第6話 農家、水没ダンジョンを終わらせる①
泥と石の入り混じった地面を、拓海は黙々とスコップで掘り進めていた。
「ここで間違いない……」
体内の球体がわずかに反応している。まるで呼び合うように、微弱な魔素の流れが下方から伝わってくるのだ。
どれほど掘っただろうか。硬い感触をスコップが捉えた瞬間、拓海の表情が鋭くなる。
「来たな……」
壁を思い切り叩き崩すと、地下にぽっかりと空間が広がった。そこは、かつて神谷を取り込み、彼を暴走へと導いたダンジョンの最下層――コアルームだった。
しかし、前回と違い、静まり返っている。
どろりとした魔素の霧も無く、モンスターの影もない。
ただ中央に、透き通るように淡く光る球体――コアが鎮座していた。
「魔素が……足りないのか」
拓海は慎重に近づき、掌をかざす。
球体はかすかに脈打つように光を放ったが、その力は弱々しく、今にも消えてしまいそうだった。
――それでも放置すれば、また誰かを飲み込むかもしれない。
迷う理由はなかった。
拓海は深呼吸し、吸収スキルを発動させた。
途端に体内の球体が反応し、透明なコアから細い糸のように魔素が流れ込んでくる。
「……やっぱりだ」
流れは細いが、確かに吸える。
拓海は集中し、全てを取り込むよう意識を研ぎ澄ませた。
数分も経たぬうちに、球体は色を失い始めた。
淡い光は薄れ、内部を走っていた魔素の筋が一本、また一本と消えていく。
最後には完全に透明となり、輪郭すらあいまいになっていった。
「終わりだな」
拓海がそう呟いた瞬間、コアは音もなく砕け散り、細かい光の粒子となって空間に溶けていった。
静寂。
地下の空間には、もはや魔素の気配は一片も残されていない。
拓海はスコップを肩に担ぎ、ひとつ大きく息をついた。
「これで……本当に、あのダンジョンは終わった」
しかし胸の奥には、不思議なざわめきが残っていた。
魔素を吸収しきったはずなのに、体内の球体はまだじんわりと熱を帯びている。
――まるで、もっと深い場所に“何か”があると訴えているかのように。
拓海は眉をひそめつつも、掘り返した壁を見回した。
完全に消滅したはずのダンジョン。その奥にまだ続きがあるのだろうか。
考えを振り払うように頭を振り、地上へと戻る決心をした。
「まぁいい。今はこれで十分だ」
暗い地下室を背にし、拓海は静かに歩き出した。
「農民こそが最強です。〜うっかりダンジョンを水没させたら世界最強になってしまいました〜」もよろしくお願いします!
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