第5話 農家、愛用のスコップを失う
黒いモヤが渦を巻き、塊となり——
それが四散するように晴れたとき、そこに立っていたのは竹だった。
ただの竹ではない。何百本もの竹が束ねられ、絡み合い、一本の巨大な人型を成している。
全高は十メートル。節だらけの腕を振り上げる姿は、まさにダンジョンの主にふさわしい威容だった。
「——私から行くわ!」
水城が駆け出す。武器は持たず、しなやかな身のこなしで一気に間合いへ。
放たれた拳が竹の胴を撃つ。打撃と同時に、目に見えぬ“封印”の衝撃が広がった。
その衝撃は竹の再生を阻害し、同時に毒やマヒなど複数の状態異常を叩き込む。
竹の束の一部が、乾いた音を立てて枯れていく。
だが——
「……効果が薄いわね」
枯れた部分は数秒で瑞々しい緑を取り戻す。まるで何事もなかったかのように。
「次は私!」レイカが魔法陣を展開する。
土の光がほとばしり、地面から現れたのは全高五メートルほどの岩石ゴーレムだ。
彼女の新スキル《召喚獣強化》により、岩肌がさらに硬質化し、両腕が大地を揺らす。
しかし、強烈な打撃も竹を数本へし折る程度で、再生の前では意味を成さない。
「……なら俺が行く!」
拓海が駆け出し、手にしたスコップを振り抜く。
一撃で竹の巨人の足を一本まとめて吹き飛ばす。
だが——やはり再生。切断面から新しい竹が伸び、数瞬で元通りだ。
そのとき、竹の巨人が動いた。
節くれ立った長腕がしなり、弾性を活かしてムチのようにうねる。
「——ヤバい!」
拓海は反射的にスコップを盾代わりに構えた。
衝撃が走る。金属が悲鳴を上げ、手に伝わる鈍痛と共に——
バキン、と無情な音。
「……マジかよ」
拓海の愛用スコップは、真ん中から無惨に折れていた。
再生する巨人。武器を失った拓海。
打撃は通らず、戦況は一気に不利へと傾いていく——。




