第8話 魔改造野菜の再来
沖縄の那覇基地研究棟。
ここでは、ダンジョン資源の有効活用を目的に、日夜研究が続けられていた。
とりわけ注目されていたのは――拓海が破壊した謎の球体の「破片」である。
回収総量は実に十トン以上。
拓海がほとんどの魔素を吸い尽くしたとはいえ、なおも強大なエネルギーを秘めていた。
そのため、ほとんどは基地の奥深く「封印庫」と呼ばれる厳重な保管庫に眠らされ、研究に回されたのはわずか一グラムほどに過ぎなかった。
「これだけでも、Sランク魔晶石百個分に匹敵するな」
白衣の研究員がため息をつく。
机の上には小瓶に収められた黒光りする結晶片が鎮座していた。
隣の机では、拓海が持ち込んだ農作物の分析も進められていた。
「これが“拓海産”ゴーヤか。魔素反応が野菜の域を超えてるぞ」
「どうしてただのゴーヤにここまで……いや、彼が作ったからか」
研究員たちが首をひねる中、冷凍保存されていた一本のゴーヤが解凍実験のため机の上に置かれていた。
そして――事件は唐突に起きた。
ゴゴゴゴゴ……ッ。
研究棟全体が大きく揺れる。
「地震!? 沖縄で!?」
「この規模は観測史上でも滅多に無いぞ!」
棚が倒れ、研究資料やサンプルが床に散乱した。慌てて立て直そうとする研究員たち。
その混乱の中、ひときわ不運な“接触”が生まれる。
Sランクダンジョン産の魔晶石が、転がった拍子にゴーヤと接触。
さらにその下敷きとなるように、ダンジョンコアの破片が寄り添った。
ピシリ、と空気が軋むような音が響いた。
研究員たちは気付かない。
机の下で、ゴーヤの表面に黒いひび割れが走り、内側から怪しい光が漏れ始めていることに。
やがて――。
「……あれ、サンプルの数が合わないぞ?」
「一本……ゴーヤが、無い?」
倒れた棚を直しながら振り返った研究員たちの目に飛び込んできたのは、床を這いずる“緑色の何か”だった。
それは人の腕ほどに肥大化したゴーヤ。
表面のイボは鋭い棘となり、触手のように蠢くツルを伸ばしている。
「うわああああっ!?」
悲鳴を上げる暇もなく、近くの研究員が薙ぎ倒された。
暴走したゴーヤは、転がる魔晶石や散乱した実験サンプルを次々に取り込み、みるみる巨大化していく。
数分も経たぬうちに、人間大にまで膨れ上がり、奇怪な咆哮を上げた。
「ゴォォォヤァァァ……!!」
その声は、まるで意思を持つかのように響いた。
「ま、まずい! 封印庫を狙ってるぞ!」
研究員の一人が血の気を引いた顔で叫ぶ。
このまま基地の一角に眠る十トンのコア破片と融合されれば……制御不能の怪物が誕生することは想像に難くない。
暴走ゴーヤは、研究棟の壁を突き破り、封印庫へとまっすぐ進撃を始めた。




