第9話 農家、封印解除
「くそっ、来るな――!」
叫びながら裏切り者4人は、全力で出口へと走っていく。
だが、その背中に突き刺さるのは、鋭い視線。
進化を終えた中ボスの狼と、レイカの召喚獣だった。
次の瞬間、二体は一斉に跳躍した。
「うわ――――っ!」
悲鳴と共に、骨が砕ける音、肉を裂く咀嚼音が広間に響く。
魔晶石の袋ごと噛み砕かれ、残りのCランク魔晶石がすべて飲み込まれた。
光が再び弾け、二体の影はさらに巨大化していく。
皮膚には黒い紋様が走り、周囲の空気が震えた。
「……これはもう、手がつけられない」
水城教官が唇を噛む。
Bランクの彼女ですら、火力は低い。
他の二人の教官はCランク、防御と補助が主体だ。
正式なパーティではない今、この暴走個体に致命傷を与える手段がなかった。
「生徒たちは逃げろ!」
水城が怒鳴ると、生徒たちは一斉に後退を始めた――
だが、拓海の目に映ったのは、地面に倒れたまま動かないレイカの姿だった。
「レイカ!」
駆け寄ると、彼女はぐったりと意識を失っている。
脈はあるが、額からは冷たい汗。
魔力の逆流――召喚獣の強制進化の反動だ。
「……くそ、このままじゃ置いて行けない」
抱えて逃げようとするが、封印された今の拓海では重すぎた。
そして何より――走れば、すぐにあの怪物たちの的になる。
拓海は決意を固め、水城の方へ叫んだ。
「教官! 封印を解除してください!」
水城が驚き、そしてすぐに険しい顔をする。
「……それしかないか」
他の教官たちも、短くうなずいた。
「時間がない。拓海、レイカをまず安全な場所へ」
拓海は頷き、ダンジョン内転移のスキルで、レイカを十数メートル離れた岩陰へ移動させる。
壁に隠すように寝かせ、その髪を一瞬だけ撫でると、すぐに戻った。
「教官、どうすれば?」
「服を脱ぎなさい」
「……は?」
「いいから早く! 接触面積が多いほど解除は早いの!」
半ば混乱しながらも上着を脱ぎかけた拓海だったが、次の瞬間、水城自身も防具を外し始めた。
「えっ!?」
「照れてる場合じゃない!」
緊迫した声と同時に、二人はほぼ半裸のまま抱き合う形になった。
背中や腕、胸板と胸元――肌と肌が密着するたび、拓海の体内で何かが解けていく感覚があった。
「……これで、あと三十秒……!」
だが、その猶予はあまりにも短かった。
戦っていた二人の教官のガードが破られ、中ボスと召喚獣が唸り声を上げながら突進してくる。
地面が割れ、岩片が飛び散る。
「もう間に合わない――!」
水城の瞳に、絶望の色がよぎったその瞬間。
轟音。
巨大な衝撃波と共に、中ボスと召喚獣の巨体が吹き飛ばされる。
二人の間に立つのは、解放された拓海――
その瞳は鋭く、封印前とは別人のような圧倒的な気配を放っていた。
「――もう、好きにはさせない」
次回、ダンジョン訓練ラストです。




