第11話 農家、エイに刺される
5層に足を踏み入れた瞬間、拓海は思わず顔をしかめた。
「……火山灰?」
視界の上から、白とも灰色ともつかぬ細かい粒子が絶え間なく降り注いでいる。
足元はその灰が積もった砂浜で、わずかに湿って重く沈む。
海――というより、くるぶしまでの浅瀬がステージ全体に広がっていた。
「水辺ステージの亜種ってところね」水城が辺りを見回す。
「なるほど。灰が降ってるせいで通信機がジャミングされてるんだな」
拓海は腕時計型の通信端末を見せる。液晶には「NO SIGNAL」の無情な文字。
とはいえ、今のところ視界も悪くなく、進むのに支障はなさそうだ――そう、思った矢先だった。
「……ん?」
拓海の足首に、チクリとした痛みが走る。
「何かに刺されたか?」と視線を下げると、灰色の砂の中から、ヒラリと平たい影が舞い上がった。
それはエイのようなモンスターで、尻尾の先には鋭い毒針が光っていた。
普通なら危険な一撃だ。
だが、拓海には状態異常耐性がある。痺れも痛みも数秒で消える。
「……ふぅ、耐性なかったら終わってたな」
炎熱スキルを宿したスコップを握り、拓海は迷わず周囲の水面を薙ぎ払った。
ジュワッと音を立てて、足元の浅瀬が一瞬で白い蒸気に包まれる。
その中から、干からびたエイ、のたうつタコ型モンスター、脚をパタパタさせるカニ型モンスターが次々と姿を現した。
「……結構いるな」
水城が真顔で呟く。
「これ……毒で麻痺させてから、巣に引きずり込むタイプの狩り方かもしれないわね」
「ってことは、行方不明の連中も……」
拓海は唇を引き結ぶ。
「ベジ!」
呼ばれた白い犬は、ピンと耳を立てると、拓海の足元の干物たちをくんくん嗅ぎ、やがて鼻先を持ち上げた。
その瞳は、何かを確信したように前方をじっと見据えている。
「匂いで探せ。……頼むぞ」
ベジは一度低く吠え、灰の降る浅瀬を駆け出していった。




