第26話 農家、決意する
拓海たちは富士駐屯地の医務室で治療を受けていた。
戦いは終わった。だが、それは勝利とは呼べない。
拓海は天井を見つめながら、静かに呟く。
「……ダンジョンの意思との戦いは、実質完敗だな」
ベッドの横で座っていたレイカは、涙の跡が残る顔で言葉を返す。
「でも……みんな戻ってこれた。それだけでも奇跡だよ」
水城は包帯で覆った腕を押さえつつ、深い息を吐いた。
「奇跡にすがるだけじゃ、この先は持たないわ」
その声には、厳しさと同時に、仲間を思う温かさが混じっていた。
拓海はゆっくりと首を向ける。
「教官……あの時、俺が“奴”に身体を乗っ取られて……あれは一体、なんだったんです?」
水城は目を伏せ、低い声で答えた。
「分かったことがある。あの“ダンジョンの意思”自体には、本来『人類を滅ぼす意志』なんて無かったはず。……恐らくあれは後付けで与えられた“命令”よ」
「命令?」
「ええ。外部からの強制。何者かが――“人類を滅ぼせ”と刷り込んだのよ」
拓海は息をのむ。
「じゃあ、真の敵は……」
「そう、人類そのものを滅ぼそうとする“何か”。ダンジョンはその手駒に過ぎなかった」
部屋の中が重苦しい沈黙に包まれる。
レイカは唇を噛み締めながらも、絞り出すように言葉を続けた。
「……じゃあ、次に立ち向かわなきゃいけないのは、その“何か”なんだね」
水城は力強く頷いた。
「ええ。私たちはまだ、序章を終えただけにすぎない」
拓海は拳を握る。
「……負けてたまるか。俺たちの世界を、勝手に滅ぼされてたまるかよ」
ベジがベッドの横で「ワン!」と吠える。
それは「俺たちはまだやれる」という意思表示のようだった。
重々しい空気の中で、拓海はふと笑みを浮かべる。
「よし……決めた。次の戦いは――安心して野菜作りができる世界のために挑む!」
レイカが呆れたように笑う。
「……こんな時に、野菜?」
水城も肩をすくめた。
「でも、高山らしいわね」
拓海は布団を蹴飛ばす勢いで叫ぶ。
「そうだ!俺は農家だ!トマトもナスもキュウリも!安心して育てられる世界じゃなきゃダメなんだ!だから負けない!これからが本番だぁぁぁ!」
医務室に拓海の声が響き渡る。
レイカはとうとう笑い出し、ベジも楽しそうに吠え、水城は額に手を当てながらも口元に小さな笑みを浮かべた。
――こうして、富士山ダンジョンでの死闘は幕を閉じた。
だが、人類を滅ぼそうとする“何か”との本当の戦いは、まだ始まったばかりである。
今回をもちまして、本作品は最終回となります。
ご愛読ありがとうございました!(´▽`)
「俺、農家なんですけど〜スコップはダンジョンを制す〜」という作品も連載しています。
よろしくです。
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