第9話 農家、SSランクの海底迷宮へ
SSランクダンジョン攻略中に音信不通となったパーティ――それは「日本最強」と評される精鋭チームだった。
そんな彼らが連絡を絶ったとあれば、ただ事ではない。
「場所は稚内です。ここからおよそ三百キロ」
自衛隊の参謀が地図を広げて説明する。
拓海は試しにダンジョン間転移を使えないか考えたが、首を横に振った。
「……行ったことのないダンジョンは転移できない」
つまり、普通に行けば車でも数時間。だが、そんな悠長な時間はない。
そこで、水城が口を開いた。
「じゃあ、ベジの出番ね」
「へ?」拓海が間の抜けた声を出す間に、ベジはすでに影からスッと巨大化し、馬以上の体格に。
「……でっか」
「三人は余裕で乗れるわ。あんた、手綱よろしく」水城は当然のように拓海を押し上げ、レイカもひょいっと飛び乗る。
ベジが地面を蹴った瞬間、景色が弾け飛んだ。
「速っっ!!」
冷たい風が顔を切るように通り過ぎ、遠くの山もあっという間に背後に消えていく。
その速度、まさにAランクの戦闘能力を誇る獣の本領。
わずか15分で稚内のSSランクダンジョン前に到着した。
入口では待機していた部隊が、巨大な犬とその背に乗った三人を見て唖然とする。
「な、なんだあの生き物……」
「今はそんなこと言ってる場合じゃない!」
非常事態ゆえ、驚きはすぐに脇に置かれた。
拓海、水城、レイカ、そしてベジ。
四つの影が、迷わずダンジョン内部へと駆けていく。
ダンジョンは海沿いにあるため、内部はひんやりと湿り、壁や床は青く光る珊瑚や水草で覆われていた。
波の音のような低い響きが耳を包み、時折、天井からしずくが落ちる。
「……水系ダンジョンか」拓海はスコップを握りしめ、眉をひそめる。
炎熱スキルを操る自分には、最も相性の悪いタイプだ。
「まぁ、相性とか関係なくやるしかないわよね」水城が前方を見据える。
「拓海が居れば大丈夫でしょ!」と、相変わらず楽観的なレイカ。
水の匂いが濃くなる。
鬼が出るか、蛇が出るか――。
海底迷宮の奥で、何かが彼らを待っていた。




