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帰る場所は

「お疲れ」


聞きなれた声が聞こえる。その声に導かれたように面を上げる。戻って来た。

ソーリャヴィシィスのもとに歩こうしたら視界が歪んだ。倒れる、と思ったら温かい何かに包まれた。ソーリャヴィシィスが倒れる前に鈴を受け止めた。


「……」

「成果は重畳。収束するのも時間の問題です」

「そうか」

「異邦人、礼を言います。感謝する」

「……い、え」

「用は済んだ。リン、帰るぞ」


身体が怠くて声を出すのも億劫だった。絞り出すように声を出し返事を返す。ソーリャヴィシィスの帰るぞの声とともに意識が途切れた。



 ☆ ★ ☆



意識が浮上する。微睡みのなか目を開けると高所から地面を眺めていて、恐怖から頭が急速に覚醒した。


「ひゃぁう」

「起きたか」


その声に振りかえ、れなかった。現在の場所、上空。ソーリャヴィシィスに抱えられて空を飛行中。


「私は……?」

「魔力切れだ。調子はどうだ」

「大丈夫です」


魔力切れは初めてなった。力が抜けて意識は徐々になくなっていった。


空は日が傾き日の入りの時刻が刻々と迫っていた。森の木々が夕暮れの日を浴びて葉がオレンジ色を纏っている。


「もう城に着く」

「……はい」


行きとは違って鈴に配慮しているのかスピードがゆったりしている。魔法で空気抵抗はなくしているのに。そんな事実に気が付いて、不器用な優しさに笑みが零れる。


寡黙で優しいソーリャヴィシィス。傷だらけの鈴を助け救い出しただけではなく惨状を知ってもなお保護してくれ、さらには養父になってくれた一国の王。血のつながりはないけれど、そこにはちゃんと家族の愛があった。


「私、お役に立ててよかったです」

「リンはすでに我らの役に立っている」

「それでも、です」


城が見えてきた。いつ見ても壮観な城構えに圧倒される。あの城に住んでいるっていう事実を外観を見るたび出来の良い夢なんじゃないかって考えてしまう。日本にいたときは城に住みたい、なんて思ったこともないけど。


今でも日本にいて、お父さんとお母さんと三人で暮らしている夢を見る。本当は異世界になんて来ていなくて、両親も死んでいないって全部全部夢なんじゃないかって自分にとって悪いところは見ないで気付かないで現実逃避をしている。でも夢から覚めると魔法が存在していて、人以外の種族がいる異世界で、これは現実なんだって目の当たりにされる。


それの繰り返しで、諦めのつかない自分に嫌気がさしている。現実を見ているのに現実を認めていない。そんな矛盾を抱えながら人の役に立とうと行動している。どこまでいっても中途半端。


でもそれはタースィーさんに相談していく内に区切りがついた。完全に切り離すことは出来ない。過去をすべて受け止めるにはまだまだ時間がかかりそう。鈴の心はそんなに強くできていない。


でも、それでいいじゃないか。


鈴は鈴なのだから。


完全に受け入れることは出来なかったけど折り合いをつけることは出来た。


妥協点を見つけた。


それも中途半端と言われたら否定はできないけれど。


今の鈴にはそれが最大限で精一杯だった。


あとは時間が解決してくれるのをここで、魔国で暮らしながら待つ。


子供だからと誤魔化して、甘えて、問題を先送りにする。


現実逃避だけど今までの逃げとは少し違って。


身も心も、大人になるまでは、今はまだ休ませて。



執務室のテラスに降り立った。そのころには既に日は沈み終わり月が顔を出していた。カーテンが閉められている窓を開ける。風にあおられてカーテンがたなびく。暗く明かりがついていない執務室に一気に光り輝く。暗順応が起こりぼやける視界に目を細める。


「「「リン(ちゃん)(さん)おかえりなさい!!」」」


誰もいないはずの部屋に突如みんなが現れ、口々に言葉を送られる。反応できず目を瞬かせながら、これでクラッカーがあったらサプライズパーティーだなぁ、なんて関係ないことに思考がそれる。


「みなさん、どうしたんですか……?」

「リンちゃんが大役を無事成し遂げて疲れて帰ってくると思ったから、こうして集まって待っていたのよ。普通に出迎えるのじゃ面白味がないから少し驚かせ要素を取り入れてみたの。どぉ?」


どうと言われて子供らしい発想になんと返せばいいのか、口を開くが適切な言葉が見当たらず何も言えずに口を閉ざす。


言い返されなかったことに気にせずに話続けるアンジェリカは鋼の心臓、いやそれよりも強固なダイヤモンドの心臓の持ち主だろう。実際そうでなければソーリャヴィシィスの妻にも魔国の王妃も務まらない。


「それよりも。わたくしまだリンちゃんに言われていないわ」

「……っ」


いつしか言わなくなった言葉がある。昔は毎日言っていたのに。誰もいない部屋に毎日声を掛けるのは辛くて。返されない声は、静まり返った暗闇がいっそう孤独をはっきり突きつけてくる。

幻聴でも聞こえてきたならばまだよかったのかもしれない。聞こえてきたらそれはそれで末期なのだが疲弊した心ではそれすらも気付かずにいられたはずだから。


頭では理解できている。それは心でも。此処が、皆の処が、帰る場所だって。両親の夢は見れど、ちゃんと分かっている。そうしたって薄情にはなりえないって。


もう、いいよね。


報いたい。強引だけど優しいこの人たちに。

救われてこうして不自由ない生活まで送らせてくれてその上親切にしてくれた。

返したい。恩返しなんていらない、気にしなくていいって言われても。

自己満足でもいい。これが自分で決めたことだから。


気恥ずかしいけれど心の底がホカホカと温まる。少し涙ぐみそうになるのを笑顔を作ることで誤魔化す。今なら無理に作らなくても自然と笑みが浮かぶ。あとは声が震えそうになるのを気をつけるだけでいい。



「ただいま……!」

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