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初めての街歩き

「リン、出掛けるぞ」

「へ」


朝食中に突然の外出宣言。何故いつもこう突然なんですか。


「魔国に来て体調が戻ってからずっと働いてばかりじゃない。遊びにも行かないで。オルガに着いて外に行っているけど治療してすぐ帰って来ているのは知っているのよ」

「いえそんな……皆さんが良くしてくれますし、毎日が楽しいです」

「街に行ったことないだろう」

「それは、そうですが……」

「今日はめいっぱいおめかしして行きましょうね」


拒否権はないようです。いつものことですが。



「な、なんで」

「よう、嬢ちゃん。今日はよろしくな」


城門に行くとフェルアスが立っていた。そういえばいつも空から城を出ているからこうやって歩いて外に出るのは初めてだ。あっ、フェルアスさんの格好、騎士服じゃなくてラフな格好をしている。変わらず帯剣はしていますが。似合っていてカッコイイなぁ。……はい、現実逃避しています。分かっていますよ。

なんでフェルアスさんがいるんですか!?


「リンちゃんの護衛よ」

「我だけでも十分なのだがな」

「護衛……」

「街の治安はいいのよ。でもリンちゃんは可愛いから変な虫がつかないか心配なのよ」

「虫……ですか?」


この世界に来てから虫は見たことないけど、と首を傾げると何故か三人から生暖かい目が向けられる。

アンジェリカがスススーっと鈴に近寄ってきて囁く。


「この機会に親交を深めちゃいなさい」

「!」


まさか……という思いでアンジェリカを見るとウインクとサムズアップした。はい、確信犯です。おめかししましょうねって珍しく今日着る服をアンジェリカが直々に用意していたのはこのためかと今さら察した。

頭を抱えたくなったのを堪えて、だがうんうん唸っているとフェルアスがいつの間にか鈴の前に来ていた。


「嬢ちゃん、他のやつが護衛の方が良かったか?」

「え」

「さっきから眉を寄せているからオレが護衛なのが嫌なのかと思ってな」

「い、嫌じゃ、ない……です」

「そうか? じゃ、今日はよろしくな」

「はい、よろしくお願いします」


頭を下げると笑って頭を撫でられた。至近距離でフェルアスの笑顔が見てしまい、その笑顔がすごくカッコよくて、顔が赤くなるのが分かる。


「リン、欲しい物があったら言え」


言ったら全部買われそう。庶民の鈴は金銭感覚がしっかりしているから欲しい物は全部買うという感覚は馴染めない。気をつけようと心の中で意気込んだ。


大通りを四人でゆっくりと歩きながらウィンドウショッピングを楽しむ。屋台から香るいい匂いや元気に客引きする大きな声。トルソーに着せた服が大通りから見える位置に置かれている。可愛い雑貨やキレイな宝石が並んでるお洒落な店が目を引く。お店の外観も華やかでテンションが上がる。


大通りは広い街道が整備されていて歩きやすい。日本のようにアスファルトではなくて石畳だけど。道を埋めるほどの人がごった返していてテレビで見た東京の交差点を連想する。これは店に気をやっているとたちまち迷子になりそう。


それにしても本当に色んな種族の方がいる。人や獣人、角が生えている人に羽が生えている人。あの小さく光って見えるのが妖精さんですかね。獣人さんも人によっては耳や尻尾の形が違うので種族が違うのでしょう。


見えるもの全てが新鮮で目移りしてしまいます。ついキョロキョロと物珍しく見ていると手が引かれた。


「興味津々なのはいいけど危ないから前も見ような」

「す、すみません。……あの、手を」

「迷子になっちまいそうだから繋いじまったが、嫌なら言ってくれ」

「いえ、お世話かけます」


フェルアスさんの手、すごく大きい。私の手がすっぽり隠れるほどに。それに剣ダコでゴツゴツしていてまさに男の手って感じがする。当たり前だけど私の手と全然違う。うう、手汗が出てないか気になってきた。


ソーリャヴィシィスとアンジェリカは早々に二人でどこかに行ってしまった。


「あの店が気になるか?」

「はい、見てもいいですか?」

「もちろん」


入ったのはガラス細工の店。ガラスで作られたペンやコップ、髪飾りなどが並べられている。しかもガラスは色つきで繊巧な模様が細かく入っていてとても美しい。店の照明の光がキラキラ反射していて輝いているみたい。


「わぁ……!」


宝石箱の中に入ったみたいで。あっちこっちに魅入る。


忙しなく店内を歩き回る鈴は一つのガラス細工を目にし、動きを止めた。薔薇の形に削られた赤い硝子がついたバレッタ。花びらの一枚一枚まで細かく作られていてとてもキレイ。


「それが欲しいのか?」

「あっ、いえ、目に止まっただけです。その、とても綺麗で」

「ふーん」


欲しいとかじゃなくて目に止まっただけ。見ているだけで十分だから間違ったことは言っていない。どれもこれも美しい出来栄えだけど、そのバレッタは鈴には格別で目を引いた。


そして気付いた。鈴は一銭もお金を持っていない。ウラルから金銭の説明すら受けていない。何故自分でも不思議に思わなかったのかというほどすっかり頭から抜けていた。確かに城内ではなんでも用意される環境だった。というか心を読まれているのかと思うほどタイミングよく用意がなされる。


それにしても街に行くのにお金の存在を忘れるってと呆然とする。そんな事実に落ち込みはしたがもともと何かを購入するつもりはなかった。鈴は物欲が少ないし、日本でも娯楽やアクセサリーに金をかける方ではなかった。


店内をあらかた見て回ったので外に出るためフェルアスに声をかけようと振り返ると、目の前にいたので驚き思わず一歩後ずさる。鈴の様子に気にも留めずにフェルアスは鈴に近づく。その無骨な手が鈴の髪に触れる。


「ちっと動かんでな。……ん、出来た」


パチンと右耳から音が聞こえる。近くに置いてある鏡を覗いてみるとそこには、先程眺めていた赤い薔薇のバレッタが付けられていた。


「えっ、コレ……」

「似合ってる」

「いえあのっ、こんな……」

「せっかく街に来たんだ、なにか買ったっていいだろ。嬢ちゃんが気に入ったもんがありゃあ全部買っとけって陛下からお達しがあるし、嫌じゃなけりゃ貰ってくれや」

「……はい、ありがとうございます」


フェルアスさんの目をしっかりと見上げてお礼を言うとホッとしたように笑って頭を撫でられた。その笑顔がとても嬉しそうで、直視した目が潰れると思うほどに破壊力が高かった。変な声が漏れそうになるのを堪えるのがとても大変だった。

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