第12話 農家、タコに襲われる
ベジは灰の降る浅瀬を、迷いなく駆けていく。
足跡はすぐに灰に埋もれるが、その鼻は確かな目的地を捉えていた。
「やっぱり頼りになるな」
拓海がつぶやくと、水城が頷く。
「匂い追跡の速度は訓練された軍犬並みよ」
ほどなくして、ベジは海岸のような場所で足を止めた。
目の前には、黒い穴がいくつも口を開けている――まるで蟹の巣穴を拡大したような光景だ。
「ここか……」
慎重に中を覗き込むと、わずかな光の中に人影が見えた。
「……暁のメンバー!」
5人全員が倒れている。呼吸はあるが、意識はない。
皮膚には赤い斑点が浮かび、痺れが残っているようだ。
「毒で動けなくなったところを、ここに運ばれたんだな」拓海が呟く。
巣穴の奥には、無数の白い塊――カニの卵らしきものがびっしりと並んでいる。
「……子供のエサにするつもりだったんでしょうね」水城の声が低くなる。
「全員見つけた。……さっさと戻ろう」
拓海はスキル《ダンジョン内転移》を起動し、入口へ戻る座標を思い浮かべる。
――その瞬間だった。
ドスンッ!
背後の壁を突き破って、太い触腕が飛び出し、拓海の体をがっちりと巻き付いた。
「うおっ……!?」
視界に映ったのは、直径が人の胴ほどもある吸盤。
タコ――いや、モンスターだ。
水を干からびさせた報復か。
触腕は異常な力で締め付け、じりじりと巣穴の奥――水場の方へと引きずっていく。
(このまま水のある場所に運ばれたら……終わりだ)
必死にもがきながら、拓海は打開策を探した。
――ポケットの中に、何か硬い感触。
(……種だ!)
拓海は片手をねじ込み、種を握ると同時に《農家の慈愛》を発動。
一瞬で芽吹き、伸び、絡まり、触腕に沿って成長していく。
根は水分を求め、タコの体表へと食い込んでいった。
「グゥォオオオ……!」
モンスターが苦痛の声を上げ、触腕が緩む。
その隙を逃さず、拓海は身体を引き抜いた。
灰の舞う浅瀬に立ち上がると、残りの触腕も植物に絡まれて動きを封じられていた。
タコはそのまま水分を吸い尽くされ、しおれた海藻のように力を失っていく。
「……ふぅ。今度こそ戻るぞ」
暁のメンバーを肩に担ぎ、レイカと水城、そしてベジと共に、拓海は転移で地上へ戻った。




