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第5話 農家、水没ダンジョンを掘る

「報告します。今回の事案について、現時点で判明している情報をまとめました」


岩国基地・会議室。

山口県内で発生した“元自衛官・神谷の半魔物化事件”に関する調査報告会が行われていた。

壁一面のスクリーンには、ダンジョン内で記録された映像や解析資料が並ぶ。


報告を行うのは、陸上自衛隊のダンジョン調査班を率いる比嘉二佐。

テーブルにはレイカや水城らと並んで、拓海の姿もあった。彼は正式な隊員ではないが、現場で最も多く事実を目撃した人物として呼ばれていた。


「まず、神谷元隊員が二ヶ月間もダンジョンで生存し得た要因についてです。確認されたのは、水没ダンジョン内に自生していたダンジョン産野菜の摂取でした。これらは通常の野菜より多くの魔素を含んでいますが……」

比嘉はスクリーンを指し示す。


「しかし、野菜の摂取で人間が魔物化する前例は一切ありません。あくまで一時的な身体能力の向上にとどまるはずです」


「じゃあ、神谷さんがああなったのは……?」

レイカが思わず問いかける。


「調査班の見解としては、野菜そのものより“ダンジョンの意思”の様なものが関与していたと考えています」


会議室にざわめきが走る。


「意思……ダンジョンに?」水城が怪訝そうに眉を寄せた。


「はい。水没ダンジョンは高山氏が魔素を吸い尽くしたことで復元作用を失いました。しかし、完全には死んでいなかった。残されたコアの意志が神谷元隊員を取り込み、彼を新たな“器”と誤認したのではないかと」


比嘉の言葉に、室内の空気は一段と重くなる。

スクリーンには、神谷が暴走する直前の体組織の魔素反応データが映し出されていた。明らかに“人間”の範疇を超えている。


「要するに」比嘉は言葉を続ける。

「神谷元隊員は、野菜で力を得ただけではなく、ダンジョンそのものに“選ばれた”状態だったのです」


その説明に、拓海は拳を握りしめた。


「……俺が、あのダンジョンを吸収しきれなかったせいだ……!」


「協力者のあなたに責任を問うつもりはありません」比嘉は静かに首を振る。

「むしろ高山さんがいなければ、神谷の力はもっと拡大していたでしょう」


だが拓海の表情は晴れない。

別の調査員が補足する。


「特に気になるのは“強い悪意”です。分析すればするほど、神谷個人の意思以上に、外部からの強制力を感じました。あれは……まるでダンジョン自身が人を操ろうとしていたように思えるのです」


「……」


その瞬間、拓海の顔色が変わった。

まるで心臓を直に掴まれたかのように、視線が鋭さを帯びる。


「どうしたの?」レイカが首を傾げる。


拓海はしばらく言葉を探し、低く呟いた。

「……まだ残ってる。水没ダンジョンの最下層に……あの意思の本体が」


会議室がざわついた。

国仲基地司令が重々しく口を開く。

「君は……そう思うのか」


「思うんじゃない。感じるんです。」

拓海は静かに立ち上がった。


翌日。

彼は再び水没ダンジョンの最下層に足を踏み入れていた。

泥にまみれた床を前にスコップを構え、確信を持った声で呟く。


「ここだ……」


そして、地面を掘り始めた。

――あの時と同じように。

「農民こそが最強です。〜うっかりダンジョンを水没させたら世界最強になってしまいました〜」もよろしくお願いします!


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