第3話 農家、謎の部屋に突入する
「ベジ、行くぞ」
まだ何かが潜んでいる可能性を考え、拓海はスコップを握りしめたまま穴へ飛び込んだ。
黒い犬――ベジも、拓海の後を追ってひょいと飛び降りる。
着地した先は、直径十メートルほどの円形の小部屋。
壁も床も滑らかで、自然に出来た空洞とは思えないほど整えられていた。
人工的な加工が施されたような雰囲気に、拓海は思わず眉をひそめる。
「……ダンジョンの内部に、こんな場所があるなんてな」
ベジは鼻を鳴らし、部屋の中央を睨みつけていた。
その先には、大人が数人で抱えても余るほどの大きな球体が鎮座している。
半透明の殻に覆われた球体の中では、黒いモヤのようなものがゆらゆらと揺れ動き、不気味に脈動していた。
「鉱石……じゃねぇな。まるで、心臓みたいだ」
拓海が一歩踏み出した瞬間、球体から黒いモヤが漏れ出す。
モヤは床に滴るように広がり、やがて人型を形作ろうとし始める。
その気配に、拓海はすぐさまスコップを構えた。
「……さっきの人型は、こいつが“生み出した”ってわけか」
低く唸ったのはベジだ。毛を逆立て、今にも飛びかかりそうな様子。
拓海はポケットから種袋を取り出した。
「考えてる暇はなさそうだな……今回は退治に徹するか」
しかし、そこで気づく。
腰につけた通信機のランプは沈黙したまま――この部屋では、外との通信が完全に遮断されていた。
「……ちっ、報告も出来ねぇのか。やれやれ」
黒いモヤは次々と漏れ出し、人型を形成しつつある。
拓海は深く息を吐き、スコップを握り直した。
「――行くぞ、ベジ」
ベジが吠え、影の中に身を沈める。
拓海は種を握り込み、農家の慈愛を発動する準備を整えた。
異様な空気に包まれた小部屋で、拓海とベジは未知なる“球体”と対峙するのだった。




