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いざ聖森へ

魔物襲撃事件から一夜明け、今日も執務室でお手伝いをしようと部屋に入るとーー。


「リン、出かけるぞ」

「えっ、またですか?」

「聖森に行く」

「聖森……?」


聖森は確か大聖樹がある森。いつもながら急ですね。毎回ですが何がどうなしてそんな地に行くことになっているのでしょうか。理由は言わないし皆目見当もつかない。


「何時に出るんですか?」

「今からだ」

「……今から」

「そうだ、準備は良いか」

「ないです。良くないです」

「何故だ? 別に持っていくものとかないぞ」


持ち物はなくても心の準備とか諸々必要なんです。せめて事前に言ってくれればいいのに、なぜこうも直前に……。


「魔の森を通るんですよね? なら第七騎士団に連絡とか……」

「飛んでいくから問題ない」

「飛ぶ……? 第六騎士団ですか?」

「我とリンだけで行くんだ」

「へ」

「我が抱えていく。安心して身を委ねろ」

「ええぇ……」


そういえば竜族なんでしたっけ。いつもは羽を仕舞っているから忘れてた。


「陛下、せめて訳は話すべきかと」

「空間の歪みを正すのにリンが必要だから聖森に行く」

「それで理解できるわけないでしょう……。すみませんリン殿、私から説明しますね」


嘆息したベイサスが額に手を当てて俯く。その表情から疲弊の色が見える。ベイサスはこの中では常識人の部類に入るために苦労人だ。


ベイサスの説明はこうだ。旧ブリカーラ王国が異邦人を召喚したときに空間の歪みが発生した。それにより魔空間との境界線が曖昧になっていて、魔物が凶暴になったり昨日のように普段は出現しない場所に魔物が出現するようになってしまった。それを解決するのに私の力が必要なのだと。


聖森に向かう理由、正確には聖森にある大聖樹が目的だ。大聖樹とは世界の理そのもの。そのため世界に何らかの異変が生じると大聖樹にもその影響が表れてしまう。その異変を正し大聖樹をもとの姿に戻すのが大聖樹の守護番という聖森に住まうエルフの中でも選ばれた者の役目だと。


その守護番が昨晩訪ねて来て鈴を指名したらしい。何故鈴がというと、守護番曰く、鈴には常人にはない特別な力がある。その力を使って欲しい。そして、強制的だったとしても関りがあるのだから後始末よろしく。


何とも理不尽……。


「そんな力が……私に?」

「イラーク殿はリン殿には秘めたる力が宿っていると言っておりました。あぁ、そんなに気負わなくても大丈夫ですよ。なにか起きたらいいなぐらいにしか思っていませんよ」

「…………そんな軽くで良いんですか」

「一つの策としてリンを使うだけだ」

「えぇ……」


本当に軽い……。まあでもちょっと安心したかも。行動一つで命運が委ねられているとか言われてもその重荷に耐えられないだろうし。実際そんな力があるだなんて思いもしていないし。


そう考えると異世界召喚系の主人公ってすごいな。ここに召喚されたときも王様は魔王どうこう言っていたけど、平和な日本から来て急に世界のために戦ってくれって言われても動ける気がしない。


「では行くぞ」


拒否権も選択肢すらなく行くのは確定事項とばかりに話が進められている。いや行きますけど。


抱えていくってことは竜の姿になって飛んでいくのかな。第六騎士団ではだいたい鳥人族が多く、獣化して籠を掴んで運んでくれてる。ドキドキしながらテラスに出ると、濃紺色の髪と同じ色をした翼が生やしていた。


「わぁ……」

「ほら、おいで」

「竜の姿じゃないんですか?」

「これで問題ない」


ソーリャヴィシィスに後ろから抱えられた。翼を羽ばたかせると宙に浮く。


「落としはしないがしっかり掴まっていろ」

「は、はい」


掴みどころがなく手を彷徨わせた末、お腹に巻かれている腕に両手を掴む。

いつもとは違う飛び方が新鮮で楽しい。風を全身で感じーー


「風がない……」

「魔法で我を中心に円形に膜を展開している。スピードを出すからその分空気抵抗も強くなるが、魔法で包んでいるからこうして会話も出来る」


そんな会話をしているとあっという間に聖森についてしまった。距離はあったけど空からだと一直線に進んでいるからショートカットもない。便利だな。


第六騎士団の方は配慮していたのかは定かではないけどスピードが全然違う。例えるなら騎士は普通電車でソーリャヴィシィスは新幹線ぐらいかな。体感の話だけどそれぐらい違った。

あとサービス精神でやっているのかアクロバット飛行を混ぜてくるのは純粋に辞めて欲しかった。ジェットコースターみたいだったけど足の踏ん張り場所がないから怖かった。クルクルクルクル回って三半規管が……。

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