第20話 農家、やはりやらかす
四人と一匹は、最後の扉を抜けて大広間へと進んだ。
そこに広がっていたのは、今までのダンジョンとは一線を画す光景――巨大な湖だった。
蒼黒の水面が静かに揺れ、空気そのものが冷え切っている。緊張が一気に張り詰める。
「残すは……水属性だけ、か」
拓海が深く息を吸い、仲間の顔を見渡した。
「俺、決めました。もう頭脳プレーなんか気にしません! 一番大事なのは……みんなで力を合わせて、このダンジョンを攻略することです!」
その真剣な声に、一瞬の沈黙の後――。
「おおー、成長したねぇ拓海!」
レイカがニヤリと笑って茶化す。
「そうね」
水城も口元に微笑を浮かべる。
「力だけじゃ倒せない相手もいるから頭脳プレーを示したけど……本当の目的はモンスターを討ち、平穏を取り戻すこと。残るは一体、水属性よ。植物栽培スキルの活躍、頼りにしてるわよ」
「はい!」
拓海は力強く頷いた。
――その時だった。
湖が大きくうねり、轟音と共に巨大な影が姿を現した。無数の触腕を広げ、天を仰ぐように咆哮する。
クラーケン――水属性の頂点に立つ怪物だった。
「まずは俺が野菜のツタで動きを封じます! その隙にベジとレイカ、火炎弾を!」
拓海が指示を飛ばす。
「ワンッ!」
ベジが勢いよく吠えた。
「了解っ!」
レイカは刀を構えながら魔素を練る。
「水城教官は……弱点封印をお願いします! 目と目の間、そこが怪しいです!」
「……OK。そこに撃ち込むわ」
水城は銃を構え、静かに狙いを定めた。
拓海は大きく息を吸い――腰のポーチからゴーヤの種を取り出す。
「よし、いけぇッ!」
投げつけられた種は、思いのほか軽やかに飛び、クラーケンの粘膜質の肌に当たった。
(どうせ弾かれる……)
そう思った瞬間――あっさりと沈み込む。
「あれっ?」
拓海が目を瞬かせる。
次の瞬間。
種から無数のツタが伸び、みるみるうちに膨張していった。クラーケンの体表を突き破り、内部から根を這わせ、血管のように全身を覆う。
「ギャアアアアアアアア――!!」
断末魔の絶叫が響き、湖面が爆発するように泡立つ。
そして――沈黙。
クラーケンは、自らの体内に芽吹いた異形の植物に絡み取られ、そのまま湖に崩れ落ちた。
残されたのは、呆然と立ち尽くす仲間たち。
「……あ、なんか倒せちゃいました」
拓海がぽつりと呟く。
レイカは額を押さえ、盛大にため息をついた。
「……あんた、最後までズルじゃん……」
「力を合わせて……とか言った直後にコレ?」
水城も肩をすくめ、冷ややかにため息を漏らす。
その横で。
「ワン!」
ベジが嬉しそうにクラーケンの肉片を齧り、実ったゴーヤの実をぽりぽりと頬張っていた。
「……食べるのかよ」
拓海が呆れると、レイカと水城が同時に吹き出す。
緊張と笑いが入り混じる中、ダンジョンの最後のボスは――まさかのゴーヤで討伐されてしまったのだった。
「農民こそが最強です。〜うっかりダンジョンを水没させたら世界最強になってしまいました〜」もよろしくお願いします!
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