第16話 農家、ぐうの音も出ない
「じゃあ、今度は私が選ぶ!」
そう言って意気揚々と歩き出したレイカだったが――行き着いた広間に鎮座していたのは、金属の巨人。
ギィィィ、と重い音を立てて首を回すと、真紅の眼孔が一行を射抜いた。
「メ、メタルゴーレム……!?」
レイカの顔がみるみる青ざめる。
「うわー……よりによって一番厄介なのを引いちゃったわけか」
拓海が苦い顔でつぶやく。
「ゲゲッ……」と情けなく唸るレイカ。
それでも刀を構え直すと、「とりあえず、やれるだけやってみますか。――行くよ!ベジ!」と声を張った。
「ワフッ!」
応えるように、ベジが鋭い炎の爪を閃かせて突撃する。
だが、ゴーレムの身体は厚い鋼鉄そのもの。炎を纏った爪で抉っても、表面をかすかに焦がす程度。
レイカの刀撃や石礫の術も弾かれ、甲高い金属音を響かせるばかりだ。
「やっぱ硬っ! 全然効いてないじゃん!」
「レイカ、下がれ!」
拓海の声に合わせて、ゴーレムの腕が大木のように振り下ろされた。
石床を砕く衝撃波に、レイカとベジが紙一重で飛び退く。
「じゃあ……合わせ技だ!」
レイカは両手を広げ、土の礫を浮かび上がらせる。その礫にベジが息吹で炎を纏わせると、燃える隕石のようにゴーレムへ殺到した。
ドゴォォォォン!!
爆炎と衝撃で煙が広がる。
「やった!?」
期待する声。だが、煙の中から現れたのは――焦げ跡ひとつで悠然と立つ金属の巨体。
「全ッ然、効いてないーっ!」
レイカが悲鳴を上げた。
「やっぱり……拓海のズルに頼らないとダメかもー」
「だからズルじゃねぇって!」
前に出ようとする拓海。だが――その肩を水城が掴んだ。
「待ちなさい。ちょっと試したいことがある。……まずは私にやらせて」
その声は落ち着いていて、凛とした強さがあった。
「レイカ、ベジ! あの巨体を翻弄して。動きを止めた一瞬を作りなさい!」
「了解!」
「ワフッ!」
二人と一匹が左右から駆け、火花のように攻撃を散らす。ベジの炎爪、レイカの刀閃、そして土壁で足を絡め取る。わずかな隙が生まれた。
「今だ」
水城が銃を構える。魔素を圧縮し、銃口から青白い光弾が連続で放たれた。
タタタタタ――ッ!!
狙いはただ一点。ゴーレムの額に刻まれた奇妙な模様。
光弾が集中して叩きつけられると、その部分だけが脆く砕けるように削れ、火花が散った。
「……行く」
水城が低く呟き、ゴーレムへと駆け出す。
巨腕が唸りを上げて横薙ぎに迫る。だが水城は身を低くして滑り込み、壁を蹴り上げ、空を舞うようにその巨体を駆け上がった。
「せいッ!」
気合の声とともに、手甲に纏わせた腐食属性の魔素が閃く。
振り下ろされた一撃は、額の模様を真正面から削り取った。
ゴーレムの全身が硬直し――そのまま仰向けに轟音を立てて倒れ込む。
ズシィィィンッ!!!
静寂。
レイカも拓海も、あまりの鮮やかな決着に呆気にとられていた。
「な、何をしたんですか……?」
レイカが恐る恐る尋ねる。
水城は息を整えながら答える。
「ゴーレムは“אמת(エメト)”――『真理』の文字で動いているの。私はそこから『א』を削って“מת(メト)”、つまり『死』に変えた。それだけよ」
ぽかんとする拓海。
「最初に銃撃したのは、封印スキルであの部分だけ耐久性を落としたから。そして手甲に腐食を纏わせて仕上げた。――頭を使えば、力任せに砕かなくても勝てるの」
水城は静かに告げると、挑発するように拓海へ視線を送った。
「高山。あなたも力技ばかりじゃなく、こういう“頭脳プレー”を目指しなさい」
「……ぐっ」
ぐうの音も出ない拓海であった。
「農民こそが最強です。〜うっかりダンジョンを水没させたら世界最強になってしまいました〜」もよろしくお願いします!
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