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第22話 農家、ダンジョンの意思となる

『――では、この山を噴火させるとするか』


 拓海の口を借りて響くその声は、冷酷で揺らぎがなかった。

 大広間の奥へと、ゆっくり歩を進める「ダンジョンの意思」。その一歩一歩が、地を震わせるように重い。


「行かせないわよ!」

 水城が叫び、魔素弾を立て続けに撃ち放つ。閃光のような弾丸が拓海の身体を穿つ――はずだった。


 しかし。

 全ての魔素弾は、彼に届く前に黒い靄へと飲み込まれ、霧散してしまう。


『無駄だ。人の術で、我を縛れるものか』


 まるで空気を切り裂くように、意思はただ歩みを止めなかった。


「ワンッ!」

 その瞬間、ベジが吠え猛り、全身を炎に包んで突撃する。

 燃え盛るその姿は、炎を纏った彗星のようだった。


「いけぇぇぇっ!」


 ドゴォッ!

 直撃――しかし、与えられたのは服の一部を焦がしただけの微細な傷。


『邪魔だ、犬っころ』


 意思は片手を軽く振るった。まるで羽虫を払うような仕草で。

 その一撃だけでベジの巨体は吹き飛ばされ、石壁に叩きつけられる。


「ベジ!」

 レイカの悲鳴が響く。


 だが――ベジは立ち上がった。

 足は震え、毛は焦げ、口から血を吐きながらも、吠えて再び立ち塞がる。


「……ベジ……」

 その姿に、水城は奥歯を噛みしめた。そして振り向きざま、泣き崩れるレイカに怒鳴る。


「レイカ! しっかりなさい! こうなったら高山の心に訴えるしかないわ!」


「……え?」


「彼の心に声を届けられるのは、長年一緒にいた幼なじみのあなたしかいないの!」


 レイカは涙を拭き、唇を噛み締めて立ち上がる。

「……何をすればいいですか?」


 水城は魔素銃を差し出した。

「これに魔素を込めながら、高山との思い出を思い浮かべて。楽しかったこと、悲しかったこと、嬉しかったこと……なんでもいい。その想いを、私が魔素弾に纏わせるわ!」


 レイカは銃を握りしめ、目を閉じた。

 幼き日の記憶。

 泣いていた自分をいつも笑わせてくれた少年。

 不器用で、馬鹿みたいに真っ直ぐで、それでも隣にいてくれた存在。


「拓海……拓海……拓海……!」


 魔素と想いが重なり合い、銃身が赤熱する。金属が悲鳴を上げ、ミシミシと軋み音を立てた。


「もう限界よ……! 行くわよ!」

「はい!」


 二人の声が重なった。


「いっけぇぇぇぇぇッ!!!」


 引き金を引いた瞬間、銃は砕け散り、最後の魔素弾が光の奔流となって放たれる。

 それは全てを込めた一撃――祈りそのものだった。


 直撃。

 意思の歩みが初めて止まる。


『ぐ、ぐぁ……うぐ……が……!』


「効いてる!」水城の声が震える。


「あと一押し!」

 レイカは走り出した。涙に濡れた顔で、それでもまっすぐに拓海へ――いや、拓海の奥にいる彼自身へと向かって。


 そして。

 細い声で、それでもはっきりと告げた。


「拓海……好きだよ。戻ってきて!」


 その言葉と共に、レイカは唇を重ねた。


 ――幼なじみとしてではなく、ひとりの女として。

 想いを込めた口付けが、閉ざされた心の奥深くに届くことを信じて。

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