エルフの里
大きく広がった森の手前でソーリャヴィシィスは降り立った。聖森には上空から侵入できないように結解が張られているかららしい。木で作られた門があり、その前にエルフが立っており鈴たちを見て笑顔で対応してくれた。
今はエルフが暮らしている集落に向かって移動しているのだが……、案内してくれているエルフの温かい眼差しを一身に浴びている。そう、ソーリャヴィシィスに抱えられて移動しているから。それも猛スピードで。
降り立ったときはちゃんと降ろしてもらえた。でも、浮遊感が抜けきらずに足に力が入らなくてフラフラしてストンと地面にへたり込んでしまった。そんな鈴を再び素早く抱えて移動を始めた。
最近は城内でも運ばれることがなくて久しぶりだから余計に羞恥が増す。両手で顔を隠している鈴にソーリャヴィシィスは「もとからリンを運ぶつもりだった」と言った。この移動を見たらそりゃそうだと納得はしたもののそれでも恥ずかしいものは恥ずかしい。
「さあ、着きましたよ」
「ここがエルフの集落……」
案内エルフもソーリャヴィシィスも呼吸の乱れも汗一つなく平常だ。凄い。
集落と呼ばれた場所には目立った建築物はなく大木が立ち並んでいた。その木々にドアや窓が付いていたり、秘密基地のように上の方に小屋のようなものが建てられている。至る所にカラフルな布がかけられているがそのどれも景観を損なわない、むしろより神聖さを醸し出していた。
中学でキャンプに行った森とは比べられないほどにマイナスイオンが溢れている感じがする。比喩ではなく空気が美味しいのが分かる。そして見渡す限りに精霊や妖精の光が漂っている。精霊は羽が生えた小人が薄く光って見えるけど妖精は丸い光にしか見えない。でも数が多い。さすが聖森だ。等身大サイズの人もエルフしか見当たらない。男女ともに顔が美しくて耳が尖っている。背丈が高く、中性的な容姿をしている。
「ベイサスさんみたいなエルフはいないんですか?」
ここにいるのは皆エルフらしいエルフ。ゲームやアニメで見るような姿形をしている。
「あれは特殊だ。そもそもエルフは、魔力が高いが筋力はない種族だ。すべてを魔法で補うから力などいらない」
「じゃあ、あのムッキムキなのは鍛えてああなったてことですか?」
「そうだ。ベイサスに限らずエルフは皆出身は聖森だ。ベイサスは異端児のような扱いで迫害などはなかったが遠巻きにされていたそうだ。小さいころに抜け出して魔国に流れ着いたと言っていた」
「そうだったんですね……」
「だからといって聖森を恨んでいるとかではないぞ。あいつの中ではすでに折り合いがつけていることだからな。少ないが理解者もいたようだ。だからそんな悲しそうな顔をしなくていい」
「……はい」
慰められてしまった。初対面でのときもさっきの説明のときも悲観的な感じも辛そうにもしていなかった。だからと言って自分とを切り離しているわけでも業務的に対応しているでもなく、ただそうと受け入れているように感じた。強いなぁ。
「こちらが現在の守護番の住処です。どうぞ中でお待ちになってください。すぐに守護番がお見えになると思います。では私はこれで失礼します」
案内された木の中に入ると想像より広い。中はそのまま木の内側をくり抜いたような感じ。家具も木で統一されている。ログハウスとはまた違った木造住宅みたい。木造っていうかまんま木だけど。
聖森の木は幹が茶色ではなくて翡翠色のような薄緑色をしている。中は白樺のように白色だ。
内装を物珍しさにキョロキョロ見てたらエルフの男性が入ってきた。
「お待ちしておりました、魔国王陛下。お初にお目にかかります、異邦人の少女。私は大聖樹の守護番、イラークと申します」
「初めまして、鈴と申します」
「昨日の今日で来ていただけるとは思ってもいませんでした」
「早い方がいいだろう」
「それはそうですが……まあ良いでしょう。では早速案内致します。異邦人の、お手を」
名乗りましたよね? 呼び名が異邦人って、間違ってはいないけど。なんだかなぁ。
ずっと張り付けた笑顔をしているから何を考えているのかが分からない。
「……私だけ、ですか?」
「ええ、大聖樹は通常行けるとこではありませんが今回は特別です」
チラリとソーリャヴィシィスを見上げる。鈴の視線に気付いたのか顔を向けて言葉を発さず頷いて頭を撫でた。……大丈夫ってことかな。
ソーリャヴィシィスに頷き返してイラークの差し出した手に自分の手を重ねる。
「行きましょうか。目を閉じていてください」
あれこれ転移陣と同じパターン!? それだと転移酔いが……。




