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第25話 農家、全てを込める

 周囲から魔素を吸い込み続ける黒き巨躯――ダンジョンの意思。

 その動きが一瞬止まった隙を拓海は見逃さなかった。


 「今だっ!」


 全力で踏み込み、スコップを横薙ぎに振る。

 鋼鉄のような外殻に火花が散り、衝撃音が響く。


 「……硬ぇ……! だが……効いてる……!」


 手応えはある。だが傷は浅く、瞬きする間に黒い肉が蠢き、裂け目を塞いでいく。


 『邪魔をするな……。やはり、まずはお前から始末すべきだ』


 低く響く声。次の瞬間、巨体がうねった。

 クラーケンの触腕――その筋力と弾力に、ゴーヤの蔦が融合している。

 それがしなり、空気を裂き、音速を超える鞭のごとく迫った。


 「っ……!!」


 スコップで受け止めた瞬間、骨がきしむ。

 轟音と共に壁へ叩きつけられ、肺から空気が強制的に吐き出された。


 「ぐっ……がはっ……!」


 全身が悲鳴をあげる。ステータスの差は歴然。

 純粋な力比べでは到底勝ち目はない。


 ――どうする? どうすれば……?


 回避しながら、必死に頭を回す。

 ゴーヤのツタが鞭のように空を裂き、地面を砕く。

 スコップを盾にし、ギリギリで死を避けながら、拓海は閃いた。


 「……これしか、ない!」


 『どんな小細工を弄しようが無駄だ。早く我が一部となれ……!』


 ダンジョンの意思が再び振り下ろす。

 だが――次の瞬間。


 「――ッ!!」


 轟音が響き渡る。


 『な……何をした……!?』


 黒き巨躯の一本の足が、ズタズタに裂け、赤黒い肉片を撒き散らしながら燃え上がっていた。


 「何もしてねぇさ……。ただ――全力を込めただけだ……!」


 拓海の声は低く、しかし確信に満ちていた。


 彼の手の中のスコップは、もはや農具ではなかった。

 込められた魔素が限界を超えて収束し、神器のような輝きを放つ。

 炎が刃を包み、轟々と燃え盛る。


 「これが……俺の全力だッ!」


 突進する拓海。

 炎を纏ったスコップが肉を裂き、黒き再生の力すら打ち消していく。

 焼け焦げた肉片は再生できず、巨体は次第に動きを鈍らせた。


 『ぐぉぉぉぉっ……!!』


 吠えるダンジョンの意思。だが、今や抵抗は苦しいものに過ぎない。

 その姿はまな板の上の鯉。拓海の猛攻に追い詰められていく。


 「これで……終わりだぁぁぁぁっ!!」


 最後の一撃を振り下ろす拓海。

 だが――。


 「……ッ!? 動かねぇ……!」


 全身が鉛のように重く、脚が言うことをきかない。

 スコップを振り下ろすその直前で、拓海の身体は硬直した。


 ――魔素が、尽きた。

 スコップ強化に全てを注ぎ込みすぎて、身体強化分の魔素が残っていなかったのだ。


 「あと……一撃……。それだけで……いいんだ……! 動け……俺の身体……!」


 必死の願い。だが力は入らない。

 その刹那――。


 黒き巨体が眩く光を放った。


 『……人間……。次は無いぞ……』


 低く呟くと同時に、膨れ上がった身体が破裂し、衝撃波と黒煙を撒き散らす。

 残滓は煙のように消え去り、静寂が訪れた。


 「……終わった……のか……」


 拓海は安堵と共に、全身の力を抜いた。

 そのまま地に倒れ込み、意識を手放す。


 一先ずの危機は去った。だがそれは、決して「勝利」ではない。

 嵐の前の静けさ――拓海はそのことを薄れゆく意識の中で理解していた。

「農民こそが最強です。〜うっかりダンジョンを水没させたら世界最強になってしまいました〜」もよろしくお願いします!


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