第24話 農家、復活する
レイカの唇が拓海の唇に触れた瞬間――。
彼の身体から、黒いモヤが音もなく溢れ出した。
同時にレイカは反射的に身を離す。
『く……このままでは、この身体の意識が戻ってしまう……。早く、支配を……終わらせねば……』
低く響く声と共に、黒いモヤはますます濃く、荒れ狂うように噴き出していく。
「拓海ー! 目を覚ましてーっ!」
涙混じりに叫ぶレイカの声が響いた。
「ワオーン!!」
ベジが全身を震わせ、声を張り上げる。
「起きなさい! 高山!!」
水城の鋭い叱咤が空気を切り裂く。
その声に――。
「……俺の……身体を……返せぇぇぇぇっっ!!」
拓海の魂の叫びが爆発した。
瞬間、彼の全身から黒いモヤが噴き上がり、火山の噴煙のように渦を巻いて天井を覆う。
黒きモヤは次第に一点へ収束し、やがて輪郭を持ち始めた。
『……足りぬ……。足りぬぞ……!』
呻き声と共に、近くに転がるクラーケンの巨大な死骸がずるずると引き寄せられていく。
そして、そのそばにあった――魔素を大量に含んだゴーヤ。
黒い霧はそれらを絡め取り、無理やり引き裂き、飲み込むように吸収していく。
肉の潰れる音、骨が砕ける音、魔素が軋むような振動。
それらすべてが混ざり合い、黒い塊は恐ろしい速度で巨大化していった。
「くっ……!」
拓海は必死に自分の身体から溢れ続ける黒いモヤを押さえ込む。
スキルを全力で展開し、魔素の流出を封じるのだ。
だが、その力は他の仲間には備わっていない。
「……ッ!」
レイカが膝をつき、力なく肩を震わせる。
「はぁ……はぁ……」
水城も額に汗を浮かべ、全身の力を抜かれるように崩れ落ちた。
「ワ、ワオォン……!」
ベジも地に伏し、必死に耐えてはいるが、身体の震えは止まらない。
――魔素を奪われている。
黒き意思が、存在そのものを吸い取ろうとしているのだ。
拓海は奥歯を噛み締めた。
転移で全員を逃がすことはできる。
だが――ここでこの怪物を放置すれば、日本どころか、この大地そのものが崩壊するだろう。
逃げる?
いや、そんな選択肢はない。
「ここで……倒すしかないッ!!」
拓海は立ち上がる。
震える膝を押さえつけるように力を込め、仲間の前に立ちはだかる。
両手は、知らず握りしめていた。
スコップを――。
農家として、命を育む道具。
だが今、この瞬間は、仲間と大地を守るための武器。
「行くぞ……!!」
拓海は深く息を吸い込み、眼前の黒き怪物を睨み据えた。
決意は揺るがない。
その眼に宿るのは、かつて畑を耕し、大地に挑み続けてきた農夫の誇りだった。
――最終決戦の幕が上がろうとしていた。
「俺、農家なんですけど〜スコップはダンジョンを制す〜」という作品も連載しています。
よろしくです。
https://ncode.syosetu.com/n0109kx/




