好みのタイプ
あの日、結局鈴は転移酔いに襲われた。一回目よりマシになったとかなかった。ウラルさんからは緊急時以外は使うのを控えた方がいいかしらねと言われた。それには全面的に賛成した。わざわざあの不快感を何度も体験したいとかないから。被虐趣味はないですし。
最近では執務室での書類整理の手伝いを買ってでている。今の鈴の行動範囲は執務室、図書室、アンジェリカの部屋と狭いが迷わず辿り着けるようになった。執務室で手伝いか本を読み、ウラルさんの時間が取れたら勉強や魔法の練習をしている。オルガさんの弟子にしてもらって救助要請があったらついていくようになった。転移陣は使用しないで移動は第六騎士団の人に運んでもらっている。空を飛ぶのは楽しくて気持ちいい。
今日も書類整理に精を出しているとノックがかかる。執務室に訪れる人は意外なことに多い。
失礼します、と入って来たのは赤い短髪の大きな男の人だった。騎士服の上からでも筋肉が盛り上がっているのが見える。
「巨人……」
「期待に沿えずすまんな嬢ちゃん、オレはヒト族なんだ」
「あ、すみません……」
ボソリと呟いた言葉に男の人が反応した。笑って返されたので機嫌を悪くしていないようで安心した。
「巨人族は3mはあるわよ」
「3m……」
こそりとウラルさんが教えてくれた。いるんですね、巨人族。
「各地で魔物が活性化されており被害届が倍増しています。人家の近くでも魔空間が発生しているそうです。騎士団内でも巡回を強化したりと対策をしており幸い、人的被害は未だありませんが凶暴な魔物が民を襲うのも時間の問題かと予想しております」
「原因は」
「ウラル殿や影部隊とも連携をとって調査中ですが未だ原因判明には至っておりません。第七騎士団の被害が徐々に増えてきていますが巡回強化に伴い第七騎士団に送る団員を抽出できずにおります」
「そうか、引き続き調査を続けろ。第七騎士団については対策を講じる」
「はっ」
報告を終えた大男は退室する前に鈴の方を向いた。
「自己紹介がまだだったな。オレは第一騎士団団長のフェルアスだ。よろしくな、嬢ちゃん」
「私は鈴と言います。よろしくお願いします」
「それで、オレに何か聞きたいことでもあるのか?」
「えっ、いえ……」
「そうか? 熱心に見つめられていたからてっきり何か聞きたいことがあるのかと思ったがオレの思い違いだったか」
「っ!」
フェルアスさんが執務室に入ってからずっと見つめていたのがバレている。後ろに目でもついているの。書類整理をしている風を装ってチラチラと横目でフェルアスさんのことを見ていましたが気付かれていたとは。フェルアスさんに言いたいことがあるんじゃなくてただただ見惚れていただけなんですよね。
好みのタイプど真ん中だから。
逞しく屈強な身体つきでそれに見合う大柄な体格。一つ一つの筋肉がデコボコと隆起しているのではなく程よくがっちりとした筋肉。無精髭は生えていないがそれが見合いそうな精悍な顔つき。短く刈り上げた短髪がまたいい。寡黙な雰囲気ながらも話しかけるときに怖がらせないためか目尻が少し垂れているのが温和な感じを醸し出している。それにがっつりときめいた。
そしてなんといっても推しに似ている。忙しい生活をしているなかやっていたソーシャルゲームの推しに途轍もなく似ているのだ。もちろん別人だと理解はしている。だがまさに本物が目の前にいるかのようで、しっかりと目に焼き付けないわけにはいかない。だからつい視線がいってしまうのは仕方がないことだ。
はっ、見た瞬間に巨人なんて言ってしまった。あぁ、第一印象最悪だぁ。どうしよう、泣きそう。
フェルアスさんが退室すると思わずため息が零れた。
「リン、ちょぉっとワタシとお話ししない」
「えっ」
「陛下、少々リンちゃんを借りますわ」
「何故だ」
「借りますわぁ。さあリン行きましょォ」
強引に鈴を執務室から連れ出したウラルはそのまま腕を掴みながら歩き出す。どこに行くのか尋ねても答えてくれない。それにしても有無を言わさない物言いに反論を黙殺する笑顔。一番に怒らせていけないのはウラルさんだよね。
「ウラルです。今よろしいでしょうか」
「ええ、いいわよ。あら、リンちゃんも一緒なの」
ノックをして入ったのはアンジェリカの部屋。どうしてママの部屋に。
「それで、あなたがここに来るなんて珍しいわね。何かあったんでしょう」
「もちろんです。今から女子会をしませんか」
「……ええ、分かったわ。すぐに準備させるわね」
何かを察したのか眼を輝かせていそいそとメイドに指示を送る。
「ヨルも参加するの?」
いつの間にか部屋に居たヨルさんは頷き肯定を示した。
着々と準備が進められていくのに展開が付いていけず首を傾げる。どうやら今から女子会が始まるそうですよ。さっき決まったことなのにもうテーブルの上には四人分の茶器や菓子が置かれている。いつもながら準備が早いですよね。早業過ぎて感心超えてもはや恐ろしいレベル。




