑みを浮かべてみせた。
「ふーん。照れてるんだ」
「っんな訳ないでしょ。じ、自意識過剰じゃないの!?」
必死にまくしたてるも、セナは相変わらずくすくす笑った。
「可愛い」
耳元に少し低い声がかかり、耳まで真っ赤になる。
からかわれてるだけなのに……なんでこんなに意識しちゃうの!?
「じゃあ、行こう?」
手を強引に掴まれる。
多分、逃げ道はないんだ……。
暖かいセナの手が胸の鼓動を大きくする。なのに、なんでこんなに心地良いんだろう?
私は少しセナの手をぎゅっと握り返した。
映画はコメディー系だった。
セナってこういうのも見るんだ。
あはは。結構おもしろいかも。
ってセナも笑ってる?
う……ちょっと可愛い。
セナの笑顔の方が面白くて、そっちばっかりをずっと見てしまう。
映画は終わったみたいだけど、私は全然見れなかった。
「おもしろかったね、萌花」
「う、うん」
セナに見惚れてて全然見れなかったなんて……言えない。
冷や汗をかきながら、少し引きつった笑顔で返した。
それから、デート? は結構楽しくて、ドキドキして……。
あっという間に一日は終わった。
「ねぇ……セナ」
「何?」
「家、住む? レアと私の家」
決心して言ってみた。
これでも最大限の勇気なんだから!
「いいの?」
「うん。あなたの事、結構いい人ってわかったし」
そう言うと、セナはくすっと笑った。
「今まで僕の事、どんな風に見てたの?」
「……ちょっと、おせっかいな人? 後、自意識過剰な人」
「ひどいな……。でも今は?」
言葉に詰まる。
えっと……
「優しくて、可愛い人」
可愛い人って……ちょっとおかしかったかな。
またセナは笑った。
「僕、可愛い? 今までそんな風に言われたことなかったんだけど」
「あっ、茶目っ気があるって意味」
「そっか」
また沈黙が続く。
だけど、気まずいって感じじゃなくて、落ち着く感じ。
セナが私の手を握った。私もセナの手を握り返した。




