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第21話 農家、器となる

 湖面に浮かぶクラーケンの亡骸が、ゆっくりと崩れていく。

 静寂を取り戻した広間で、拓海はその中心に残った淡く青白い光――水属性のコアを拾い上げた。


「……これで全部、揃った」

 五つ目のコアを掌に収め、彼は仲間の前に並べ置いた。火、土、風、木、そして今の水。


 しかし――違和感があった。


「……ん?」

 拓海が眉をひそめる。

 最後に手に入れた水のコアは、濃く鮮やかな光を放っていた。だが、他の四つ――それらは明らかに光が薄れ、色褪せて見える。


「おかしいな……? さっきまで、もっと輝いてたはずなのに……」


 疑問が言葉になるよりも早く、四つのコアが一斉に震えだした。

 机に置いたはずの石が宙に浮き、眩い光の筋を描いて――まるで引き寄せられるように拓海の胸へと飛び込んでいく。


「なっ……!」


 瞬間。

 拓海の身体が大きく仰け反った。


「ぐ、ああああああああッ!!」


 喉を引き裂くような叫びが広間に響き渡る。

 光は収まらず、最後の水のコアすらも彼の中に吸い込まれていった。


「拓海!?」

レイカが駆け寄ろうとする。だが、その足を止めさせるように、突如広間全体に黒い靄が渦を巻いた。


 拓海の身体から放たれる、見知らぬ圧力。

 彼の口が――いや、もはや彼ではない何かが、勝手に動いた。


『――私は、このダンジョンの意思である』


 低く、響き渡る声。

 その声は拓海のものではなかった。けれど確かに、彼の喉を通じて発せられていた。


『幾千の挑戦者たちよ。ようやく、我を解き放つ器が現れた。この男の身体は、コアごと私が頂いた』


「やめろッ! 拓海を返せ!」

レイカが叫び、刀に手をかける。


 だが一歩も踏み出せなかった。

 拓海から放たれる瘴気があまりに濃く、近付けばその身を焼かれると本能が告げていたからだ。


「そんな……まさか……」

水城が愕然と呟いた。

 彼女は震える拳を握りしめ、唇を噛む。


「……そういうことだったのね。高山が力を持て余してるように見えたのは……全部、知らず知らずのうちにコアの力が流れ込んでいたから! あの時からずっと……彼は、器にされてたのよ……!」


「嘘……そんなの……」

レイカの膝ががくりと床に落ちる。

 強気な彼女の顔が、子供のように歪んだ。大粒の涙が頬を伝い落ちる。


「……拓海……もう……会えないの……?」


 掠れる声は、広間の静寂に虚しく響いた。


 その問いに、ダンジョンの意思は嘲笑を浮かべるように拓海の唇を吊り上げ――

『答える必要はない。お前たちの戦いは、ここで終わりだ』


 冷酷な宣告が、大広間を震わせた。

「農民こそが最強です。〜うっかりダンジョンを水没させたら世界最強になってしまいました〜」もよろしくお願いします!


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