第1話 農家、収穫で夢を見る
――秋晴れの空の下。
稲刈りも終わり、村はどこかのんびりとした空気に包まれている。
そんな中、俺――高山拓海は、スコップ片手に声を上げた。
「収穫だーーっ!」
稲刈りのあの日と同じく、胸いっぱいに農家魂を燃やしながら、ダンジョンでできた超巨大野菜の前に立つ。
ダンジョンの魔素を吸って育った作物は、どれも規格外。白菜は軽く子供の背丈を超え、大根は三人がかりでないと抜けないレベルだ。
これを市場に出せば……俺の脳内そろばんがシャキーンと弾かれる。
「よし、水城教官!こいつら、ぜーんぶ村の軽トラ総動員で――」
「ダメよ」
即答。しかも笑顔ゼロ。
「……は?」
「その土地は国の管理下。安全性が確認できていない作物は持ち出し禁止。協会が認可を出すまで収穫も販売もできません」
えー……。
脳内で数えていた百万円札が、パラパラと風に飛ばされていく映像が浮かんだ。
「そんな……これ全部売ったら村ごと豪邸暮らしできるのに……」
「ぷっ……」
隣でレイカが吹き出す。俺のがっくり姿を見て、わざわざ腹を抱えて笑いやがる。
「だってあんた、完全に悪徳商人の顔してたもの」
「いや、悪徳じゃない!ただの正当な農家の商売心だ!」
「同じことよ」
ちくしょう……。
「まあ、落ち込む必要はないわ」
水城教官が腕を組んで俺を見る。
「あんた、もうすぐ大金入るじゃない」
「……大金?」
「訓練所の座学で習ったでしょ? ダンジョンの攻略者には、攻略後の採掘利益の10%が報酬として支払われるの」
「あー……そういえばそんな話あったなぁ。で、ちなみに……いくらくらい?」
「水没期間が長かったから調査は遅れてたけど、本格的に採掘する前の段階でも……そうね、大体二〜三億ってところかしら」
「……え?」
「に……二億ぅ!?」
俺は耳を疑った。
横でレイカの目が、まるで新種の宝石でも見つけたかのようにキラキラと輝く。
「じゃあ、じゃあ! Cランクの竹山ダンジョンは!? あれっておいくら万円もらえるんですか!?」
食い気味に詰め寄るレイカ。
俺も興味津々で横目を送る。
「そうね……Cランクでしかもあなたの祖父母の土地なら、月二千万以上は固いんじゃないかしら」
「月二千万……!」
「月二千万……!」
俺とレイカの脳内に、同時に同じ妄想が広がる。
最新式のコンバイン、トラクター、冷暖房完備のビニールハウス、温泉付き農家宿泊施設……。
夢は無限に膨らんでいく。
「でも――」
水城教官の冷たい声が、妄想のバブルを針で突いた。
「二つとも、ダンジョンなくなっちゃったわよ?」
……。
俺とレイカは、同時に肩をがっくりと落とした。
頭の中で豪邸と温泉が煙のように消えていく。
「返せ……俺の温泉……」
「返せ……私のブランド竹林……」
秋空の下、二人の農家の夢は、音を立てて崩れ去った。




