第9話 農家、閉じ込められる
那覇基地研究棟を突き破り、封印庫を目指して暴走する巨大ゴーヤ。
その姿はもはや野菜の域を越え、ダンジョン産モンスターにすら匹敵していた。
「前衛班、止めろ!」
Aランク冒険者に匹敵する実力を誇る自衛隊特殊部隊の隊員たちが一斉に立ちはだかる。
銃火器や魔法の弾幕が降り注ぐが――ゴーヤの表皮は黒い鎧のように硬化しており、傷一つつかない。
逆に棘つきのツルを振り回し、隊員たちを次々に吹き飛ばしていく。
「くそっ、止まらないぞ!」
「このままじゃ封印庫が突破される!」
一方そのころ――。
基地内のトイレの個室にて。
「……開かないんですけど?」
拓海は扉をガチャガチャ揺らしていた。
地震の衝撃で歪んだ鍵が噛み合い、完全に閉じ込められている。
外からはけたたましい警報音と地響き。
「……これ絶対また俺の野菜絡みの事件だろ」
分かっていながら出られない。情けなく便座に座り込む拓海であった。
◆
封印庫前。
ついに水城とレイカ、それに影から飛び出したベジが、暴走ゴーヤの進路を塞ぐ。
「ここは通さない!」
レイカの刀が閃き、水城の毒拳が炸裂する。
しかしゴーヤの表皮はますます硬化し、全く通用しない。
「なにこれ!? 硬すぎる!」
「まるでダンジョンコアの外殻そのものね……」
水城の額に汗が滲む。
一方のベジは巨大なツルを繰り出し、ゴーヤと互角に組み合っている。だが膠着している間にも、ゴーヤはじりじりと封印庫に近づいていった。
「まずい! あと十メートルもない!」
その瞬間――。
ガシャァン!と派手な音を立てて封印庫の通路の壁が崩れ、埃まみれになった拓海が登場した。
「ふぅ……遅れてすまん!」
「拓海!? あんたどこ行ってたのよ!」
「……トイレ」
「…………」
レイカの目が死んだ魚のようになる。
だが拓海はそんな視線を意に介さず、ポケットから種を取り出す。
「野菜よ、今こそ力を貸してくれ!」
農家の慈愛スキルが発動し、撒かれた種から瞬く間にツルが伸び、暴走ゴーヤを絡め取る。
「ゴォォヤァァ!」
抵抗するものの、野菜同士の力は拮抗し、ついに動きを封じられる。
「今だ!」
拓海が影からスコップを呼び出し、魔素が迸る刃を全力で振り下ろした。
ズバァンッ!
暴走ゴーヤは粉々に砕け散り、黒い煙を上げて消滅していく。
静寂。
拓海はスコップを肩に担ぎ、少し気取った声で呟いた。
「ふ……またつまらぬものを切ってしまった」
格好つけた沈黙。
レイカと水城、そしてベジが揃って言った。
「トイレに閉じ込められて遅れてきた人間が言うセリフじゃないわよ!」
拓海は顔を真っ赤にしてスコップをしまい込んだ。
こうしてまた、拓海の“農家事件簿”に新たな黒歴史が刻まれたのであった。




