第4話 農家、決着をつける
轟音と衝撃が響き渡り、拓海は床に叩きつけられた。
肺が焼けるように痛み、視界が揺れる。だが、その耳には確かに届いていた。
「立てよ……高山ァ! お前が……オレを救わなかったんだ……!」
神谷の叫びは、憎悪と悲嘆が入り混じった絶叫だった。
その言葉に胸を締め付けられる。確かに彼は救えなかった。気付くべきだった。孤独に潜伏した神谷を、見つけ出して引き戻すべきだったのだ。
「神谷……っ……!」
拓海はよろめきながら立ち上がる。手の中のスコップは、何度も仲間を守り、畑を耕してきた相棒だ。その柄を強く握り締める。
だが、心は揺れる。
相手は人間――いや、もう人間とは呼べないかもしれない。けれど、かつては確かに人間だったのだ。
「殺せるのか……高山ァ!」
神谷の叫びと同時に、周囲の床から黒い結晶柱が一斉に噴き出した。拓海を押し潰さんと迫る。
拓海は後退しつつ、ゴーヤの種を撒き散らした。
「出てこい、ツル!」
瞬時に絡みついたツルが結晶を受け止めるが、神谷の力は圧倒的だ。ツルは軋み、千切れる音を立てていく。
「チッ……これじゃ時間稼ぎにもならねぇ……!」
焦る拓海を見て、神谷の口元に醜悪な笑みが浮かぶ。
「どうした高山! 殺せねぇのか!? 臆病者がッ!」
その罵声に胸の奥が灼けた。臆病なのかもしれない。だが――。
拓海の脳裏に、ベジやレイカ、そして今まで救ってきた人々の姿が浮かぶ。
――迷えば、守るべき者が死ぬ。
――俺が倒さなきゃ、誰かが犠牲になる。
「……神谷。お前を救いたかった。でも、もう戻れねぇんだな……」
拓海の声は震えていた。だが、その目に迷いは消えていた。
「だったらせめて――俺が終わらせる!」
スコップを構え直すと同時に、体内のコアが脈打つ。
魔素が奔流のようにあふれ、スコップを紅蓮の炎で包み込んだ。
「来いよ、高山ァアアア!」
神谷が結晶の拳を振り下ろす。
拓海は叫んだ。
「農家の慈愛――ッ!」
ゴーヤのツルが最後の力で神谷を拘束し、動きを止める。
その瞬間、拓海は全力でスコップを突き立てた。
轟音と共に炎が弾け、神谷の身体を包み込む。
黒い結晶は焼け崩れ、憎悪に満ちた顔が苦悶へと歪む。
「……た……か……やま……」
一瞬だけ、かつての人間だった顔が戻った気がした。
だが次の瞬間、全身は崩れ落ち、灰となって消えた。
拓海は膝をつき、スコップを握ったまま動けなかった。
熱いものが頬を伝う。
「……すまん、神谷。せめて……俺の手で終わらせた」
ベジが影から顔を出し、静かに寄り添った。
拓海はただ、沈黙の中で仲間の最期を悼むしかなかった。




